JUGEMテーマ:博物館
文化審議会第4期博物館部会(第4回)傍聴メモ
2023年2月13日1600–1730
部会開催の案内 https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/93830301.html
本日の資料 第4回博物館部会資料一式 https://www.dropbox.com/s/p0qyz578x9e4egr/4th_muse_papers.pdf?dl=0
1604に入室
1604 佐々木委員:DXについて説明
1.国内外の動向 省略
2.現状と課題
実施が1/4、8割がICT、ウェブサイト、目録デジタルできてない、目録公開12%。登録と指定施設は著作権の優遇の対象になっていることが知られていなかったり、正しく理解されていない。
3.重要性
利用者の期待はある
4.意義
収蔵品情報があることが基盤、他館との連携、学校連携、GIGAスクール構想の1人1台タブレットも知られている。授業での利用ではデジタルアーカイブなど重要。大学大学院との教育活動との連動も大切、人材育成にもつながる。リアルとバーチャルを融合した鑑賞体験の多様化、来館を前提としない利用者の増加も論点。
業務効率化、博物館資料の公共化、いつでも・どこでも・何度でも。
5.役割
現場レベルと設置者レベル、での取り組み。DXの大前提として、基礎的な条件整備も課題という声も聞こえるので設置者による条件整備も課題。
ジャパンサーチなど国レベルのプラットフォームにつないでいくことも論点。過剰な権利制限も存在する、妥当な点を見極める必要性。著作権は公開共有に変わってきている、これへのキャッチアップも必要。
博物館の枠を超えた連携が必要、都道府県で拠点施設などの相談窓口の開設。
大学との協力関係も検討課題。
国レベル データ収集の標準化、ガイドラインや手引きの整備、専門人材の配置養成、著作権の指針明示、国としての支援策の必要性
6.権利処理等
ガイドラインやQ&Aが必要
1623 事務局司会:意見交換をおこないたい
半田委員:時間の無いなかで細々したところまでまとめていただいた。感想とコメントを述べる。著作権については登録制度のメリットとしてあまり語られなかったが、著作権法の図書館「等」に含まれるのは登録と指定、個別認定館に限られる。類似館は権利制限から外れることが理解されていない。この部分の周知を図ることが必要。博物館活動自体のアーカイブが重要であり、DXのなかで取り組んでいってほしい。ユネスコのなかでデジタル化の促進が強調されている。デジタル化を進めることがオリジナル情報の保存に取って代わるべき物ではないこと、車の両輪であることは念押ししておくべき。設置者が理解して投資することが必要であり、ガバメント層が理解してマネジメント層がリーダーシップを取ることが必要。これを進めるために今の業務を犠牲にするのでは本末転倒である。基本機能を充実した結果、デジタル化が進むという方針、基本が理解されるべき。
1629 事務局:最後の部分はおっしゃるとおり、設置者にアピールするのは誰なのか、学芸員か文化庁か明確にする必要がある。文化庁がデジタル化して便利になった部分があるので、それをアピールすることが重要と思う。
1630 事務局司会:新規予算を説明されたい
1631 事務局:予算の説明。InnovateMUSEUMのMuseumDXの推進が1億円の要求になっている。[中略]取り組みの例として、デジタルアーカイブ化の推進と公開、DXの人材育成と学芸員の業務負担の軽減をはかっていく。
1633 事務局:改正博物館法施行に係る説明。パブリックコメントをした、2月7日に閣議決定した。[声が小さく途切れがちで聞き取れず]。施行規則における規定事項、ごにょごにょ[完全に途切れる]19条に[わからん]4ページの説明。学芸員になる経路の説明。養成課程が増えたので将来的に試験認定は回数を減らすと言っている。参酌基準。
1642 事務局:その他として予算と税制、研修について
1642 事務局:我々に関係があるのは博物館機能強化推進事業。1ページの説明。税制(4ページ)、登録経費が交付税で措置されることになった。研修(7ページ)事務系職員向けに「文化をつなぐミュージアム研修」を新設した。今月末にパブリックリレーション研修を実施する。
1648 事務局:要望が通らなかったものもあることを理解している。[聞き取れず、交付税措置か]意義深いこと。
1649 事務局司会:来年度の検討事項の説明を
1649 事務局:来年度の博物館部会の検討事項は、望ましい基準のあり方、中長期的な博物館のあり方、学芸員制度のあり方。基準のあり方は、博物館の理想的なあり方の基準を定めたもの。閉館したときの資料の保存[?]ではネットワークが大事と言われている。デジタル化社会に向けた事業などの盛り込み方も議論してほしい。10年間改定がないので、現在に合わせた検討をしていきたい。DXでいえば、「各館に求められる機能(案)」、目録のデジタル化や公開も「望ましい」として基準に盛り込むなど。細かく決めても博物館全体となると資料の量も質も扱いも様々なので、基準で明確にした方がよいのかどうかということも議論されたい。強制ではなく望ましい、という意味で。一定の基準を国が示して、設置者に要請する、設置者が認識できることが基準の示し方として必要と考える。
学芸員制度も2年間議論して学術会議の提言をもらい、他の団体からも提言をもらったが、集約が難しく、今年度の部会ではまとめきれず載せられなかった。博物館の職員[?]は学芸業務についていただくと見直した。研修の充実として様々な専門職員の資質向上として研修が必要と提言された。資格要件の見直しは必要である。それに加えて資質向上策も議論したい。大学とも連携してされなる資質向上策を議論したい。他の省庁の認定制度も参考になると考えている。認定社会福祉士などがある。これについては文化庁が先導するというより、委員先生からの意見をいただければ今後検討していきたい。学芸員補の資格要件の見直しをしているので、きめ細かく伝えていきたい。
1702 事務局司会:委員の方からご意見をいただきたい
浜田委員:引き続き学芸員制度のあり方が議論できると知って安心した。施行規則で確認だが、パブコメが12月27日に出されて1月11日に締め切りだと、大学が冬休みで議論できなかった。官公庁や企業でも論議する時間がなかったと思う。どうしてその時期になったのか説明いただきたい。部会は夏から半年なかったが、開けなかったのか。認定試験が2年に1回になったのは答えが用意されていてわかった。他方、試験認定では専門科目が削除されたが、養成課程からすれば大きな問題である。というのは、ほとんどの大学で任意科目を設けてきた。その根拠として試験認定の科目構成を用いてきたが、今後はどうすればよいかご助言いただきたい。
事務局:パブコメ 規定上は1ヶ月だが、十分説明した場合は2週間程度でできるとされている。年末年始がダメとはいわれていない。過去に文化芸術基本計画を年末年始に意見収集したこともある。80県以上の意見が寄せられており、報告もきちっとしたので問題ないと考えている。
事務局:試験科目 選択科目の削除は9科目19単位はしっかりやっていきたい。養成課程は300大学あり、試験認定は極めて補助的であり1%に満たないため2年に1回にした。選択科目の設定は大学の任意である。博物館も多様であり、DX化も進んでいる。この状況は大学で受け止め、科目設定は大学が考えて欲しい。研修を充実することで資質向上に努めたい。
浜田:わかった。学芸員制度の論議のなかで深めていきたい。
事務局:博物館部会が半年なかった、5,6,7月と開催されその後なかったのは、7月の時点で議論がある程度されたと受け止め、8月税制議論、9-10月に関係省庁と議論して文化庁案が決まって、それで示したという認識である。
半田委員:7月の部会で学芸員の資格認定の資料が出され審査認定の問題と試験科目について検討することは部会で承認された。資格を失うことが出ないように配慮することが必要と記憶している。パブコメに至るまでに全博協と協議したのか気になっている。全博協から懸念が示されたのはコミュニケーション不足と見る。信頼関係にも関わるという感想である。日博協が文化庁受託事業で説明会を開いた、都道府県から心配が寄せられている。都道府県が独自に基準を作るとなると、温度差や差異を埋めることが必要になる。国として地方自治に踏み込めないところは業界としてリサーチしてフォローする必要を感じている。審査にあたる有識者について、現状の都道府県の既存リストが、大学の考古学や歴史学が多いという声を聞く。現場の実務経験者やをリスト化する拡充を図って欲しい。
事務局:学芸員資格は基本大学で資格取得している。2年に1回に賛成する意見もあった。放送大学や通信制大学でもとれるなど代替手段もある。7月以降に反応もなかったことから今回の案に示した。日博協や学会長に案を示していく[全博協について言及なし]。都道府県からは明確な基準を示して欲しいという声を聞く。博物館は登録は自治事務とされている。これに対して国が細かい基準を作るのはおかしい。実質的な中身で判断するということである。従来[昔]の数値基準は廃止した。有識者の人数や経験の縛りはない。都道府県や指定都市の判断によるものである。動物園や水族館、植物園に関しては日博協の資料で対応するなど、柔軟に考えていくことは都道府県指定都市に期待している。
1723 事務局司会:時間となりましたので本日の議論はここまでとします。
1724 閉会
感想:
1)DXは、えらい力が入っている。お金が付くのだろう。そのお金は博物館をパイプに情報関連産業に流れるのだろう。これは悪いことではない。博物館は実業界との接点が少なかったが、今後は情報関連産業が業界団体となって一緒に歩んでいけるのかも知れない。
2)試験認定の隔年実施はいただけない。養成課程が充実したからとの説明だが、学芸員養成課程を履修したとしても単位を落とすかも知れない。そのまま卒業した場合、不足の単位を試験で回収するのが2年先となると就職や将来設計に影響してします。
3)登録は自治事務だから国は立ち入らず、地方公共団体の自主性に任せる、というのは自分の頭ではどう考えてもおかしい。それに都道府県指定都市で約70の団体が職員の時間と労力を掛けて同じような議論をして似たような基準を作るのは、無駄な作業に思う。事業化に先立ち計画が必要とされるシステムみたい。どっかに投げてそこが下請けに出して中抜きして儲けるパターンなのか。
4)事務局は全国大学博物館学講座協議会(全博協)を認識しているのだろうか。最後の回答で言及がなかったと記憶する。これは全博協にも問題がある。ウェブサイトを持たず、外部への情報公開が皆無に近い。いまどきネット情報が無い=存在しないなのだから。
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21時に追記:ツイッターで五月雨式に書いた博物館法施行規則の改正について思うことをまとめました。今回の省令改正は博物館関係者が望んでいたことが多数盛り込まれていると考えます
1.概要
1)参照URLと期日
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001278&Mode=0
2023-1-11必着
2)おもな改正点
?学芸員補の資格(18条)
?登録基準(19–21条)
?相当施設の指定取消の規定(23–27条)
2.おもな改正点の内容
1)学芸員補の資格(18条)
資格要件を大学2年以上の在籍(=短大卒以上)と明記し、高卒者を排除したこと。これは博物館法6条の改正を詳細にしたもの。旧法では学芸員補の資格は「大学に入学することのできる者」としていた。加えて、法では具体的でなかった外国での高校卒業要件を学校教育法施行規則155条2を参照して明確化した。
2)登録基準(19–21条)
登録基準については、旧法では外形的内容に限定されていたところを事業や活動に踏み込んでいる。19条では事業を進める体制とは何かを定め、20条で館長に必要な能力や学芸員以外の職員の内容を一定程度明記、21条は施設の要件を明示している。
ここの改正内容は議論があるだろう。個人的には19条で調査研究に関して「博物館資料に関する調査研究」と明確に限定している点が気になる。博物館法では2条で「併せてこれらの資料に関する調査研究」となっていて、前の文章からは「資料」は収集対象となる事物と読める。この点は博物館の研究の論点となってきたと思うが、今回の改正による登録基準は「博物館資料」と明確に限定している。
3)相当施設の指定取消の規定(23–27条)
相当施設の指定基準を都道府県や指定都市の教育委員会が定めると明記している。条文をそのまま読めば、指定基準が自治体によって異なる可能性が出現することになる。現実には文部科学省が示した内容を踏襲するだろうが、わからない。都道府県や指定都市の独自性が発揮され、よい意味での競争が生じるのかも知れない。
施行規則24条2項で指定施設では19条の「博物館資料」を「資料」と読み替えるのは議論の対象に思える。指定施設の調査研究の対象は博物館資料に限定されない「資料」であり、専門職員も「学芸員に相当する職員」である。つまり、指定施設を選択した場合、調査研究は収蔵資料に限定されず、専門職員も学芸員資格を持たない研究者や技術者でもかまわない。博物館法から外れて事業や活動の自由度が広がると解釈することもできる。あえて指定施設を選択する博物館が出てくるかも知れない。
3.上記3分野の改正内容とコメントしたい内容
1)学芸員補の資格
前述のとおり、学芸員補の資格要件を大学2年以上の在籍で62単位以上を習得したものと明記して、短大を強く意識した内容となった。高卒者は学芸員補の資格要件から外れたが、第5条の試験認定の受験資格が条件付きで残された。条件とは、博物館資料に関する実務経験4年。専門学校卒業者が多い動物園や水族館の飼育員から学芸員への経路を明確にしたものと読んだ。
全体的には現実の需要に即した内容と考えるが、1つ問題がある。それは4条で資格認定の試験実施を「少なくとも2年に1回」としたこと。現状では、毎年少なくとも1回。
パブコメの意見多数で現状に戻したい。
2)登録基準
第3章の登録への参酌すべき基準として、最初に置かれているのが「博物館の体制」。これは画期的と評価したい。自分は博物館法の改正内容では見えていなかった。体制の中身は条文ごとに下のようにまとめてみた。
19条は体制。博物館資料の収集保管展示と博物館資料の調査研究に関わる、?基本的運営方針とその実施体制、?資料の収集管理の方針と体系的収集体制、?目録の作成と資料の管理と活用の体制、?所蔵資料の展示[=常設展]と借用資料での展示[=特別展]の実施体制、?単独または共同での博物館資料に関する調査研究と成果活用の体制、?学習機会の提供や教育活動の体制、?研修に職員が参加する機会が確保されていること、となっています。?が注目。
20条は職員。?基本的運営方針に基づいて管理運営ができる館長、?学芸員、?基本的運営方針に基づく運営に必要な職員、となっている。これもすごい。館長に能力を求め、学芸員以外の専門職員の配置を促している。東海道新幹線のスピードアップにはこだまの速度向上が必要みたいな。
