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仕事の年報2014年度版

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    JUGEMテーマ:博物館

     

    消えていいのか、日本の動物園・水族館。これは日本動物園水族館協会が2013年に行ったシンポジウム「いのちの博物館の実現に向けて」のサブタイトルである。以後、このシンポジウムは2015年2月まで計6回が開催されてきた。これまで当然としていた遠い地域のめずらしい動物を展示することが、今後はできなくなるかも知れない。このままでは動物園も水族館も絶滅するという強い問題意識が現れている。遠からずゾウやキリンがいなくなるのだという。水族館ではラッコが危機的状況にある。1982年に国内で初めて飼育されてから30年余り、1990年代には120頭以上が飼育されていたが、2014年には約30頭となった。何より危機的なのは繁殖年齢メスが一桁という数字である。ラッコが分布するアメリカやロシアからの輸入は止まったままで、いずれ国内からラッコは姿を消すことになるという。


    野生動物の保護を求める声の高まりとともに、野生生物の輸出入を規制する国際条約が締結され、稀少な生き物を国外に持ち出すことを禁じた法整備も各国で進んでいる。法律上の問題はなくとも、市民運動や住民の力の行使により、野生動物が持ち出せない状況さえ生まれている。生物多様性の保全、地域の自然の保護からすれば喜ばしいことに違いない。財力にものを言わせて珍獣を見世物にする時代は、先進国では完全に終わったのである。ただし新興国ではいまだに需用が増えており、人気のある大型獣は市場価格が高騰、国内の公立動物園では手が出ない価格になっている。


    危機は海外からの動物の入手だけでなく、飼育自体に及んでいる。動物園は、本来群れで生きる動物を少数で飼うことの是非について答えを出さなければならない。娯楽や教育、研究を経て究極的には生息地と個体群を守る技術と政策を生み出す必要悪と答えるのか、生息地まで出掛けていって野生個体を見て楽しむのは一部の富裕層であり、大衆の楽しみには動物園が必要だと答えるのか。それとも飼育適合種を絞り込む方向に向かうのか。すでに地元のちいさな生き物へと、展示をシフトする動きもある。釣りや遊びで親しんだ地域の生き物を見直し、世代間の知識や文化の受け継ぎも含んだ試みである。身近な生物でも実は絶滅の恐れにあることも多く、生息地以外での保存の役割も持ち、奨励される飼育と考えられる。


    倫理的な条件が重視されるのは動物園に限らない。研究機関で使う実験動物も、適切な飼育環境と苦痛の軽減が法令上の条件となっている。動物の福祉はエキセントリックな過激思想ではなく、もはや国際基準である。数十年後の動物園や水族館の将来の姿は、現在とは異なる様子になっているはずである。その形は、これから活躍する若者が決めていく。子どもの頃の思い出を胸に就職を思い描くのではなく、新しい人と動物の関係を作る仕事が待っている。

     


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