JUGEMテーマ:博物館
文化審議会第4期博物館部会(第4回)傍聴メモ
2023年2月13日1600–1730
部会開催の案内 https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/93830301.html
本日の資料 第4回博物館部会資料一式 https://www.dropbox.com/s/p0qyz578x9e4egr/4th_muse_papers.pdf?dl=0
1604に入室
1604 佐々木委員:DXについて説明
1.国内外の動向 省略
2.現状と課題
実施が1/4、8割がICT、ウェブサイト、目録デジタルできてない、目録公開12%。登録と指定施設は著作権の優遇の対象になっていることが知られていなかったり、正しく理解されていない。
3.重要性
利用者の期待はある
4.意義
収蔵品情報があることが基盤、他館との連携、学校連携、GIGAスクール構想の1人1台タブレットも知られている。授業での利用ではデジタルアーカイブなど重要。大学大学院との教育活動との連動も大切、人材育成にもつながる。リアルとバーチャルを融合した鑑賞体験の多様化、来館を前提としない利用者の増加も論点。
業務効率化、博物館資料の公共化、いつでも・どこでも・何度でも。
5.役割
現場レベルと設置者レベル、での取り組み。DXの大前提として、基礎的な条件整備も課題という声も聞こえるので設置者による条件整備も課題。
ジャパンサーチなど国レベルのプラットフォームにつないでいくことも論点。過剰な権利制限も存在する、妥当な点を見極める必要性。著作権は公開共有に変わってきている、これへのキャッチアップも必要。
博物館の枠を超えた連携が必要、都道府県で拠点施設などの相談窓口の開設。
大学との協力関係も検討課題。
国レベル データ収集の標準化、ガイドラインや手引きの整備、専門人材の配置養成、著作権の指針明示、国としての支援策の必要性
6.権利処理等
ガイドラインやQ&Aが必要
1623 事務局司会:意見交換をおこないたい
半田委員:時間の無いなかで細々したところまでまとめていただいた。感想とコメントを述べる。著作権については登録制度のメリットとしてあまり語られなかったが、著作権法の図書館「等」に含まれるのは登録と指定、個別認定館に限られる。類似館は権利制限から外れることが理解されていない。この部分の周知を図ることが必要。博物館活動自体のアーカイブが重要であり、DXのなかで取り組んでいってほしい。ユネスコのなかでデジタル化の促進が強調されている。デジタル化を進めることがオリジナル情報の保存に取って代わるべき物ではないこと、車の両輪であることは念押ししておくべき。設置者が理解して投資することが必要であり、ガバメント層が理解してマネジメント層がリーダーシップを取ることが必要。これを進めるために今の業務を犠牲にするのでは本末転倒である。基本機能を充実した結果、デジタル化が進むという方針、基本が理解されるべき。
1629 事務局:最後の部分はおっしゃるとおり、設置者にアピールするのは誰なのか、学芸員か文化庁か明確にする必要がある。文化庁がデジタル化して便利になった部分があるので、それをアピールすることが重要と思う。
1630 事務局司会:新規予算を説明されたい
1631 事務局:予算の説明。InnovateMUSEUMのMuseumDXの推進が1億円の要求になっている。[中略]取り組みの例として、デジタルアーカイブ化の推進と公開、DXの人材育成と学芸員の業務負担の軽減をはかっていく。
1633 事務局:改正博物館法施行に係る説明。パブリックコメントをした、2月7日に閣議決定した。[声が小さく途切れがちで聞き取れず]。施行規則における規定事項、ごにょごにょ[完全に途切れる]19条に[わからん]4ページの説明。学芸員になる経路の説明。養成課程が増えたので将来的に試験認定は回数を減らすと言っている。参酌基準。
1642 事務局:その他として予算と税制、研修について