21条は設備。?博物館資料の収集保管展示ならびに博物館資料に関する調査研究を安定して継続できる施設設備、?防災防犯のための施設設備、?利用者の安全と利便性確保に必要な配慮、?高齢者・障害者・妊婦・外国人や手話使用者・その他の利用困難者への配慮、と防災と多様な状況への配慮を求める。自然災害や防災を意識した事項がトップで、文化財レスキューで目標にした「安定」という文字に目が行く。
多くの博物館関係者が求めていた内容が反映されているように思う。どうしても気になるのが、調査研究を「博物館資料」と限定している点。「所在地又はその周辺にある文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)の適用を受ける文化財」や自然史系の野外調査に必要な施設や設備は登録には不要ということか。理想的な条件にするとハードルが高すぎて登録の回避につながるかも知れず、かといって最低限では実際に必要な設備に予算が措置されないかも知れず、頃合いが難しい。今回の施行規則の改正案によって、博物館法4条4の「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」の読み方が明確になった。「博物館資料」は「調査研究」にまで掛かる。学芸員の調査研究で法に明記されたのは「博物館資料」ということだ。それ以外への手出しについて禁止はされていないが。
コメントするなら「博物館資料」を「博物館資料等」に変更する、だ。これを放置すると、厳格な解釈によって学芸員の仕事が「博物館資料」に限定する管理者や現場責任者が現れるから。今でも実在するのだから。
3)相当施設
この部分、第5章は法律特有の読みにくい文章で取っつきにくい。23条は手続き、国や独法は文部科学大臣、それ以外は教育委員会というもの。「その他指定を行う者が定める事項」という項目があり、自治体の独自性発揮の機会が与えられている。25–26条は条件を満たさなくなった場合の報告と文部科学大臣や教育委員会による報告の請求。27条は指定の取り消し。議論すべき内容は24条。
24条は審査要件で、?登録や指定の取り消しから2年未満は不可、?資料の収集保管展示および資料に関する調査研究の体制、?職員の配置、?施設と設備、について文部科学大臣や教育委員会の定める基準に適合することを求めている。都道府県や指定都市が独自性を打ち出すことも可能だ。関連して、2項では登録基準を定めた19–21条の「博物館資料」を「資料」とすると明記している。
コメントするなら、文部科学大臣の定める基準を迅速に示すように求めるくらい。
4.上記以外の注意点
将来課題であるが、おもに小規模自治体を想定しての博物館の自治体共同設置、学校教員のように学芸員の都道府県や指定都市での任用、が残されている。このような職員の身分や任用について、博物館法改正では議論されずに置かれたままである。次回の改正の目標とするのが正当だが、今回の施行規則の改正で風穴を開ける方法を探すことも考えたい。
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本日1月28日(金)にZoom開催された日本博物館協会緊急フォーラム「文化審議会答申『博物館法制度の今後の在り方』を読み解く」の視聴と関係するツイートを読んで、博物館の短期的未来について思ったことを記します。余談ですが、文化庁の担当者も出席して質問に答えていましたが、公開の場で言質を取るような問いにはまともに答えることはないと思っています。
1)国立大学からの類推
国による博物館の扱いを国立大学に習って想像すると、その未来のひとつは類型分け。A:ナショナルセンター、B:リーディングミュージアム、C:県域的文化施設、D:地域的社会教育機関。それから、旧来とは異なるランク付けが考えられる。指定博物館、スーパーグローバルミュージアムなど。博物館も登録相当類似にかかわらず、実際の活動状況からランク付けや活動内容の誘導があってもおかしくない。考えるべきは、施設としての博物館と学芸員は必ずしも一心同体である必要はないことだ。複数の博物館を掛け持ちする学芸員、非常勤学芸員だけの社会教育施設、学芸員がいない展示施設など、博物館の展開策は多様だと考える。
2)後出し法による支援や整備
音楽ホールや劇場を直接規定した法律はない。バブル期には隣り合う自治体が似たようなホールを建設して批判を浴び、現在では閑古鳥が鳴く施設も目立つようになった。そこで登場したのが、「劇場,音楽堂等の活性化に関する法律」である。無秩序に増加した施設のなかから見込みあるものを探しだし集中的に支援する。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/geijutsu_bunka/gekijo_ongakudo/
結局は競争型資金なのだが、活動実態に応じた支援にはこの方法が適しているのも事実だ。問題は、能力のある職員がいるけれども上司や設置者だダメダメで、本来の機能が発揮できずにいる施設だ。現在の課題は、このような機関や職員への支援策をどのように設計するかだろう。現状では、活気ある施設はより強力に、しょぼい所はますますどん底へという二極分化。放置すればK字型の未来が待っている。
3)博物館は文化施設
今日のフォーラムで文化庁の担当者が博物館は70年前から文化施設と答えていたが、何を根拠にそう言っているのかわからない。博物館を明確に文化施設と位置付けた法律は、2001年に公布施行された文化芸術振興基本法と考えるのが妥当ではないか。同法は2017年に文化芸術基本法となったが、26条はいずれも「美術館,博物館,図書館等の充実」で「支援その他の必要な施策を講ずるものとする」とある。博物館は文化施設として基本法に位置付けられて20年が経過した。博物館人はその点に無頓着だったのではないか。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/kihon/geijutsu_shinko/index.html
学芸員ならきっと「そこでいう博物館とは登録博物館か」と問うてくるだろう。心配は無用である。常に前向きなK3省とか官邸は辛気くさい法律などお構いなしに実益を求める。博物館も法的位置付けなど意識せず実態に即した扱いがされていくと予想する。登録相当類似の区分けに関係しない競争が始まるのかも知れない。
4)文化芸術基本法を利用すべき
文化芸術基本法は強力な法律で、たとえば湯島にある国立近現代建築資料館は、個別の法律によらず同法第17条を設置根拠に2012年に設置され2013年に開館した。やる気になれば国立の博物館くらい簡単に出来てしまうのである。個別の博物館としては、この法律から演繹される支援策を考える、補助制度を導き出すことなどが将来性のある方向と考える。
つまりは、博物館法改正はおこなわれるだろうが、それ以外の博物館関連法や関連制度、支援策についても怠りなく目配りすべきということ。とくに文化芸術基本法まわりは要注意だ。
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1月28日(金)に開催される「博物館法制度に関する緊急フォーラム」(日本博物館協会主催)を前に、今回の法改正に向けた議論を時系列的に整理した。明日のフォーラムの参考資料にしてほしい。この小文を書いていて初めて気付いたのだが、文部科学大臣からの諮問書には学芸員制度の改革は含まれていない。これが既定路線であったのか、議論の結果なのかはわからない。
1.博物館行政が文化庁へ一本化された(2018年10月)
日本の博物館行政は大きく3つにわかれていた。1)文化財保護法を根拠にした狭義の国立博物館(東京国立博物館や国立西洋美術館)、2)教育法体系に位置付けられた博物館法による登録博物館と科博、3)その他の博物館で、これらは博物館関連法からすれば無法地帯だが規模や活動内容にかかわらず多数の博物館が含まれる。
これを国の役所は整理して、2018年10月をもって文化庁に一本化した。文化庁の担当は企画調整課。文部科学省設置法も改正した。
第三節 文化庁 第一款 任務及び所掌事務
(任務)第十八条
旧:文化庁は、文化の振興及び国際文化交流の振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことを任務とする
新:文化庁は、文化の振興その他の文化に関する施策の総合的な推進並びに国際文化交流の振興及び博物館による社会教育の振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことを任務とする。
2.文化審議会博物館部会で議論を始めた(2019年11月)
文化審議会の博物館部会が開催された理由は見つからないが、?博物館行政の変更、?この年9月に日本で初めて開催された国際博物館会議ICOM京都大会でICOMの博物館の新定義が決議されると見込まれていたこと、?前回2008年改正で積み残しとなった登録制度と学芸員制度の改定、などから博物館法の再改定を目指したものと思われる。
文化庁が第1回目の会議で提出した「資料3:博物館部会において議論いただきたい事項」では「博物館部会における検討の観点」として下の3つを示し「これらの課題整理を受けて、さらに、どのような政策が必要か、具体的な議論が必要」とした。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan01/01/
1)前回の博物館法改正(H20年)のフォローアップと、それを踏まえた課題の整理
2)ICOM京都大会を契機として議論すべき課題の整理
3)その他博物館の振興施策に関する審議
3.「法制度の在り方に関するワーキンググループ」を設置した(2021年2月)
博物館部会では設置の目的について、登録制度などの博物館法改正の必要性が指摘されていることを踏まえ、博物館法制度の在り方について具体的な検討を集中的に行うため、としている。設置要綱による審議事項は次の5である:?博物館の定義と使命について、?登録制度について、?学芸員資格制度について、?登録制度と連動した博物館振興策について、?その他。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/index.html
そして2−3月にかけての1月足らずの間に3回の会議を実施、3月末に「登録制度を中心とした博物館法制度の今後の在り方について(中間報告)」を提出した。中間報告では、?現行制度の課題とこれまでの議論、?新しい登録制度の方向性、?学芸員制度の在り方、の3つについて整理した。分量を見ると、この時点で登録制度は厚く、学芸員制度についての記載は少量であった。
4.「博物館法制度の今後の在り方(中間とりまとめ)」をまとめた(2021年5月)
2021年5月の文化審議会第3期博物館部会(第1回)において、ワーキンググループからの報告をもとに「中間とりまとめ」をまとめる議論をおこなった。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan03/01/92359302.html
「中間とりまとめ」は、ワーキンググループによる「中間報告」に比べ学芸員制度の記述が何倍にも厚く、認定司書や社会教育士のような社会教育機関の類例を上げた検証までおこなっている。ネットでは「案」が見られるが、決定稿は探せていない。
5.文部科学大臣が諮問をおこなった(2021年8月)
大臣からの諮問書が提出されたのは、2021年8月になってからである。諮問書は、7月30日付けの「博物館法制度の今後の在り方について(審議経過報告)」を踏まえて取りまとめたという(第2回議事録)。これらは文化審議会第3期博物館部会(第2回)のページで公開されている。それまでの博物館部会の開催根拠は審議会の設置理由に基づくものだろうか。また「審議経過報告」が上記「中間とりまとめ」の完成版になるのだろう。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan03/02/index.html
諮問書の概要は、?博物館に求められる役割と期待は、文化観光の振興やまちづくり・地域振興、国際的な交流、社会的包摂、産業の振興、環境保護など、様々な社会的・地域的課題へと多様化高度化している、?戦後、全国に博物館を増加させるために制定された博物館法に基づく登録制度は、制定から約70年が経過し、実態との乖離が指摘され、近年の博物館の設置者の多様化に対応できていない、?ひとつの館では対応しきれないような様々な課題に対しては、館種や設置者の枠を超えて複数の館が連携・協力することを促進していく必要がある、?分野ごとのナショナル・センターとしての国立の博物館については、その役割を明確化する必要がある、となっている。
諮問内容には、学芸員制度も社会教育という言葉も見えない。長く説明されるのは「社会的・地域的課題」であり、極めて明確な文言は「ナショナル・センターとしての国立の博物館」である。ここに「の」が入っていることは注目に価する。狭義の「国立博物館」は科博を含まず、「の」が入ることは少なくとも科博を含むことを意味する。さらに他省庁の日本語では博物館を名乗らない国立のmuseumを取り込むことも可能でだろう。
6.「博物館法制度の今後の在り方について(答申)」が提出された(2021年12月)
答申「概要」の要点は次のものだ。自分なりに要約すれば「博物館は今後は文化施設となる。上位法は文化財保護法に加え、文化芸術基本法と文化観光推進法が主体である」。
?現状では博物館は社会教育施設
?これからは文化施設であり社会的・地域的課題と向き合う場として期待される
?登録制度は設置主体を拡大、審査は引き続き教育委員会がおこなう
?館相互や関係機関との連携を促進しつつ、学芸員の制度改革は先送り
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/index.html
「答申」本文からは次のこと記されている。
?類似施設の登録促進
?国立博物館は登録の対象外
また、内容から下のことも読み取れる。
?第三者機関による認証制度は断念
?ネットワークや連携への踏み込んだ言及はなし
結局、今回の答申を踏まえた法改正の目的は、博物館は文化庁が所管する文化施設であると宣言することではないかと考える。たとえば文化財保護法との関係は、(博物館の事業)第三条において、
八 当該博物館の所在地又はその周辺にある文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)の適用を受ける文化財について、解説書又は目録を作成する等一般公衆の当該文化財の利用の便を図ること。
と明記されている。このような条文を文化芸術基本法と文化観光推進法について追記することなどがあるのだろう。
加えて、社会的役割の重視の明文化だろう。気になるのは、答申には学芸員に地域課題に向き合えという文言がないこと。博物館は、かつての顔役の制度化である社会教育士が活躍する場になるのだろうか。
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文化審議会博物館部会法制度の在り方ワーキンググループ(第8回)2021-9-7のZOOM傍聴メモ
参加者(全部で)44名 始まり頃→60名1504、最大時1605で75人
会議資料
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/12/mext_00033.html
設置要項・委員名簿、開催状況など
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/index.html
事務局(文化庁企画調整課):資料1(ヒアリング結果)の説明1502–1513
設置者(株式会社)については議論が分かれた
多様性への配慮が必要ということかと
小規模館への配慮や入館者数のみでの審査は避けて欲しい
審査基準についての意見
都道府県教委による審査の継続はおおむね了解が得られた。そこに専門的な第三者組織が加わる
更新…[聞き漏らし]
研究機関等についてはさまざまな意見をもらった
ネットワーク人材の共有?についての意見があった
デジタル技術…[聞き漏らし]
論点1定義
本日は、定義や事業などについて具体的な議論をしてもらいたい
基本的使命+今後必要とされる機能(文化審議会博物館部会審議経過報告)、という組み立てと考えている
非登録館についても議論してほしい
論点2公益性非営利性 審査においての判断としてはどうか=審査基準
論点3事業? 「今後必要とされる機能」は事業で議論してほしい
論点4新たな審査基準
佐久間大輔委員(大阪市立自然史博物館学芸課長)
1513–1521
博物館のような機関も社会教育機関であり、それらの背中を押すことが公益になる
門戸を狭めるように機能していないかという疑問。広範な施設を拾い上げ底上げしていくべき
法3条の事業はアップデートする必要がある。とくに「博物館資料に関する」という限定は疑問で無くすべき。博物館の調査研究は、設置目的や使命に基づくとすべき。
教育活動を法に入れ込むことが必要。ネットワーク重視の視点を明記したい。MLA連携の主務官庁が不明、推進体制を明確にすべき
文化庁に移管されたが、自然史館や動物園水族館へのサポート体制が不明。国立博物館がサポートの中心になるような[仕組みや文言]。
半田昌之委員(日本博物館協会専務理事)1521–1534
日博協の立場で意見陳述した。悉皆調査の必要性、政策立案とサポートの体制協強化、という意見を述べた。
数の実態も把握できていない。どんな施設が博物館なのかという基本的認識も共有できていない実態が浮き彫りになった。登録や認証へのインセンティブが必要。
未来を生きる世代への責任
国家民族宗教の枠組みでは解決困難な課題に立ち向かう砦にもなる
ICOMの新定義には社会的なキーワードが新たな博物館の課題が見えている
日本全体の文化政策は、博物館の資料つまり過去の記録と記憶を活用するという方向は同じ方向性がある。その博物館の現状は厳しく、国際的な視野でも博物館施策の充実は必要
博物館法は登録館限定から対象を広げた底上げ法にすべき
資料2として添付した博物館法の棚橋原案は是非一読してほしい
栗原祐司オブザーバー(京都国立博物館副館長)1534–1541
ICOM新定義の経過説明
博物館法は先見の明があった。羅列的だったICOMの旧定義から離脱し、2007年に現行定義を採択したら、それは日本の博物館法に似た内容だった。
以上前半
佐々木秀彦委員(東京都歴史文化財団事務局企画担当課長)1541–1553
資料5として新条文の私案を説明
浜田弘明委員(桜美林大学教授
全日本博物館学会副会長)
1553–1604
そもそも博物館法を改正する理由を振り返る
学芸員の職務の「博物館資料」という縛りは時代遅れ
法改正の最優先は登録制度の見直し、中期的には学芸員制度の改定
意見交換1604–1657
塩瀬隆之委員(京都大学総合研究博物館准教授):博物館法が対象とする博物館を拡張するとき、ICOMの新定義からだとどの言葉を重視するのか委員に聞きたい。たとえば「紛争」など日本に相応しいとは思えない。日本の博物館は何を、どんな博物館を対象としていくのか
半田氏:日本にも国際的な課題もある。国際的には普遍的でも国内的には不適当な言葉は、日本に適切な用語に置き換える。
栗原氏:ICOM定義は紳士協定、法的な有効性はない。紛争に関していえば、過去には日本も当事者であったし美術館には戦争画が数多くある。それを考える場や機関として捉えればどうか。
塩瀬氏:[聞き漏らし]
竹迫祐子委員((公財)岩崎千尋記念事業団事務局長、ちひろ美術館主席学芸員)
:日本にも外国人が多く訪問し、日本人も外国に出掛ける時代であり、外からの目も意識し、内に閉じた法律から脱皮したい。「分かち合う」という言葉は、共通理解よりも相互理解が大切と思っている。
青木豊委員(國學院大學教授):定義の基本要件は[聞き取れず]、小規模博物館つまり郷土資料館の育成存続に重きを置いて欲しい。審査要件もゆるやかに…[音声切断]
内田剛史委員(早稲田システム開発):質問だが、登録制度をどこまでやる気なのか。何らかのハードルを設ける一方、多様性がある。館種と規模などによるモデルケースを示して、未達点をクリアするためのサポートをどうするかなど。
浜田氏:そこまで議論されていない点もある。
小林真理委員(東京大学教授):おさらいが出来、方向性が出た。佐々木委員の私案の議論に基本的には賛成。裾野を広げるのは賛成。地域のなかでの平等性をどうするのか。支援策の対象をどのように選択していくのか。ネットワークで質上げは賛成だが、中核館を作ったとして、ジャンルは別でもよいのかという疑問。今回は登録をとにかくやるということか。
浜田氏:登録博物館法から脱皮したい。
佐々木氏:内田委員の質問に関して、法律でどこまで登録を言うかだが、資料14–15ページが参考になる。これが今後の進め方になる。[小林委員の問いに関して]多様性と基準向上については、資料15ページの設置や経営など何を博物館として担保するかは共通する、他方いかようにやるかはそれぞれの博物館が考える。大規模館がネットワークに資さない、目指さないときはどうするか、は残る[端折りました]。認証博物館は税制優遇や支援対象になる、ネットワークの拠点として期待される館園にはふさわしい補助金や金額が得られると理解している。たとえば収蔵品管理だと中核館がシステムを作り、地域で共有するなど。都道府県に保存修復の担当者なりチームを置いて保存科学の助言支援をするなど。おなじ館種のネットワークでとイメージしている。
小林氏:具体的な数字で、中核館のうち歴史館や総合館は47館(=県0)になる?[途中、聞き漏らし]。底上げや中核館は具体的な数字の根拠をもって改正をイメージした方がよいのではないか。そうでないと夢になってしまう。
佐久間氏:そのためにも博物館の悉皆調査が必要になる。ネットワークは最初から全都道府県でやれるとは思わない、拠点館もそのつもりでいない状態だろう。分野別の全国ネットワークがあってもよい、東北といった圏域での地域ネットワークがあってもよい。テストケースとしていくつか試行して広げていくのがベストと思う。そうでないと制度設計ができない。都道府県別での中核館ネットワークとはイメージしていない。
栗原氏:小林先生の戦略は否定しないが、特別立法ではないので具体性はそこまで必要ない。法律に基づいて計画を作るのが普通。法律に書くと改正には国会審議が必要となる。法律と施策は別に分けて考える。
半田氏:未来志向の博物館を支えているのは郷土資料館であり小規模館である。公立館のうち市町の博物館の割合が高い[全体に対してか、設置者に対してか不明]。それを法に基づきサポートすることを考えると、文化庁が統一窓口になったことは大きなこと。文化政策全体のなかでの博物館の位置付けの強化が重要。活用計画の承認数が増加していて、そこで博物館のモチベーションが重要。博物館がモチベーションが高くでも設置者がやる気が無いとうまく行かない。地域のモチベーションを上げながら、博物館の背中を押す法や制度が重要[やや曖昧な説明]。地域格差は作らないのが原則だが、格差が生み出されるのは設置者のモチベーション。博物館を取り巻く広い文化政策との協働が重要。
小林:栗原委員の話はわかったうえで、。立派な博物館に興味を持たない首長や首長交代で方針がまったく変わる例を見てきた。将来10年くらいスパンでの数値目標はイメージした方がよいと思った。
青木氏:審査要件はゆるやかにすべきと考える。ネットワークの意味が分からなかったが、小規模館を育成するには県や地方単位の博物館機構などを作って育成する[イメージでよい]。文化財保護法との整合性を持たせた「野外」[館外]も博物館の事業と認識できる条文を入れて欲しい。
浜田氏:現行法3条には文化財保護法への言及があるが…。詳細に、あるいは拡大…
青木氏:具体的に言及してほしい。
竹迫氏:聞き間違いかも知れないが、今回の改正では登録制度の見直しは実現したい、定義の見直しは先送りも仕方ないということか
浜田氏:登録や認証の制度を変えると定義も変わるので、それに合わせた変更は必要。他方、全体改正は将来の課題となる可能性があるという事務局に配慮した。
竹迫氏:佐々木委員が、幅広い博物館のより所として、新しい博物館法があるとすれば重要なことだ[端折りました]。
半田氏:最初の塩瀬委員の発言。座長は全部改正を目指すべきと発言したとおり、今日の議論はまさにそのとおりだった。定義がないと先に進めない。それならば全部改正が適切というのが素直な感想。
塩瀬氏:博物館が増加した場合、リソースが変わらないならば恩恵がそれだけ薄まることなる。それでも未来に送る博物館が増えることで[よくなる]。定義変更までは実現するか不明だが、定義の議論をしたこと自体が重要で、そのことを発信していくべき。ここに参加できたことがおもしろかった。
佐久間氏:全部改正が実現できるとは思っていない。残された課題への対応を継続する必要がある。そのようなコミュニケーションを文化庁と続けることが重要。残された課題を認識し続けることが重要と考える。
浜田氏:事務局の示した方向性とは若干違ったかも知れない。
事務局説明1657–1700
文化庁:部会では一部改正全部改正は意識せずに議論してほしい。日程説明。
浜田氏:意見質問あればどうぞ。[意見なし]。ありがとうございました。
]]>JUGEMテーマ:博物館
普通交付税で措置される道府県
地方交付税の算定に博物館の費用はどの程度反映されているか。実際の交付金の額は計算が複雑で理解していないので、交付税の算定根拠についてだけ自主学習した。このうち普通交付税で措置される道府県について見てみたい。市町村は特別地方交付税で措置され普通交付税の対象外となっており、参考資料が今のところ探せておらず、おそらく無いと思っている。個別事例をそのうち紹介したい。なお、文化財行政は道府県も市町村も別に普通交付税で措置されている。
地方交付税の制度や計算式、実際の交付金の額などは総務省のウェブサイトで公開されている。ところが個別の事務の単位費用算定内容は掲載がない。それを知るには財政担当者が用いる公式参考書が必要となる。今回用いたのは「地方交付税制度解説(令和2年度)単位費用篇」(地方交付税制度研究会編 2020)4,100円+税である。交付税については別に「同(補正係数・基準財政収入額篇)」6,800円+税があるが、こちらは計算式と法令ばかりで今回のような金額を知るには不要である。高いし嵩張ることもある。余談だが、2021年4月下旬の購入だが売価は総額表示されていなかった。俺らはいいんだ。
さて、道府県の博物館に触れているのはpp.57–66「(第三節)第五款 その他の教育費」である。第五款 その他の教育費>第一項単位費用算定基礎>第三行政事務内容>5.社会教育費>(2)社会教育施設費>(3)歴史、芸術、民族、産業、自然科学等に関する資料を収集、保管、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供する事務等、として現れる。「博物館」としない回りくどい表現は図書館も同様で「図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料を収集、整理、保存して一般公衆の利用に供する事務等」と記載されている。これは(2)社会教育施設費の根拠法令を「図書館法、地教行法、社会教育法、博物館法」としながらも算定の対象を登録博物館に限定せず、実態としての博物館を広く対象にしていることを示しているのだろう。道府県の類似施設の算定について情報が欲しいところ。
社会教育施設費の費用は総額626,160千円、特定財源:国庫支出金0/使用料手数料8,090/計8,090千円、一般財源618,070千円とされている。一般財源を道府県の仮想の標準団体人口170万人で割った単位費用は364千円。1人当たりの社会教育施設費は36万4千円と算定されている。使用料手数料のほとんどは博物館の入館料と見ることが出来る。特定財源をそのまま該当事務に要する費用と読み替えていることもわかる。
博物館の数については「第四 標準団体行政規模>「人口」を測定単位とするもの」で博物館数は1館としている。職員数は「第五 職員配置>「人口」を測定単位とするもの>5.社会教育費>(2)社会教育施設費:課長級の館長・所長2、職員A8、職員B28、計38人」となっていて、博物館単独の職員数はここでは出てこない。これについては次の費用の積算根拠からわかる。「第二項 標準団体行政経費積算内容>「人口」を測定単位とするもの>(細目)5社会教育費(細節)(2)社会教育施設費」を見ると、図書館費、青少年教育施設費、博物館費、その他の経費に分けて積算内容が示されている。博物館費は下のように記されている。
給与費 68,620千円 職員数11人
報酬 279千円 博物館協議会委員報酬
需用費等 51,224千円 収蔵品購入費等
委託料 39,677千円 施設維持管理等委託(博物館特別展開催を含む)
計159,800千円
また収入として使用料及び手数料8,090千円が計上されている。
つまり地方公共団体の保護者たる総務省の考えを地方交付税からうかがうと、人口170万人の仮想的標準都府県(p.19)では博物館費に人件費込みで1億5,980万円、住民1人あたりちょうど9万4千円を費やしているということである。なお、使用料手数料8,090千円を単純に170万で割ると住民1人あたり4.8円となる。
参考に図書館費を見ると、給与費165,020千円職員数27人(館長1人を含む)、報酬180千円図書館協議会委員9人(委員長1人を含む)、需用費等40,510千円図書及び視聴覚資料購入費等、委託料10,305千円施設維持管理等、計216,015千円となっていた。博物館と比較すると人員で2.45倍、1.35倍である。青少年教育施設費[少年自然の家?]の費用は委託料144,897千円だけ。内容は指定管理料であり「トップランナー方式」がはっきり示されていた。「その他の経費」は需用費105,448千円で社会教育施設活性化事業費等を含むとしている。