1642 事務局:我々に関係があるのは博物館機能強化推進事業。1ページの説明。税制(4ページ)、登録経費が交付税で措置されることになった。研修(7ページ)事務系職員向けに「文化をつなぐミュージアム研修」を新設した。今月末にパブリックリレーション研修を実施する。
1648 事務局:要望が通らなかったものもあることを理解している。[聞き取れず、交付税措置か]意義深いこと。
1649 事務局司会:来年度の検討事項の説明を
1649 事務局:来年度の博物館部会の検討事項は、望ましい基準のあり方、中長期的な博物館のあり方、学芸員制度のあり方。基準のあり方は、博物館の理想的なあり方の基準を定めたもの。閉館したときの資料の保存[?]ではネットワークが大事と言われている。デジタル化社会に向けた事業などの盛り込み方も議論してほしい。10年間改定がないので、現在に合わせた検討をしていきたい。DXでいえば、「各館に求められる機能(案)」、目録のデジタル化や公開も「望ましい」として基準に盛り込むなど。細かく決めても博物館全体となると資料の量も質も扱いも様々なので、基準で明確にした方がよいのかどうかということも議論されたい。強制ではなく望ましい、という意味で。一定の基準を国が示して、設置者に要請する、設置者が認識できることが基準の示し方として必要と考える。
学芸員制度も2年間議論して学術会議の提言をもらい、他の団体からも提言をもらったが、集約が難しく、今年度の部会ではまとめきれず載せられなかった。博物館の職員[?]は学芸業務についていただくと見直した。研修の充実として様々な専門職員の資質向上として研修が必要と提言された。資格要件の見直しは必要である。それに加えて資質向上策も議論したい。大学とも連携してされなる資質向上策を議論したい。他の省庁の認定制度も参考になると考えている。認定社会福祉士などがある。これについては文化庁が先導するというより、委員先生からの意見をいただければ今後検討していきたい。学芸員補の資格要件の見直しをしているので、きめ細かく伝えていきたい。
1702 事務局司会:委員の方からご意見をいただきたい
浜田委員:引き続き学芸員制度のあり方が議論できると知って安心した。施行規則で確認だが、パブコメが12月27日に出されて1月11日に締め切りだと、大学が冬休みで議論できなかった。官公庁や企業でも論議する時間がなかったと思う。どうしてその時期になったのか説明いただきたい。部会は夏から半年なかったが、開けなかったのか。認定試験が2年に1回になったのは答えが用意されていてわかった。他方、試験認定では専門科目が削除されたが、養成課程からすれば大きな問題である。というのは、ほとんどの大学で任意科目を設けてきた。その根拠として試験認定の科目構成を用いてきたが、今後はどうすればよいかご助言いただきたい。
事務局:パブコメ 規定上は1ヶ月だが、十分説明した場合は2週間程度でできるとされている。年末年始がダメとはいわれていない。過去に文化芸術基本計画を年末年始に意見収集したこともある。80県以上の意見が寄せられており、報告もきちっとしたので問題ないと考えている。
事務局:試験科目 選択科目の削除は9科目19単位はしっかりやっていきたい。養成課程は300大学あり、試験認定は極めて補助的であり1%に満たないため2年に1回にした。選択科目の設定は大学の任意である。博物館も多様であり、DX化も進んでいる。この状況は大学で受け止め、科目設定は大学が考えて欲しい。研修を充実することで資質向上に努めたい。
浜田:わかった。学芸員制度の論議のなかで深めていきたい。
事務局:博物館部会が半年なかった、5,6,7月と開催されその後なかったのは、7月の時点で議論がある程度されたと受け止め、8月税制議論、9-10月に関係省庁と議論して文化庁案が決まって、それで示したという認識である。