以上「地方交付税制度解説(令和2年度)単位費用篇」からわかることはここまでである。不明な部分として職員費用が残る。社会教育施設費では職員数は全体で38名(課長級の館長2、職員A8、職員B28)と階級を示している。青少年教育施設は指定管理なので38名は図書館と博物館の2施設の合算である。「第二項 標準団体行政経費積算内容」の記述の人数とも合致する。ところが博物館費と単独になると職員階級の内訳が非記載なのである。これは紙面の都合なのか、読者に不明部分をわざと残す小細工なのかわからない。課長と職員AおよびBの職員費用はp.12にあり、給料や手当、共済組合負担金などを個別に計上、課長10,008,380円、職員A8,380,650円、職員B5,385,260円である。博物館費の給与費68,620千円を職員数11人で単純に割ると6,238,181円である。
目指すべきこと
博物館の立場で地方交付税の制度に要求するとすれば次のことがあるだろう。
1)社会教育費を独立の款として独立させる
現状では博物館を含む道府県の社会教育の費用は「第四款 その他の教育費」にある。ここに含むのは教育委員会費、総務調査費、学校管理費、社会教育費、保健体育費、教育研修センター費、子ども・子育て支援費である。ここから社会教育費のみ、あるいは子ども子育て支援費を含めて独立させる。それは実情の可視化と将来の構想立案に役立つ。
2)学校関連と同様の措置を求める
小学校費や第中学校費を見ると「本年度主要改定内容」として、1教職員数の見直しを行ったこと、2会計年度任用職員制度の施行に伴う期末手当の支給等に要する経費を措置したこと、とある。おなじことを博物館費に求めて交付税の算定基準額をかさ上げすることを目指す。高等学校費は会計年度任用職員制度の施行に伴う期末手当の支給等に要する経費を措置、特別支援学校費は職員数の見直しを実施している。ところが「その他の教育費」での改訂内容は「「人づくり革命」に基づく幼児教育および高等教育の無償化であり、社会教育については記載がない。社会教育の軽視が露わである。
文部科学省の総合教育政策局なり文化庁企画調整課にも頑張って欲しい。
博物館は社会教育から離脱したのか
余談だが、現在の博物館行政の所管はどこか。数年前までは狭義の国立博物館(東京、京都、奈良、九州)は国立美術館は文化庁、科博や公立博物館などは文部科学省生涯学習政策局社会教育課の所管であった。それが2018年10月からは文化庁に一本化された。問題は文化庁のどこが所轄なのか。国立の博物館は独法化していることもあり、公立博物館を含め博物館の所轄は企画調整課となっている。ところが、文化庁の組織図に博物館の文字は出てこない。文化庁だけに事務の内容は有形無形の文化財や芸術の振興が主体でそこに和食や観光振興が加わる。企画調整課の事務は「文化に関する基本政策の企画立案、劇場等の文化施設、アイヌ文化振興、所管独法等」である。意地悪く読めば、公立博物館が居るのは所管独法「等」の部分だ。
文化庁の組織|文化庁(下のpdfがクリア) https://www.bunka.go.jp/bunkacho/soshiki/index.html
他方、図書館は現在も文部科学省総合教育政策局地域学習推進課とそれらしい部署の所管である。
図書館の振興:文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/index.htm
社会教育法や博物館法は健在だが、現在の事務分掌からすれば博物館は社会教育から外れている。それから文部科学省では課以上の組織名から社会教育の文字が消えている。また、生涯学習の文字が局から課に格下げされている。
大きな改組が進行中で2018年10月の改組によってその一部が顔を出したのかも知れない。
]]>ここ数年急にエビデンスとうるさいなと思っていたら、今更ながら出所がわかった。行政改革推進本部が「EBPMの推進」をしているからだ。EBPMとは「エビデンスに基づく政策形成」Evidence-Based Policy Making で「政策の企画立案・検証・改善を、定性的、経験的なものや過去の慣行にのっとったようなものではなく、データから定量的に効果が導かれた「証拠(エビデンス)」の活用に基づく複数の政策メニューを意思決定者に提示し、可能な限り科学的な客観性を持ち、透明性を高めた意思決定を実践する点に特徴がある」(郭 2019)そうな。
郭日恒(2019)行政のさらなる EBPM 推進に向けて
第二次安倍内閣が2017年1月に設置した行政改革推進本部は同年7月に「EBPM推進委員会」の開催を始めた。推進委員会の設置根拠は「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(平成29年5月30日閣議決定)、設置を決定したのは「官民データ活用推進基本計画実行委員会会長」。ついでに言えば行政改革推進本部も閣議決定で内閣官房に置かれている。中曽根内閣の臨時教育審議会(臨教審)も民主党の行政改革推進本部も法律に基づき設置されていた。安倍内閣以降の国会軽視の姿勢は当初から発揮されていたわけだ。絶対多数を支配する国会状況では議論しても結論は変わらず、やってもムダという本音はわかるが建前を失った政治は恐ろしい。
EBPM推進委員会 https://www.gyoukaku.go.jp/ebpm/index.html
共通テストもEBPM
EBPMは主要省庁が参加する。たとえば批判の嵐で一時停止中の共通テストの英語がそれ。英語の学力のエビデンスとして採用された測定指標は CEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠」。だから CEFR のグレードに応じた民間の英語検定が試験の代用品とされた。
CEFRで見る英語・外国語検定試験 | 旺文社 英語の友 https://eigonotomo.com/hikaku/cefr
CEFRが指標指標と明記されたのは「第3期教育振興基本計画」(平成30年6月15日閣議決定)の「目標(7)グローバルに活躍する人材の育成」であった。
測定指標:英語力について、中学校卒業段階でCEFRのA1レベル相当以上、高等学校卒業段階でCEFRのA2レベル相当以上を達成した中高校生の割合を5割以上にする
「第3期教育振興基本計画」 https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1406127.htm
この部分は第16回経済社会の活力ワーキング・グループ(令和元年12月3日)の提出資料に盛り込まれた。
資料1 文部科学省提出資料「教育政策におけるEBPMの強化」 PDF 1957 KB
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg7/
「経済社会の活力ワーキング・グループ」は内閣府(橋本政権下の2001年に発足)に置かれた経済財政諮問会議(設置根拠は内閣府設置法)のなかの専門調査会のひとつである「経済・財政一体改革推進委員会」の下に位置する。この推進委員会は「経済財政運営と改革の基本方針2018」(閣議決定)に盛り込まれた「新経済・財政再生計画」を実行するために置かれた。「基本方針」は毎年作成されるが、2018年バージョンは自分にとっての重要事項が多く含まれ無視できない。
博物館は2か所現れ「国際博物館会議(ICOM)京都大会の開催等を通じて日本文化の魅力や日本の美を国内外に発信する」「国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園などからなる民族共生象徴空間を開業し、年間100万人の来場者を目指す」という場所。大きな話題を取り上げるも、目的が日本スゴイで目標が来場者100万人というあたりの浅ましさが泣けてくる。私立大学に3つの観点(世界牽引、教養と専門性、実務能力)の選択を迫ったのもこれ。
「経済財政運営と改革の基本方針2018」 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/decision0615.html
エビデンスの測定指標に最適化する業者の勝利
英語能力の指標や獲得方法はさまざまだが、いったん測定指標が明らかになれば明らかになれば、その指標に特化した商品開発、さらには受験システムをパッケージとして売り出すなど商売がしやすくなる。かつての国土開発時代には大規模公共事業の箇所付け情報が非常な経済的価値を持っていた。この情報をいち早く入手し、当該の土地を買い占めたり、適合した資材を調達して大きな利益を上げたこともあるのだろう。現在、それに相当するのがエビデンスの測定指標なのだ。
さらに進めば、自社に都合のよい測定指標を「基本方針」や「何たら計画」に盛り込むことを目指すだろう。英語の共通テストにCEFRが採用されかけたのもそうなのかも知れない。この点については数多く報道されたりツイートを見ていたが、CEFRがエビデンスの測定指標として「経済財政運営と改革の基本方針2018」に盛り込まれており、その方法はEBPM推進委員会が推し進め、第二次安倍内閣が2017年1月に設置した行政改革推進本部が起源であることを知ったのが今日だった。
教育の成果は本人の努力によるところが大きく、制度をいじったところで良い結果が得られるとは限らない。それを良いことに成功すれば改革の成果、失敗は教え方が悪いと現場に責任を押しつける。本質的な教育の成否とは無関係に測定指標に群がるテストや指南書、塾予備校は潤う。これらに市場原理は働くが教育の結果責任を問われることは無い。悪いのは学校の教員と現場に責任を押しつけるシステムが完成している。なんせエビデンスですから。測定指標は絶対なんで。
閣議決定は何所まで可能なのか
それにしてやたらめったら本部や会議を作り、そのなかに紛らわしい名称で部会や幹事会、コア幹事、ワーキンググループを設置、外から見ていると誰が何を議論しているのかまるでわからない。いや同じ人たち、少なくとも思想信条を同じにする人たちが入れ代わり立ち替わり出入りしているだけで、会議や名前は目眩ましと考えるべきか。多くは設置根拠は口出しできない閣議決定だ。いったい閣議決定というやつはどこまでやっても許されるのか。決定事項が会議の設置であってもそこでの方向付けが強制力を得て政策や行政を左右するとすれば太政官制の再現ではないか。
内閣府と内閣の機関は制度的にはともかく、実態として外から見て区別が付きにくい。日本宮内庁や学術会議があるのが内閣府、内閣の機関は内閣直属で国家安全保障会議や構造改革特別区域推進本部、国土強靱化本部や原子力防災会議、社会保障制度推進本部に社会保障制度改革推進会議などがぶら下がる。組織図を見るとびっくりする。これは第二政府なのか? 二重行政そのものではないか。欠けているのは旧文部省と文化財の部分。これはかえって不気味である。
内閣府 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/satei_01_05_5.pdf 3.7 MB
内閣の機関 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/satei_01_05_4.pdf 2.0 MB
博物館はソ連末期の状況に追い込まれるのか
いまのことろ博物館にはEBPMは及んでいない。学校と違って取るに足らない存在だからだろう。しかし安心はしていられない。財政健全化とか何らかの名目で博物館を淘汰することを目指した測定指標が導入されるかも知れない。あるいは自ら獲得目標と計測指標を設定させ、計測させ、自己評価させることも考えられる。それが資金配分に連動すれば不適切な指標の設定、成果の捏造などにつながり、ほんとうにソ連末期の状況が再現されるのだろう。
]]>JUGEMテーマ:博物館
・学芸員がお金について興味を持ち、活発に議論するには、具体的な数字とその共有が必要と考える。生の数字を見て、初めて関心が高まるだろうから。前回は交付税のなかでも特殊な、しかし博物館が狙い撃ちされそうな「トップランナー方式」についてのメモを公開した。今回は地方交付税についての基礎学習のメモである。
地方交付税は「国が地方に代わって徴収する地方税」(資料「地方交付税制度の概要」)で、地方団体がおこなうべき仕事に必要とする税額に対する不足分が再配分される、と理解しておく。交付税は全体の94%が普通交付税、残り6%が特別交付税として状況に応じた配分がされている。自治体の必要額の算定は「基準財政需要額」とされ、算定項目は都道府県と市町村とで別の扱いだが、項目は共通性が高い。博物館の費用は個別算定経費の教育費の「その他の教育費」だろうか。測定単位は「人口」である。追加された「地域の元気創造事業費」「人口減少等特別対策事業費」「地域社会再生事業費」にも算定される可能性はあるが。
費用算定では特定財源は除外されるとあり、使用料手数料にあたる入館料も含まれる。入館料で稼いだ分は自治体の追加分の財源となる。
以上の資料は「総務省|地方財政制度|地方交付税」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouhu.html
博物館については後述の文化審議会第1期博物館部会(第2回)の資料で、都道府県は普通交付税、市町村は特別交付税で措置されるとしている。法令を見ると市町村の博物館についての措置は「特別交付税に関する省令」に1か所現れる。算定方法や個別の金額についてはネットでは資料は見つからない。
特別交付税に関する省令(昭和五十一年自治省令第三十五号)
(市町村に係る三月分の算定方法)
第五条 各市町村に対して毎年度三月に交付すべき特別交付税の額は、第一号の額に第三号の額から第四号の額を控除した額(当該額が負数となるときは、零とする。)と第二号の額の合算額から第五号の額を控除した額(当該額が負数となるときは、零とする。)を加えた額とする。
三 次に掲げる額の合算額
ロ 次に掲げる事情を考慮して定める額
(10)博物館があるため、特別の財政需要があること。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351M50000008035
普通交付税で措置される都道府県の博物館については、総務省や財務省の資料は見つからなかった。他方、「博物館に関する基礎資料(平成18年度)」では「博物館振興に係る地方財政措置」に「平成17(2005)年度「社会教育施設費」のうち博物館関連経費単位費用積算(道府県分)」という記述がある(498p)。それによると、測定単位を人口170万人と置き、経費として給与95,220千円、需用費47,292千円などとしている。ただ、この金額を物差しとして、どのような算出方法で金額がいくら措置されたのかは記されていない。ほんとうに興味があるところの記述が無いのは残念だ。
社会教育実践研究センター 平成18年度 基礎資料:国立教育政策研究所
https://www.nier.go.jp/jissen/book/h18/index.html (下の方、分割版なら「VII 博物館に関する基本データ」
現在おこなわれている博物館法改正に向けた議論では、文化審議会第1期博物館部会(第2回)で取り上げられた。議事録を見ると、博物館業界は地方交付税について無知であるので初歩から丁寧に説明があったことがわかる。事務局が提出した資料1にも解説がされており、博物館費よりも文化財保護、現在では活用で交付税措置が2018年度以降充実したことが示されている。
具体的には、文化財の保存では修理維持補修に普通交付税や特別交付税が、活用では解説の多言語化や企画展示広報などのソフト事業に特別交付税が充当される。施設の長寿命化やユニバーサル化も同様である。充当といってもやり方は、事業費の9割まで起債(=借金)が認められ、その3割が交付税で補填するというもの。
文化審議会第1期博物館部会(第2回)|文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan01/02/
議事録の説明では、1)都道府県では博物館の費用は普通交付税、2)市町村では特別交付税(全体の6%で措置、3)費用算定に登録や相当そして類似の区別。3)は登録のメリットが無いことの証左であるが、登録は文科省の制度であるので総務省は関知しないのは当然ともいえる。博物館法の改正の議論では「地方交付税における支援拡大」(第3回ワーキング)も議論対象となっているが、登録のメリットは文科省が独自事業として提供するのが筋だろう。
文化審議会博物館部会での交付税に関する議論は、ネットで議事録が閲覧できる第1期(1−3回、ワーキング1−3回)と第2期(1−5回)をテキスト検索した限りでは実質上述の第2回だけである。「法制度の在り方に関するワーキンググループ」第3回では資料1と2に記され、議事録にも資料1の説明として出現するが、議事録の議論には現れない。あるいは「交付金」という発言の一部が「交付税」だったのかも知れない。
法制度の在り方に関するワーキンググループ(第3回)|文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/03/index.html
博物館部会の資料や議事録をまとめてダウンロードできる資料箱を用意している。ご利用ください。なお、ワーキンググループ(第3回)議事録(ワードファイル)は含まれていない。
学芸員を目指すひとへ:東京農業大学・博物館情報学研究室(オホーツクキャンパス/北海道)
http://nodaiweb.university.jp/muse/ 下の方
文化審議会第1期博物館部会(第1−3回)および法制度の在り方に関するワーキンググループ(第1−3回) zip 32.6 MB
文化審議会第2期博物館部会(第1−6回) zip 45.8 MB
博物館の業界では地方交付税の知識が乏しい。第2回の議事録でも文化庁の担当者が、交付税や財政措置について「博物館関係者の中ではあまりというかほとんど知られていないところがございますので、今日は資料を書き下ろしてまいりました」と発言している。ぜひ今後もお金についてのレクチャーや資料提供をお願いしたい。とりわけ交付税の算定方法や算定額など具体的な数字を知りたく思う。
]]>JUGEMテーマ:博物館
「トップランナー方式」とは「経済財政運営と改革の基本方針2015」に現れた地方交付税の単位費用の積算方式の変更。「基本方針」は、「骨太の方針」とも呼ばれ経済財政諮問会議での答申を経て閣議決定される。
経済財政諮問会議は、経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮させるとともに、関係国務大臣や有識者議員等の意見を十分に政策形成に反映させることを目的として、内閣府に設置された合議制の機関です。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/index.html
経済財政運営と改革の基本方針2015〜経済再生なくして財政健全化なし〜(平成27年6月30日閣議決定)
第3章 「経済・財政一体改革」の取組-「経済・財政再生計画」
4.歳出改革等の考え方・アプローチ
[II]インセンティブ改革
(トップランナー方式等を活用し、個人、企業、自治体等の意識と行動の変化を促進)
・自治体については、自治体間での行政コスト比較を通じて行政効率を見える化し、自 治体の行財政改革を促すとともに、例えば歳出効率化に向けた取組で他団体のモデルと なるようなものにより、先進的な自治体が達成した経費水準の内容を、計画期間内に地 方交付税の単位費用の積算に反映し(トップランナー方式)、自治体全体の取組を加速す る。集中改革期間において、早急に制度の詳細を具体化し、導入時期を明確に示すとともに自治体に準備を促す。
・優遇措置を講じる場合には、原則として時限を区切った対応とする。(28p)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/decision0630.html
しかしながら、総務省は自治体の業務によってはトップランナー方式を見送り、博物館もそこに含まれている。
第7回_国と地方のシステムWG御説明資料(地方交付税等について)平成29年10月10日総務省提出資料 下線は引用者による
「図書館管理等5業務」はトップランナー方式の導入を見送りと明記(12p)。方針[の根拠」として次のことを列記。「5業務」とは、図書館管理、博物館管理、公民館管理、児童館等管理、窓口業務。
○地方団体においては、以下の観点から指定管理者制度を導入しないとの意見が多い。
・教育機関、調査研究機関としての重要性に鑑み、司書、学芸員等を地方団体の職員として配置することが適切である。(図書館・博物館等)
・地域づくりの拠点として重要な役割を有しており、行政や地域との密接な関係を安定的・継続的に維持していく必要がある。(公民館)
・子育て支援機関として重要な役割を有しており、保育所、学校その他の機関との連携が重要である。児童館等)
・専門性の高い職員を長期的に育成・確保する必要がある。
○関係省(文部科学省及び厚生労働省)や関係団体(日本図書館協会等)において、業務の専門性、地域のニーズへの対応、持続的・継続的運営の観点から、各施設の機能が十分に果たせなくなることが懸念されるとの意見がある。
○実態として指定管理者制度の導入が進んでいない。
○社会教育法等の一部改正法(2008年)の国会審議において「社会教育施設における人材確保及びその在り方について、指定管理者制度の導入による弊害についても十分配慮し、検討すること」等の附帯決議がある。
第7回 国と地方のシステムワーキング・グループ 資料1 地方交付税等について(総務省)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/291010/agenda.html
ところが、この総務省の方針には異議が提出されている。
第7回国と地方のシステムワーキング・グループ議事要旨(2017-10-10)
(参考:文書の検索結果は「博物館」「社会教育」はゼロ、「学芸員」は1か所2回、「図書館」は3か所3回、うち1か所は学芸員と共通)
委員[2番目の発言]
あと、やはり気になるのは、この後、実は水道事業にもかかわるが、幾つか岩盤と言われる部分があって、今回トップランナー方式でよくわかるのは、文教施設だと思う。特に、初めから図書館管理5業務については云々と言っているけれども、その理由がよくわからなくて、例えば司書とか学芸員がちょっと話題になった。「学芸員とかを直接自治体で雇用しなければだめだよね」と書いているけれども、例えば病院などだと、お医者さんとか看護師という専門性の高い人たちがいる病院であっても、もちろん独法もあるけれども、指定管理者制度も進んでいるし、多摩総合医療センターのようにPFIを入れているところもある。
だから、専門性が高い、イコール、指定管理者ができないということには多分ならないと思う。契約の結び方だし、どこを指定管理者に出すかの問題でしかないわけなので、ここの理屈づけがよくわからないなと思う。ここでうまく指定管理者とか民間委託を進めていくことができれば、ある意味、ほかの分野にも広げる余地が出てくると思うので、自治 体が嫌がっているのはわかるけれども、やはりここをちょっと重点的に改革として取り組んでいく必要があるのではないかというのがコメント。(3p)
経済・財政一体改革推進委員会 国と地方のシステムワーキング・グループ- 内閣府 第7回 議事要旨
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/index.html
このコメントに対する博物館や学芸員からの意見表出はこれまであったのかどうか知らない。私見を述べれば、当該委員の発言は、専門業務の対象との関係への無理解から来るものと理解できる。医師や看護婦の専門性が発揮されるのは医療行為である。怪我や病気は地域ごとの特徴はあっても、特定の地域に歴史が反映される風邪などはない。その意味で医療職は普遍的な職業であり、ユニバーサルな専門性を持つ。対して学芸員の専門性は、資料や地域との長い関わりでより発揮される。専門知は特殊あるいは地域的なものとして限定される場合が多い。とりわけ地方交付税の対象となる自治体が設置する博物館で、このことが顕著である。よって、学芸員と医師は同列に議論することは不適切であり、学芸員に指定管理者制度は不向きである。
こうやって相手方の土俵に乗って、情報を追いかけ批判解説するのは労が多く得るものは少ない。継続性や体系性がなく、思い付きでの変更、書面や根拠なき改変や中止中断放置などが多発し、こうやって文章を書いているうちにも変化があるかも知れない。ただの煙幕目くらまし。やりたいことはちゃっかりやる。事前に公表はしない。意見も受け付けない。
以下、2015年と2020年の「基本方針」から博物館に関する記述を抜き出した。それぞれ1か所であり、博物館は些細な問題として相手にもされていないのだろう。それでも現政権が考える博物館像が露わとなっている。国立アイヌ民族博物館はオリンピックの前菜、博物館や美術館はインバウンドの道具である。観光目的地とならない図書館は言及されない。
経済財政運営と改革の基本方針2015〜経済再生なくして財政健全化なし〜(平成27年6月30日閣議決定)
(「博物館」の検索結果は1つ、「図書館」はゼロ)
第2章 経済の好循環の拡大と中長期の発展に向けた重点課題
3.まち・ひと・しごとの創生と地域の好循環を支える地域の活性化
[3]2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けた取組
アイヌ文化の復興等を促進するため、2020年(平成32年)までに国立のアイヌ文化博物館(仮称)を開設するなど「民族共生の象徴となる空間」の整備を進める。(18p)
経済財政運営と改革の基本方針2020〜危機の克服、そして新しい未来へ〜(令和2年7月17日閣議決定)
(「博物館」の検索結果は1つ、「図書館」はゼロ)
第3章 「新たな日常」の実現
2.「新たな日常」が実現される地方創生
(2)地域の躍動につながる産業・社会の活性化
?観光の活性化
ポストコロナ時代においてもインバウンドは大きな可能性があり、2030年に6000万人とする目標等の達成に向けて、観光先進国を実現するために官民一丸となって取り組む。
各国との人的交流回復までの時間を活用して、空港やCIQ(60)など入口の整備、多言語 表記などストレスフリーで観光できる環境整備、スノーリゾート整備や文化施設(61)・国立公園などの観光資源としての更なる活用等、新たなコンテンツづくりに取り組む。
(61) 国立劇場の再整備に向けた検討や、博物館・美術館等の文化施設の機能強化を含む。(25p脚注)
経済財政諮問会議の取りまとめ資料・政策の実施状況
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/decision0717.html
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文化審議会第2期博物館部会(第7回)2021-3-24のZOOM傍聴メモ
私的な傍聴メモです。事情により聞き漏らしがあり、不完全な部分や誤りが含まれます
委員からの発言を記録、事務局からの回答は一部のみ記載。[ ]はメモ者による注記
ページ数は本日の会議資料「登録制度を中心とした博物館法制度の今後の在り方について)中間報告)」のもの
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/12/mext_00022.html
逢坂惠理子氏(国立新美術館館長)」
1)選別や序列化ではなく「底上げと盛り立て」とするが具体的にはどういう意味か。
2)館長の資格を明確にする、学芸員を必要とするなど。
3)10年程度の間隔での審査が必要ではないか[聞き漏らしのため、後の発言から補充]。
4)登録対象に2ページ?株式会社を含めるのは違うのではないか。他の記載と比べると違和感がある。民間ではどうか。
高田浩二氏(前マリンワールド海の中道館長)
1)他の法令の洗い出しは、誰がおこなうのか。当事者やその関連団体に意見を聞いて欲しい。
2)関連団体は各分野1つと限定せず、広範に意見聴取してほしい。
3)動物園水族館では学芸員というポストがない場合がある。そうであっても、学芸員有資格者が着任すべき仕事や業務を聞き取って欲しい。
4)自分自身は株式会社の水族館で勤めてきた。形式的に営利企業を否定するのではなく、中身を見て民間の活動も評価してほしい。
太下義之氏(同志社大学教授)
1)登録のメリットが議論されているが、腹落ちしない。これをいじったとしても何が意味があるのか見えてこない。結果、博物館がどう変わるかを明記する必要がある。そうでないと博物館村の中の議論に終わってしまう。
2)メリットとは何を目指すのか。手続きよりも、財政的なものが実質的でありがたいはず。博物館への支援は現状の10倍くらいになるという腹をくくって欲しい。そうでないなら、意味が無い。腹落ちしないとはそういう意味。
3)ネットワーク化はわかりやすい。これは登録制度とは別であり、登録制度とは切り離してすぐにでもやっていくべき。これは腹落ちした。
浦島茂世氏(美術ライター)
1)質の向上とは具体的にどういう意味かわからない。利用者からすれば来館と登録の有無は無関係。2)改善のための時限支援は画一化を避け、個性を活かすようにしてほしい。
(事務局)登録や支援は利用者だけを向いているのではない、保存なども含めて考えている。資料の有無によって博物館のあり方が変わってくると考えている。
(栗原祐司氏:京都国立博物館副館長)
株式会社の議論で:民間というと社団、財団も入る。株式会社は営利企業の代表という意味で掲載している。ICOMの定義を見ても、財務省からしても営利団体の登録は困難と個人的には考える。
川端清司氏(大阪市立自然史博物館館長)
1)紐付きの交付税でもよいので、学芸員1名を雇えるような財政的支援が実質的。