半田委員:7月の部会で学芸員の資格認定の資料が出され審査認定の問題と試験科目について検討することは部会で承認された。資格を失うことが出ないように配慮することが必要と記憶している。パブコメに至るまでに全博協と協議したのか気になっている。全博協から懸念が示されたのはコミュニケーション不足と見る。信頼関係にも関わるという感想である。日博協が文化庁受託事業で説明会を開いた、都道府県から心配が寄せられている。都道府県が独自に基準を作るとなると、温度差や差異を埋めることが必要になる。国として地方自治に踏み込めないところは業界としてリサーチしてフォローする必要を感じている。審査にあたる有識者について、現状の都道府県の既存リストが、大学の考古学や歴史学が多いという声を聞く。現場の実務経験者やをリスト化する拡充を図って欲しい。
事務局:学芸員資格は基本大学で資格取得している。2年に1回に賛成する意見もあった。放送大学や通信制大学でもとれるなど代替手段もある。7月以降に反応もなかったことから今回の案に示した。日博協や学会長に案を示していく[全博協について言及なし]。都道府県からは明確な基準を示して欲しいという声を聞く。博物館は登録は自治事務とされている。これに対して国が細かい基準を作るのはおかしい。実質的な中身で判断するということである。従来[昔]の数値基準は廃止した。有識者の人数や経験の縛りはない。都道府県や指定都市の判断によるものである。動物園や水族館、植物園に関しては日博協の資料で対応するなど、柔軟に考えていくことは都道府県指定都市に期待している。
1723 事務局司会:時間となりましたので本日の議論はここまでとします。
1724 閉会
感想:
1)DXは、えらい力が入っている。お金が付くのだろう。そのお金は博物館をパイプに情報関連産業に流れるのだろう。これは悪いことではない。博物館は実業界との接点が少なかったが、今後は情報関連産業が業界団体となって一緒に歩んでいけるのかも知れない。
2)試験認定の隔年実施はいただけない。養成課程が充実したからとの説明だが、学芸員養成課程を履修したとしても単位を落とすかも知れない。そのまま卒業した場合、不足の単位を試験で回収するのが2年先となると就職や将来設計に影響してします。
3)登録は自治事務だから国は立ち入らず、地方公共団体の自主性に任せる、というのは自分の頭ではどう考えてもおかしい。それに都道府県指定都市で約70の団体が職員の時間と労力を掛けて同じような議論をして似たような基準を作るのは、無駄な作業に思う。事業化に先立ち計画が必要とされるシステムみたい。どっかに投げてそこが下請けに出して中抜きして儲けるパターンなのか。
4)事務局は全国大学博物館学講座協議会(全博協)を認識しているのだろうか。最後の回答で言及がなかったと記憶する。これは全博協にも問題がある。ウェブサイトを持たず、外部への情報公開が皆無に近い。いまどきネット情報が無い=存在しないなのだから。
]]>JUGEMテーマ:博物館
21時に追記:ツイッターで五月雨式に書いた博物館法施行規則の改正について思うことをまとめました。今回の省令改正は博物館関係者が望んでいたことが多数盛り込まれていると考えます
1.概要
1)参照URLと期日
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001278&Mode=0
2023-1-11必着
2)おもな改正点
?学芸員補の資格(18条)
?登録基準(19–21条)
?相当施設の指定取消の規定(23–27条)
2.おもな改正点の内容
1)学芸員補の資格(18条)
資格要件を大学2年以上の在籍(=短大卒以上)と明記し、高卒者を排除したこと。これは博物館法6条の改正を詳細にしたもの。旧法では学芸員補の資格は「大学に入学することのできる者」としていた。加えて、法では具体的でなかった外国での高校卒業要件を学校教育法施行規則155条2を参照して明確化した。
2)登録基準(19–21条)
登録基準については、旧法では外形的内容に限定されていたところを事業や活動に踏み込んでいる。19条では事業を進める体制とは何かを定め、20条で館長に必要な能力や学芸員以外の職員の内容を一定程度明記、21条は施設の要件を明示している。
ここの改正内容は議論があるだろう。個人的には19条で調査研究に関して「博物館資料に関する調査研究」と明確に限定している点が気になる。博物館法では2条で「併せてこれらの資料に関する調査研究」となっていて、前の文章からは「資料」は収集対象となる事物と読める。この点は博物館の研究の論点となってきたと思うが、今回の改正による登録基準は「博物館資料」と明確に限定している。