2)営利はダメだと言われると、大規模な展覧会は何かと問われる。株式会社海遊館は研究所があり公益性が十分ある。名称の問題ではなく、大事なことは何かという議論をしていきたい。
3)審査でいうと、参考事例にジオパークがある。国内審査の日本ジオパークも学会相当の会議で認定される、これを経て、ユネスコ認定の世界ジオパークを目指すというコースがある。再認定の審査は日本も世界も4年に1回で、かなり厳しく、途中であきらめることもある。博物館の登録や認証も再審査が必要と考える。
4)博物館法の改正とICOMの新定義のタイミングもあり、今回決めていきたい。
半田昌之氏(日本博物館協会専務理事)
1)ここまでの質問はワーキングでも継続議論とした内容と相当重なっており、議論の方向性が見えてきたと思う。
2)株式会社でも個人立でも、登録や認証の対象は形式ではなく中身を見ていきたい。
3)法が無ければ行政はない。審査は、2008年改正の積み残しであり、時代も変化し、博物館の力が再認識されてきている。それを担保する法律と施策実現のための法制度に持っていきたい。
4)個人立でも、資料整理はできているか[聞き取れず]。
5)ワーキングでは認証はスター制度にしらどうかという話もした。欠けている部分を明示し、中核館なり他からの支援が得られやすいようにと。
出光佐千子氏(出光美術館館長、青山学院大学准教授)
1)出光美術館も出発時は出光興産の広報部だった。登録館のメリットが税制であるならば、営利企業を登録対象とすると営利行為と税制優遇は矛盾するのではないか。それを目指した企業が増えるかも知れない。[聞き漏らし]皆うなずく。
2)登録のメリットがやはり見えてこない。設立母体に合わせたメリットの細分化など細かな枠組みが必要。
3)学芸員実習が登録館のボランティアになっている。資金的メリットに議論が集中しているが、人材的なメリットが必要。学生のインターン制度、それを利用した学芸員の交流、など教えた学生が館園に戻ってくるような仕組みがあればよい。
佐々木秀彦氏(東京都歴史文化財団事務局企画担当課長)
1)収蔵品の管理が登録審査のベースにある。それを広げるのが「底上げ」。
2)館園の個性化を目指していく。
小林真理氏(東京大学教授)
1)[ICOMの新定義の話もあり]このチャンスは逃したくない。
2)選別はしないが、底上げは全部は目指さなくてよい。頑張っている館園など絞り込みや具体的な数字を得るためのシミュレーションが必要。
3)博物館の課題は数多く館園によって異なる。すべてを今回で解決するのは非現実的。今後20年なりの恒常的な必要な予算額、5年ごとの特記事業に必要なお金とを区別して考えるべき。
4)細分化も期間と金額とを構想して考える。
5)以上を含めて審査についても考えていくべき。
太下氏
4)対象館が最大5倍、予算が2倍とすると10倍。現状で登録館が1000館でひとり追加で雇うと50億。5倍に増やすと未来永劫200億[聞き漏らし]。
(事務局)登録の議論については、登録制度自体のメリットを議論してほしい
小林氏
6)登録は、補助金や支援施策に手を挙げることができる、という意味で考える。登録すれば自動的にお金が得られるのではなく。
伊藤誠一氏(岐阜県美濃加茂市長)
1)改正にあたり、地域振興やまちづくりを示されたことはありがたい。それが財政支援につながれば更によい。
2)地域の文化を学ぶ場として博学連携を実践し、子どもたちと地域のつながりができてきた。成人式では生まれた当時の写真を展示したり、里山[聞き取れず]、SDGsの取り組みも加えた。
3)博物館は施設ではなく人。学芸員はがんばっている。
4)小規模資料館では10万円の資金でも助かる。がんばっている館園への支援を期待する。
逢坂氏
5)広範な館園を登録可能にするのは歓迎。美術館の定義を議論、再確認する必要が生まれる。
6)無定義なまま[聞き取りとれず]活動が停滞する。
宮崎法子氏(実践女子大学教授)
1)登録は、それにふさわしい施設を示す行為でもある。
2)外圧を利用して中を充実させることはあり得る。登録に必要な[具体的]基準を示すのは質の向上につながる。
3)登録の後には、選択と集中になっていくと思うが、そのまま進むことを危惧する。保存のなかには研究も含まれる。保存と活用がセットになっているが、保存を担保する制度、たとえば[担当の]学芸員を置くなどが必要。できる人が限られている場合、たとえば先生が移動で回ってきて、実質的な専門職員が1−2名というケース[聞き取れず]。
4)ネットワーク化はすばらしい。が、小規模館に担い手がいるのか、職員が不足またはいない館園の場合はどうしていくのか。デジタル化でもそれに労力が持って行かれて本来業務ができなかった経験をした。
5)現場のやろうとしている声を反映させる形で改正が進み、よい外圧になるような、絵に描いた餅にならないような法改正を期待する。
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2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。今回はこれから議論すべき内容を考えてみたい。
今回のシンポジウムの下敷きとなった日本学術会議の提言は、概要ページが用意されており本文へのリンクがある。回りくどい表現を簡素化すると次のようになる。
提言「博物館法改正へ向けての更なる提言〜2017年提言を踏まえて〜」のポイント
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t294-3-abstract.html
1.背景 「21世紀の博物館・美術館のあるべき姿―博物館法の改正へ向けて」(2017年7月)で次の2つを提言した。
1)博物館法の改正による新たな登録制度への一本化
2)博物館の水準を向上させる新登録制度設計と研究機能の充実
2.現状 2018年から博物館関連業務が文化庁に一本化され、文化財保護法と博物館法の一元化に向けた議論ができる素地が生まれた。博物館法は、現状との乖離を解消することが望まれる。また、現在の学芸員資格制度は、資格保有者だけを増加させている。公立博物館における人事・予算・運営の窮迫は顕著であり、改善の必要がある。
3.求める法改正と展望
1)認証博物館制度への転換
2)学芸員資格制度の改革及び研究者としての学芸員の社会的認知の向上
3)博物館の運営改善と機能強化
4.提言の内容
1)登録博物館制度から認証博物館制度(一種、二種)への転換
2)認証博物館制度の認証基準策定、検証、評価等を担う第三者機関の設置
3)学芸員制度の改正による学芸員の区分(一種、二種)の設定
4)学芸員による独創的な研究を可能とする新制度設計
5)文化省(仮称)の創設による博物館の運営改善と機能強化の実現
やや役人発想が見えるが、今回のシンポジウムはこの提言を受けたものであり、議論の出発点はここにある。しかし、出発点はあくまで例示であって、3月2日のシンポジウムでも別の視点が示されている。それを含め、提言そのものをまず考えてみたい。以下は個人的な意見。
1)登録博物館制度から認証博物館制度(一種、二種)への転換
転換か併用か
提言では登録制度を廃止して新たに認証制度を導入するとする。別の考え方としては、登録制度はそれとして残し、新たに認証制度を導入する、という方式も可能である。たとえば世界ジオパークなどがそれにあたる。認証主体が国際機関であるので、日本の場合は国内法による登録博物館よりもユネスコの世界ジオパークの方が権威があり一般アピールもできるだろう。現実に世界ジオパークのビジターセンターは予算も人員も展示も販売物も地元協力も上手くいっている例が存在する。社会教育機関としての登録博物館、それと研究機関としての認証など登録と認証の両使いも可能だろう。登録から認証に転換するのか、併用するのか、議論が必要である。
区別は差別落胆につながる
国の制度は甲乙を付けて進めることが多い。河川や自然公園(国立と国定)など。博物館の場合、設置主体の違いが甲乙に相当するのではないか。認証制度で甲乙を付けると謙遜から自虐へとつながり、公立館が多い実態を考えると他の自治体との比較から激励なき叱責、住民からの見放しなど誘発する心配がある。調理師免許は最低限の保障であり、味の評価は純然民間団体の仕事である。結果的に権威が生じるのは仕方が無い。けれども国のお墨付きを得た機関が甲乙を付けるのは、ラーメン屋に味の上下の区別を与えるようなものではないか。
2)認証博物館制度の認証基準策定、検証、評価等を担う第三者機関の設置
博物館法か別の根拠か
3月2日のシンポジウムでは、自分はこの点について質問をした。質問は2段階だったのが1段目だけ読み上げられたので、すれ違いの部分があったと思う。質問の内容は、博物館法に基づく認証制度は他省庁が参加可能かどうかを問うた。回答は、それを目指している、実際に参加するかどうかはそれぞれの判断、というものだった。「提言」では認証主体は第三者機関となっているが、その根拠が社会教育法の特別法たる博物館法でよいのか、それとも認証制度自体が博物館協会なりのNGOが定めたものかで他省庁の参加状況は異なるのではないか。世界遺産も決定は国際機関のユネスコだが、審査はNGOのICOMOS(イコモス)やIUCN(国際自然保護連合)が実施する。世の中すべての博物館を文化庁が主務官庁となって仕切ることは果たして可能なのだろうか。
博物館の範囲をどうするのか
提言にも参考資料(pp.24–26)として付記されているとおり、イギリスでは科学館(science centre)や動物園水族館などの生体展示施設は認証制度の対象外である。フランスでも科学館は博物館 musé の名称は使えない。日本の博物館法では博物館の範囲は不明確であるが、第2条の定義に「資料を収集し、保管し」とあるのでプラネタリウムや科学館の展示装置だけでは博物館から外れる。科学館の多くは、科学史や産業応用の展示があるので博物館の定義は満たしている。では、国立新美術館(The National Art Center, Tokyo)どうするのか。新たな認証は得られないだろう。ICOMの博物館の新定義の議論もあり、博物館の改正では定義は避けて通れない。公立館でも同様の事例が生じることを考えておきたい。
Accreditation_Guidance_Mar_2019
3)学芸員制度の改正による学芸員の区分(一種、二種)の設定
誰が求めているのか
博物館は多様であり統一規格の上級資格など現場で実際に役立つのだろうか。属人的な部分が多くなるのは仕方がないことではないか。学芸員に甲乙ができたとして、実効性があるのは狭義の国立博物館と国立美術館に限られるのではないか。
質保証ならば試験制度を導入する
本気で知識技能を担保するならば医師や弁護士のように養成課程の修了者に試験を課せばよい。それは考えないのか。
区別は差別落胆を誘発する(再掲)
国や公的機関による序列は、認証制度とおなじ、それ以上に差別落胆を誘発するのではないか。
学芸員資格保持者としての評価を認める
現在の学芸員あるいは学芸員資格は、社会教育法や博物館法が意図する社会教育機関の職員としての学芸員(遵法学芸員)という意味と、学芸員という国家資格保持者という2つの形が存在する。現実には後者の資格保持者という意味での職員募集があり、選考がなされている。対して、前者についてはほとんど意識されていない。これを脱法的学芸員資格の通用と考えず、博物館法の規範が普及した結果の学芸員資格制度の普及受容と捉えてはいかがか。類似施設が学芸員を募集するのは無知なのではなく、現実に有資格者が求められていると考えてはどうか。
上級資格には機関としてのメリットが必要
博物館によっては発令を学芸員ではなく研究員や主事ということがある。学芸員は資格として見なされ、職名ではない、また職階も表さない。上級学芸員資格が実効性を持つには、公立館や私立館が採用したり利用する利点が明確なことが不可欠ではないか。
4)学芸員による独創的な研究を可能とする新制度設計
研究能力は学芸員の前提
学芸員は博物館法が規定する資格で、博物館法は社会教育法の特別法で、博物館は社会教育法で社会教育の機関とされる。学芸員は法令により存在し、その法令が博物館を社会教育機関と規定するならば、学芸員は社会教育機関の専門職員である。学芸員資格は社会教育機関で働くにふさわしい知識技能を修得した証である。他方、博物館法では学芸員の職務に研究が明記されている。つまり研究能力は学芸員の前提である。ただし、それがどの分野どの程度の研究能力かは問われていない。
学位取得を推奨してはどうか
研究能力の担保や開発は学位の取得が正攻法である。現場からすれば、そのような意欲が実現するような環境整備を求めたい。現在の空気は博物館によっては調査に外勤すること自体がはばかられる。大学院への社会人枠での入学や論文博士の取得を奨励する雰囲気づくりを進めるのはどうか。文化庁から学芸員による調査や研究の推奨、学位取得の奨励を市町村の教育委員会に呼びかける、金銭的財政的な支援が難しければ人員補充の仕組み整備など、繰り返し文書を出すだけでもよいかも知れない。
5)文化省(仮称)の創設による博物館の運営改善と機能強化の実現
意見なし。
博物館法の改正か、他の法令の整備か、別の形か
これからの博物館の充実のための方法は、1)博物館法の改正、2)他の法令を目指した整備、3)別の形、という3弾構えで議論することが肝要に思う。すべての課題について博物館法の改正を目標とする必要はない。他の法令が定める基準を目指した予算的支援や市町村に対する奨励、省令で対応可能な対応などでも博物館と学芸員の未来は開けてくるだろう。現在のメンバーでは思いもよらなかった方策が存在するかも知れない。多くの、とりわけ博物館の現場からの意見やつぶやきを知りたいと思う。
地方では設置者の区別を無くしたい
自分が考える現時点での大きな問題は、文部科学省以外の国立の博物館施設が博物館を名乗らず、博物館業界に背を向けている点である。たとえば北海道の旭川には北鎮記念館という国立の施設がある。
北鎮記念館
https://www.mod.go.jp/gsdf/nae/2d/hokutin2/top.html
自分は未見で、ウェブページも残念な感じであるが、資料の充実した展示であるらしい。漫画ゴールデンカムイのヒットにより聖地としても注目されている。自衛隊が設置した施設で英語は Hokuchin Museum である。しかし、北海道博物館協会には加盟せず、館員は自衛隊の職員が3か月や半年勤務で交代して勤めているらしい。利用者からすれば設置者や法的根拠に関係なく、展示を観覧する。他省庁設置の施設であるけれども、このような施設に学芸員有資格者がまっとうな条件で勤務できるような仕組みの構築が欲しいと思う。もし学芸員に相当する職員が不在ならば、利用者としても、職場としてももったいない。
今回は私見丸出しの内容で失礼しました。どこかで意見交換を続けていければと思っています。
]]>JUGEMテーマ:博物館
2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。今回は2つの新聞記事を中心に2008(平成20)年の博物館法改正を巡る議論を見てみたい。