3)相当施設の指定取消の規定(23–27条)
相当施設の指定基準を都道府県や指定都市の教育委員会が定めると明記している。条文をそのまま読めば、指定基準が自治体によって異なる可能性が出現することになる。現実には文部科学省が示した内容を踏襲するだろうが、わからない。都道府県や指定都市の独自性が発揮され、よい意味での競争が生じるのかも知れない。
施行規則24条2項で指定施設では19条の「博物館資料」を「資料」と読み替えるのは議論の対象に思える。指定施設の調査研究の対象は博物館資料に限定されない「資料」であり、専門職員も「学芸員に相当する職員」である。つまり、指定施設を選択した場合、調査研究は収蔵資料に限定されず、専門職員も学芸員資格を持たない研究者や技術者でもかまわない。博物館法から外れて事業や活動の自由度が広がると解釈することもできる。あえて指定施設を選択する博物館が出てくるかも知れない。
3.上記3分野の改正内容とコメントしたい内容
1)学芸員補の資格
前述のとおり、学芸員補の資格要件を大学2年以上の在籍で62単位以上を習得したものと明記して、短大を強く意識した内容となった。高卒者は学芸員補の資格要件から外れたが、第5条の試験認定の受験資格が条件付きで残された。条件とは、博物館資料に関する実務経験4年。専門学校卒業者が多い動物園や水族館の飼育員から学芸員への経路を明確にしたものと読んだ。
全体的には現実の需要に即した内容と考えるが、1つ問題がある。それは4条で資格認定の試験実施を「少なくとも2年に1回」としたこと。現状では、毎年少なくとも1回。
パブコメの意見多数で現状に戻したい。
2)登録基準
第3章の登録への参酌すべき基準として、最初に置かれているのが「博物館の体制」。これは画期的と評価したい。自分は博物館法の改正内容では見えていなかった。体制の中身は条文ごとに下のようにまとめてみた。
19条は体制。博物館資料の収集保管展示と博物館資料の調査研究に関わる、?基本的運営方針とその実施体制、?資料の収集管理の方針と体系的収集体制、?目録の作成と資料の管理と活用の体制、?所蔵資料の展示[=常設展]と借用資料での展示[=特別展]の実施体制、?単独または共同での博物館資料に関する調査研究と成果活用の体制、?学習機会の提供や教育活動の体制、?研修に職員が参加する機会が確保されていること、となっています。?が注目。
20条は職員。?基本的運営方針に基づいて管理運営ができる館長、?学芸員、?基本的運営方針に基づく運営に必要な職員、となっている。これもすごい。館長に能力を求め、学芸員以外の専門職員の配置を促している。東海道新幹線のスピードアップにはこだまの速度向上が必要みたいな。
21条は設備。?博物館資料の収集保管展示ならびに博物館資料に関する調査研究を安定して継続できる施設設備、?防災防犯のための施設設備、?利用者の安全と利便性確保に必要な配慮、?高齢者・障害者・妊婦・外国人や手話使用者・その他の利用困難者への配慮、と防災と多様な状況への配慮を求める。自然災害や防災を意識した事項がトップで、文化財レスキューで目標にした「安定」という文字に目が行く。
多くの博物館関係者が求めていた内容が反映されているように思う。どうしても気になるのが、調査研究を「博物館資料」と限定している点。「所在地又はその周辺にある文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)の適用を受ける文化財」や自然史系の野外調査に必要な施設や設備は登録には不要ということか。理想的な条件にするとハードルが高すぎて登録の回避につながるかも知れず、かといって最低限では実際に必要な設備に予算が措置されないかも知れず、頃合いが難しい。今回の施行規則の改正案によって、博物館法4条4の「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」の読み方が明確になった。「博物館資料」は「調査研究」にまで掛かる。学芸員の調査研究で法に明記されたのは「博物館資料」ということだ。それ以外への手出しについて禁止はされていないが。