その前に、前回紹介した資料から1回目の検討会議の配付資料は一読しておきたい。2008年以前の改正点や関係する議論がまとめられている。
「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」(第1回)配付資料
博物館に係る過去の検討結果について(総括)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/06101611/003.htm
博物館に関連する答申・報告等
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/06101611/004.htm
社会教育主事,学芸員及び司書の養成,研修等の改善方策について[関係部分]
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/06101611/005.htm
「博物館法改正 期待外れ」(朝日新聞 2008年8月30日)
さて、2008年6月の博物館法では、事前の検討会では包括的な博物館登録制度の創出、学芸員資格への見習い期間の設置や上級学芸員など学芸員資格の高度化など、博物館法の2本柱そのものの改正を提案した。ところが実現したのはデジタルデータの資料への位置付け、学習活動の機会の提供や奨励、評価と改善の情報提供、学芸員の研修の努力義務などに限られ、いずれも現状追認や掛け声であり、博物館活動に直接的な影響がない。実質的な変更点は博物館協議会に「家庭教育の向上に資する活動を行う者」を加えるとした点だけであった。それよりも多くの若者に影響を与えたのが、学芸員養成課程の科目「博物館に関する科目」の科目数と単位数が大幅に増加させた2009年の博物館法施行規則(文部科学省令)の改正であった。
このように不十分な改正結果に対し、改正後に記された評論や3月2日のオンラインシンポジウムの資料でも「期待外れ」という評価を紹介している。じつは、この言葉は2008年8月30日の朝日新聞の見出しを引用したものだ。記事中には「空振り」という言葉も複数回用いられているが、取材対象となった人が発した言葉には「期待外れ」も「空振り」も現れない。これらは新聞社による代弁である。それを直接の関係者が引用して使うのはいかがなものか。自身の考えがそのとおりであればよいが、そうでない場合は誤った認識を広げてしまうのではないだろうか。
記事のまとめに従うと、期待されたのは学芸員資格の条件改正、つまり学部卒業後の1年間の実務経験を経て資格発給、そして上級学芸員資格であり、この2案がともに見送られたことを「期待外れ」と表現したと思われる。疑問なのは「期待」は誰がしたのかということ。大学の学芸員養成課程は前者は明確に反対であるし、上級学芸員について示現したいという声は聞いたことがない。博物館や現役の学芸員にとっても見習いを1年抱えるのは負担であるし、上級学芸員が待遇改善につながるならともかく、雇用組織の職階の方が重要である。何よりも多くの学芸員は研究者を自認しているので、欲しい資格や称号は博士であり、研究費である。包括的な登録制度についても記事にあるとおり、登録制度は社会教育法の特別法たる博物館法の規定である。社会教育機関としての自己規定がない博物館はあって当然であるし、学芸員としては登録を願っている地方博物館は現状の制度か、せいぜい後に実現した首長部局での登録実現で十分だろう。学芸員資格の高度化も包括的な登録制度も現場からは出てこない発想である。
「学芸員格下げ? 大学側から反発も」(朝日新聞 2006年11月28日夕刊)
時間的には遡るが、博物館法改正で早くに反応したのは大学の学芸員養成課程だった。公式ウェブサイトも無く、関係者以外にはほとんど知られていない組織に、私立大学を中心に学芸員養成課程で構成する全国大学博物館学講座協議会(全博協)がある。全博協が博物館法の改正で問題視したのは、学芸員資格の高度化、なかでもこれまで学部卒業と同時に取得できた学芸員資格が、学部卒では学芸員補となってしまうこと、つまり基礎資格あるいは学芸員補として「格下げ」されてしまうことだった。
学芸員資格の高度化の内容は、1)上級学芸員制度、2)高度な資格養成、この2つである。改正の当初案は、2006年11月11日の第2回会議の配付資料として公開されている。
学芸員資格の改正について(案)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/07012608/004.htm
これによると、学芸員資格の改正案は、
1)学芸員補 学士+博物館に関する科目、注)現行の「学芸員」相当を「学芸員補」とする
2)学芸員 [従前の養成課程の修了に加え]登録博物館における5年以上の学芸員補の経験(+研修)
3)上級学芸員 登録博物館において10年以上の学芸員としての経験+実績・研修・国家試験
などとしている。注目されるのは<現行の「学芸員」相当を「学芸員補」とする>の注記であり、紙媒体での配付資料での記載の仕方は承知していないが、学芸員養成課程の大学教員には相当の衝撃であったと想像する。協力者会議の委員には学芸員養成課程の教員もいたので、一部の大学教員は協力者会議の開催直後に状況を把握していた。
2007年3月に「新しい博物館制度の在り方について(中間まとめ)」が公表される。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/toushin/07051101.pdf 438 KB
ここで協力者会議での検討内容が一般の知るところとなった。学芸員資格の高度化については、資格付与に必要な実務経験は、登録博物館で1−2年と緩和されている。当初案の「5年」は落しどころを探るための見せ値だったのだろう。上級資格も経験年数の例示が7年と短縮されている。
全博協では「中間まとめ」公表の翌月2007年4月に学芸員資格の高度化について参加大学からの意見聴取を始めた。全博協は協力者会議のヒアリング対象となり、2007年4月19日に開催された「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」(第10回)では意見が配付資料とされている。これも現在はネットで公開されている。要点は、<大学において学芸員資格を取得する場合、『「博物館に関する科目」の修得(現行資格に該当)の後』『博物館における一定年数(例;登録博物館1〜2年)の実務経験を資格要件とする。』(短大の場合は3年の実務経験の後基礎資格を取得し、さらにその後1年の実務経験)との案には反対の意を表明したい>である。
辻教授資料[全国大学博物館学講座協議会東日本部会会長校 東北学院大学歴史学科]
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/07102509/003.htm
配布資料を集めたページはこちら。リンク表示やURLをたどって戻れないので。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/old_index.htm
そして全博協では2007年5月28日付けで伊吹文明文部科学大臣にあて「博物館法改正に関する要望書」を提出した。
結論としては、2008年で示された学芸員資格の高度化と包括的な登録制度という改正案は、学芸員養成課程と博物館という2つの現場の意向を反映した内容でなかった。むしろ利害が対立する内容であった。だから博物館法改正に対して現場からの支持が得られなかったのだろう。もっとも学芸員養成の高度化は省令改正で実現したし、包括的な登録制度は無理でしたと示すことが落しどころであれば目的を達したのであるが。問われるべきは、前回2008年の法改正は誰のための改正だったのか、省令改正で実現した養成課程の科目と単位の増加、しかも講義科目ばかり、は何が目的だったのかということである。
これから予定されている博物館法の改正でも同じことが論点となる。次回は、博物館法の改正の意味と目的、受益者を考えてみたい。現実的で実利がある制度改革は、博物館法ではなく、他の法令や制度にあるのかも知れない。
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2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。今回は2008(平成20)年の博物館法改正を巡る議論を見てみたい。
2008年6月の博物館法の改正点は、博物館資料に電磁的記録(デジタルデータ)を新たに規定、学習活動の機会の提供や奨励の追記、運営状況の評価と改善の情報提供の努力義務化、学芸員の研修の努力義務などであった。これらは現状に適合した文言が付加された現状追認であり、実質的に重要な変更点は、2009年4月におこなわれた博物館施行規則(文部科学省令)の改正にあったと考える。安倍政権による教育基本法の改訂を反映し、博物館協議会の委員の任命基準に「家庭教育の向上に資する活動を行う者」が加わったこと、大学の学芸員養成担当教員として重大だったのは、学芸員養成課程の科目、法令用語では「博物館に関する科目」の科目数と単位数が大幅に増加したことにあった。大学の学芸員養成課程に職を得たのが2006年は、養成課程の全国組織である全国大学博物館学講座協議会(全博協)が総力を挙げてこの改定に向き合っていたことを覚えている。
これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議
博物館法の改正にあたっては意見聴取をおこなっている。名付けて「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」。第1回の会議は2006年10月11日、以降2008年10月30日まで19回にわたり開催されている。すべての配付資料の一覧と議事概要は下のページで公開されており、15回目までは配付資料の一部が見られる。
これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/old_index.htm#toushin
第1回の会議の配付資料にある設置要綱を見ると、調査研究事項が3つ掲げてある(4つ目は「その他」)。
1)博物館法の博物館について
2)博物館登録制度の在り方等、博物館評価について
3)学芸員資格制度の在り方について
つまり、主要な議論の対象は、定義、登録制度、学芸員資格の3つだったことがわかる。設置要綱は何度か改定されたようだが、議論の対象は一貫して上記の3項目である。
協力者会議は2008年10月まで開かれたが、成果品はもっと早くに提出されている。成果品とは次の4つ。これらは下のページから入手可能である。前出とは同名別ページ。以下、発表順に成果品の概要を記す。
これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/index.htm
2007-6-1 新しい時代の博物館制度の在り方について(報告)
2009-2-18 学芸員養成の充実方策について(報告)
2009-4-30 博物館実習ガイドライン
2011-3-26 博物館の設置及び運営上の望ましい基準の見直しについて(報告)
○博物館の設置及び運営上の望ましい基準の見直しについて(報告)
協力者会議の最初の報告で、当時の博物館の現状をまとめ、地方分権を進めていた時代背景があることがわかる。博物館の状況とは、社会教育調査や日本博物館協会による館園数、職員数、入館者数、指定管理者制度の導入数、資料購入費などである。
「望ましい基準」の説明として、内容は国として目指す内容、活用方法は評価の基準、かつて示されていた数値基準は地方分権の観点から適当ではないとする。館種や設置者別に面積や資料点数を示した「公立博物館の設置及び運営に関する基準」(昭和48[1973]年11月30日文部省告示第164号)などは参考資料に示されている。なお、数値基準は、2003(平成15)年に告示された「公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準」で削除されている。
その上で、新たな望ましい基準に求めることとして、博物館法の改正点に留意し、基準は私立博物館にも拡大させ、閉鎖に伴う資料の散逸を防止する規定を設け、基本的運営方針の明文化と公開、一次資料と二次資料の区分けは不要で、調査研究の項目を追加、展示更新を促し、学習支援の職員を置くことが望まれ、インターネットなどによる情報公開と意見反映を求め、連携事業を増やし、開館時間は延長し、必要な数の学芸員を置くことが重要で、職員の研修機会を拡充し、多様な利用者に応じたサービスを提供し、ショップを充実させ、地震や水害などの自然災害さらには伝染病や事故を含めた危機管理が必要である、とする。
網羅的で、伝染病を明記するなど現在を見越したような充実した内容となっている。また、報告書の公表が東日本大震災の直後であり、被災資料の復旧や防災対策についての付記がある。
○博物館実習ガイドライン
薄いが背表紙があり冊子としての体裁を持つ。「ガイドライン」以前の指針を知らないので、どのような改善があったのかは言及しない。
ガイドラインでは、実習を学内実習と館園実習とに分け、学内実習は2単位以上、館園実習は1単位以上とした。学内実習は、見学と実務(実技)、そして館園実習の事前・事後指導から構成されるとし、館園実習の日数は5日以上と明記した。単位数に加えて日数が明記されたことで館園の不安や不明を除去したといえる。は以前は「館務実習」という用語も使われていたが、このガイドラインで館園実習が公式用語となったといえる。
さらに館園実習では館種ごとに実施計画が示された。反応はさまざまで、これを見て荷が重いと感じて実習受け入れを躊躇する場合もあったと想像される。
館園実習を実施でも登録制度が課題となる。博物館法施行規則には、登録または相当で実施と明記したあとに「(大学においてこれに準ずると認めた施設を含む)」という但し書きがあり、なんとも歯切れが悪い。
○学芸員養成の充実方策について(報告)
冊子の表紙には「第2次報告書」とある。これは「新しい時代の博物館制度の在り方について」が第1次という位置付けによる。内容は「博物館に関する科目」と、資格認定の見直し、具体的には学芸員養成課程の科目を8科目12単位から9科目19単位へと増大させ、試験認定では4年生学部卒業者だけに課していた1年間の実務経験(学芸員補)を全ての試験合格者に拡大する、無試験認定は学部での養成とのバランスを取るとともに口述試験を必須とし名称を「審査認定」に改める、としている。
無試験認定というのは、博士の学位取得者が単位修得や認定試験を経ずに学芸員資格を得る制度である。博士号が博物館学や教育学なら比較的容易だと聞くが、それ以外の分野では学芸員になることは相当困難だった。実例では学位取得後に登録博物館で学芸員補を5年ほどやって、やっと認められた例を知っている。それもニュースレターを毎月発行して、そこに編集者として名前を載せて実績にするなど涙ぐましい努力を積み重ねてのことである。学部生であれば極端な話、授業に出席していれば自動的に資格が手に入るのに、学位を持っていながら、なぜこんなにも苦労するのかという課程での単位修得の容易さとのアンバランスを修正を目指したもの。
○新しい時代の博物館制度の在り方について(報告)
報告書の章立ては、1)博物館をめぐる昨今の動向、2)博物館とは、3)博物館登録制度の在り方について、4)学芸員制度の在り方について、5)博物館運営に関する諸問題について、6)博物館に関する総合的な専門機関の必要性、と幅広い内容となっている。「2)博物館とは」は定義について、「5)運営に関する諸問題」は、指定管理者制度、公立館の入館料、博物館倫理、人材養成と確保、について記している。上級学芸員は「6)専門機関の必要性」で示された。5)では地方独立行政法人による博物館運営にも言及している。
網羅的総花的であるので「早急に検討する必要がある事項」を別紙として述べている。中身は、登録制度と学芸員制度の2つ。登録では共通基準(最低基準)と特定基準の2つを設定することを提言、学芸員では、1)養成科目の見直しとして科目と単位数の追加、モデルカリキュラムの作成、実習の見直し、2)実務経験の導入とガイドラインそして審査証明制度など、3)大学院での養成制度、などを提言した。
登録制度は詳しく改訂の意義を述べている。新たな登録制度は、利用者にとって明確な博物館の指標となり、設置者への予算人員確保要求の根拠となり住民への設置や費用負担の説明になる、結果、博物館への関心が向上し、博物館全体の質の向上につながるとする。
加えて、登録の対象外の博物館についても具体例を示して登録への移行やその方法を述べる。言及されたのは設置者別に、1)国や独法(文科省以外を含む)、2)大学、3)首長部局、4)営利法人、5)個人、と網羅的である。いずれも登録館への移行や検討が可能とし、個人立館は法人化のうえ登録と想定している。
上級資格については、実施は第三者機関、対象は高度な専門性に加えて管理能力、名称は上級学芸員で館種や分野の名称を付記、評価の方法は一定期間の実務経験と業績を有する者が館長の推薦によって申請し、専門分野の審査委員会が合否を決定する、という構想だった。
以上、2008年の博物館法改正とその後の文部科学省令(博物館法施行規則)の改正を振り返った。今後の博物館制度を考えるにあたっては、これまでの議論、とりわけ前回の改正における論点を踏まえることはしておきたい。
そのうえで、報告書や議事概要では知り得ない議論の内容について、10年という時間が経過してことを踏まえ、可能な限り公開あるいは共有されることを望む。次回は改正に対する意見や反応を見ることにする。
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2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。概要は下のとおり。
公開シンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」
http://www.scj.go.jp/ja/event/2021/307-s-0302.html
主催: 日本学術会議史学委員会博物館・美術館等の組織運営に関する分科会、全日本博物館学会、名古屋大学人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター
後援:日本博物館協会
開催趣旨:博物館とは空間と時間を越える文化のハブとして日本と世界の人々の幸いに資するものである。その趣旨のもと、ICOM(国際博物館会議)が3年に1度世界各地で開催する大会が2019年9月に京都で開催された。それをも踏まえて日本学術会議は2020年8月に提言『博物館法改正へ向けての更なる提言〜2017年度提言を踏まえて』を発出した。1952年施行の博物館法に規定される登録博物館制度や学芸員資格等の構造的な不備は、2008年の博物館法改正においても抜本的には改正されず、現実との乖離が著しい。そこで『提言』では、従来の登録制度に代わり文化財保護法との整合性のとれた新・認証制度と学芸員を研究者と認定する制度の構築の必要を示した。以上を背景として本シンポジウムでは、全日本博物館学会との連携の下に、現在進行しつつある博物館法改正を含めた、今後の日本の博物館と学芸員の制度について皆で考えてゆきたい。現在の我々は、過去からの文化遺産を、未来の世代にどのように伝えていったらよいのだろうか。
開催趣旨にあるとおり、今回の博物館法改正の議論は2019年に開催されたICOM(国際博物館会議)京都大会での博物館の新定義を巡る議論の経験を活かし、さらには前回2008年の法改正での未達部分の実現を目標にしたものである。シンポジウムの発表者の多くは前回の法改正から議論に加わってきた人たちであり、積み残しとなった課題や論点などが意識されている。今後の博物館制度を議論するにあたり、まず、現在の博物館法の課題を復習しておきたい。ここからは学芸員養成課程で習うこと。
博物館法とその課題
博物館法は1952(昭和27)年に施行された教育法体系に位置付けられた法律である。現在の教育法体系は日本国憲法から導き出されるもので、日本国憲法>教育基本法>社会教育法>博物館法となる。博物館法は博物館を定義し、国家資格の学芸員を制度化した。博物館法の2つの柱が学芸員と登録制度である。
登録制度
博物館は近代法以前から存在し、その名称も一般に普及している。法律に基づいて定義して型にはめることができない。病院や銀行のように特定の業務を専門におこなうために名称を独占的に使用する「名称独占」にもなっていない。そして博物館法は罰則規定のない規範法、世に模範を示す法律である。結果、博物館という名称は誰がどんな目的で使ってもかまわない。レストランや土産物店が何とか博物館と名乗ってもおとがめなしである。
そこで、自由奔放多彩な博物館のなかから、社会教育機関としての条件を備えた施設を選び出し、それこそが戦後の新しい日本が求める博物館、博物館法が適用される博物館という方法を考え出した。それが登録制度である。広い意味での博物館のうち、博物館法が定義する博物館、つまり資料を収集保管・展示教育・調査研究するまっとうな博物館を都道府県の教育委員会が申請によって登録する、という方法である。ひとたび博物館に登録される、登録博物館になると固定資産税などの税制上の優遇があり、国鉄の鉄道コンテナの輸送運賃の割引が受けられた。
なるほど、これは戦後の日本が自主的な成人の学習を支援する社会教育を進めるうえでよい方法である。問題は、登録の対象となる機関の設置者を地方公共団体と非営利法人に限定したことである。条文そのもので国立の博物館は博物館法の対象から外してしまった。では、東京国立博物館や京都国立博物館など由緒正しい博物館は何者かというと、これらは国立美術館とともに文化財保護法に設置根拠を持ち、文化財保護行政の一翼を担うことが役割である。社会教育機関としての出自はない。では科博はどうか。国立科学博物館の設置根拠は文部省設置法にあり所属部門は生涯学習局であった。狭い意味での「国立博物館」には含まれない。いまでこそ博物館行政が文化庁に一元化されたが、それ以前の文部科学白書を見ると文化庁の博物館と科博との差は歴然で、国立博物館が1館ごと1ページを使って写真入りで紹介されるのに、科博は写真も載らず、県博との共同事業の紹介に留まるといった具合であった。このあたりは明治時代の内務省と文部省の対立、それが現在にまで尾を引く現実として語られる部分である。
さらに今となっては博物館を登録する意味や利点が見えない。2010年代までは登録博物館は教育委員会の所轄の必要があった。自治体設置であっても組織上首長部局の所管では登録の対象外で、名称も外形的にも立派な県立博物館なのに、首長部局にあるというだけで類似施設だった。ところが、首長部局の類似施設でも学芸員を多数配置し、展示も高く評価され、科研費を得ている博物館が存在する。ここの博物館は博物館法からすれば博物館ではないが、外形も内容もまっとうな博物館として半世紀近く活動している。博物館法の登録制度とは、いったい何なのか。少なくとも博物館の優劣を直接示すものではないらしい。
学芸員制度
学芸員にも同様の問題がある。学芸員は確かに博物館法に明記された国家資格ではあるけれども、医師や弁護士のように無資格者が名乗ると処罰される名称独占の制度がない、同様に一般には禁止された業務を可能とする「業務独占」の規制がない。また免許ではなく任用資格である。つまり学芸員は登録博物館に勤め、任命権者から学芸員として任命されている限りにおいての学芸員であり、登録博物館に勤めるのをやめれば自動的に学芸員でなくなる。さらに言えば、博物館法が適用されるのは登録博物館に限られるから、それ以外の博物館、「博物館に相当する施設」(博物館相当施設)やいわゆる博物館類似施設に勤める専門職員は法的には学芸員ではない。外形も内容もまっとうな博物館でも類似施設の場合、そこで働く専門職員は法的には学芸員ではないのである。
もちろんこれは制度的な話であって、類似施設の職員も実際には学芸員としての仕事をまっとうしている。また、登録博物館でなくとも採用や仕事を続けるにあたり学芸員資格を要求することもある。逆に業務独占が無いことは学芸員不要論にもつながる。動物園や水族館では、薬品の購入など技術的面に加え制度面でも獣医師免許が必要とされる。学芸員を置いても具体的に得られる業務上のメリットが無い。教育普及事業で大きな役割を果たすことは、学芸員でなくても個性の範囲、属人的な形で可能だろう。ならば学芸員資格に何か実質的な意味はあるのか。
なお、博物館法には雇用関係については規定がない。学芸員は「置く」。登録博物館に勤める個人事業主、一人親方学芸員は制度上可能である。
規範は普及したが、制度が有名無実化
少し横道にずれたが、大手の公立博物館の場合、類似施設であっても学芸員を配置し、展示と普及事業をおこない、研究報告を出版することは普通にある。これは博物館法の示す博物館の規範が広く受け入れられた成果と評価できる。この意味においては博物館法は戦後の日本に大きく貢献したといえる。しかし、博物館法に準拠せずともまっとうな博物館活動が実現していることは、博物館法が定める制度が実質的な意味を失いつつあることを示している。文化行政が教育委員会から首長部局へ移管されるなか、後付けで、首長部局の博物館も登録博物館として留まることを可能にしたり、国立博物館を類似施設から相当施設に移管することがおこなわれたが、根本的なところで博物館をめぐる用語の混乱や制度の形骸化はなくならない。博物館と資料館はどう違うのか、博物館に名称独占を導入するのか、学芸員に業務独占行為を何か付加するのか。自治体や博物館が博物館法を本格的に無視して活動し始めたらどうするのか。すでに許可や届出の関係から動物園は環境省、水族館は水産庁の法を向いて仕事をしている。
ほかにも課題はあるだろう。とにかく、学芸員と登録制度を見直す。現状に追いついた形の法律の改正は必要という議論は長くあったと想像される。逆に、博物館法は規範法に徹して、登録も学芸員も無くしてしまえという考えにも納得しそうになる。それはさておき、博物館法の改正の機会は第一次安倍政権で巡ってきた。2006年に教育基本法が改正されたのを受け、教育法体系の下位法である社会教育法が2007年の改正となり、2008(平成20)年に博物館法の改正にこぎ着けたのである。
何かを議論する際、基礎資料やバックデータが手元にあることは必須である。かつては一部の専門化にだけ許された特権であったが、インターネットとアーカイブの充実で一般にも可能となった。博物館行政については「博物館に関する基礎資料」がそれに当たる。最新版はこちら
社会教育実践研究センター 令和元年度 基礎資料:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
https://www.nier.go.jp/jissen/book/r01/index.html
旧年度版もアーカイブされており、2003(平成15)年度版からは全文pdfが入手できる。旧版には最新版では削除された資料が掲載されているかも知れない。
国立教育政策研究所研究成果アーカイブ(「博物館に関する基礎資料」をタイトルで検索)
(つづく)
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去年12月初めて絵を買った。絵といっても版画、リトグラフ。ごくわずか色鉛筆での彩色が施されていて、これがまた自分だけへの特別感があってうれしくなる。北海道の網走という地方在住なので、美術作品の購入はなかなかたいへん。作品を見るのは美術館がせいぜいで、画廊で現役作家の作品を見て回ることは困難で、時間とタイミングが必要となる。
作者について知ったのは4年前、札幌出張の際に立ち寄った展覧会「TOKTO国際ミニプリント・トリエンナーレinSAPPORO」でのことだった。ポスターに採用された作品に一目惚れ。あいにくポスターの販売がなかったのでチラシを持ち帰り、机のそばに貼って眺めていたが、そのうち作者の名前も忘れてしまった。ところがツイッターで作者の作品を見たのである。誰かのリツイートか何かで、ポスターとは別だったが、ひと目でその人のものとわかる作品だった。そこで名前を確認して、フォローして、ウェブサイトを見て、作者とつながることができた。そして、ギャラリーでの個展があるとわかる。
夏に京都での個展があったのだが、コロナなのために行くことができずに終わり、秋、池袋で再び個展が開かれると知る。関東に出掛ける必要があったので時期を合わせて出張をつくり、個展の最終日の夕方にギャラリーに行くことができた。そこは別世界だった。とくに大きい作品は紙面やモニタとは完全に別物で圧倒される。「命の繋がり」がコンセプトで、それを稠密に書き込んだ具象で表す。写実的だが具体的なモデルはないと思っていた。ところが、今年はコロナで在宅勤務の期間もあり、かつてないほど庭に出て手入れをした。じっくり見る機会も増え、いま住んでいる古い家の庭に作品とおなじ世界が広がっていたのである。これはうちの庭だ、と。
入手したのはけっこう大きい作品。言葉が足りないが絵柄と全体の白黒の比率が好みのもの。クリスマス直前に届き部屋に机の横の壁に掛ける。作品を頼んだとき、画廊に居合わせた常連さんが声を上げた。それは値段ではなく作品の大きさ。110×90cmの大きさの作品を置く場所、壁面があるというのが驚きだったらしい。田舎は作品には遠いが、近くに置く環境には恵まれているのであった。
美術作品がそこにあるというのは、毎日がうれしい。目をやる、眺める、時に細部に目をこらす。こんなに違う時間が流れるなんて思ってもみなかった。似た経験は、小学生のとき初めて熱帯魚を飼ったときか。経験は無いが、たぶん犬猫は違うのだろう。彼らは家族になる。魚はそうではない別の世界に生きる、けれども虫とは違って気持ちがわかる。作品にも気持ちが宿っているのだろう。作者の意思や気持ちを読み取っている、あるいはそう思い込むということかも知れないが。
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