コメントするなら「博物館資料」を「博物館資料等」に変更する、だ。これを放置すると、厳格な解釈によって学芸員の仕事が「博物館資料」に限定する管理者や現場責任者が現れるから。今でも実在するのだから。
3)相当施設
この部分、第5章は法律特有の読みにくい文章で取っつきにくい。23条は手続き、国や独法は文部科学大臣、それ以外は教育委員会というもの。「その他指定を行う者が定める事項」という項目があり、自治体の独自性発揮の機会が与えられている。25–26条は条件を満たさなくなった場合の報告と文部科学大臣や教育委員会による報告の請求。27条は指定の取り消し。議論すべき内容は24条。
24条は審査要件で、?登録や指定の取り消しから2年未満は不可、?資料の収集保管展示および資料に関する調査研究の体制、?職員の配置、?施設と設備、について文部科学大臣や教育委員会の定める基準に適合することを求めている。都道府県や指定都市が独自性を打ち出すことも可能だ。関連して、2項では登録基準を定めた19–21条の「博物館資料」を「資料」とすると明記している。
コメントするなら、文部科学大臣の定める基準を迅速に示すように求めるくらい。
4.上記以外の注意点
将来課題であるが、おもに小規模自治体を想定しての博物館の自治体共同設置、学校教員のように学芸員の都道府県や指定都市での任用、が残されている。このような職員の身分や任用について、博物館法改正では議論されずに置かれたままである。次回の改正の目標とするのが正当だが、今回の施行規則の改正で風穴を開ける方法を探すことも考えたい。
]]>JUGEMテーマ:博物館
本日1月28日(金)にZoom開催された日本博物館協会緊急フォーラム「文化審議会答申『博物館法制度の今後の在り方』を読み解く」の視聴と関係するツイートを読んで、博物館の短期的未来について思ったことを記します。余談ですが、文化庁の担当者も出席して質問に答えていましたが、公開の場で言質を取るような問いにはまともに答えることはないと思っています。
1)国立大学からの類推
国による博物館の扱いを国立大学に習って想像すると、その未来のひとつは類型分け。A:ナショナルセンター、B:リーディングミュージアム、C:県域的文化施設、D:地域的社会教育機関。それから、旧来とは異なるランク付けが考えられる。指定博物館、スーパーグローバルミュージアムなど。博物館も登録相当類似にかかわらず、実際の活動状況からランク付けや活動内容の誘導があってもおかしくない。考えるべきは、施設としての博物館と学芸員は必ずしも一心同体である必要はないことだ。複数の博物館を掛け持ちする学芸員、非常勤学芸員だけの社会教育施設、学芸員がいない展示施設など、博物館の展開策は多様だと考える。
2)後出し法による支援や整備
音楽ホールや劇場を直接規定した法律はない。バブル期には隣り合う自治体が似たようなホールを建設して批判を浴び、現在では閑古鳥が鳴く施設も目立つようになった。そこで登場したのが、「劇場,音楽堂等の活性化に関する法律」である。無秩序に増加した施設のなかから見込みあるものを探しだし集中的に支援する。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/geijutsu_bunka/gekijo_ongakudo/
結局は競争型資金なのだが、活動実態に応じた支援にはこの方法が適しているのも事実だ。問題は、能力のある職員がいるけれども上司や設置者だダメダメで、本来の機能が発揮できずにいる施設だ。現在の課題は、このような機関や職員への支援策をどのように設計するかだろう。現状では、活気ある施設はより強力に、しょぼい所はますますどん底へという二極分化。放置すればK字型の未来が待っている。
3)博物館は文化施設
今日のフォーラムで文化庁の担当者が博物館は70年前から文化施設と答えていたが、何を根拠にそう言っているのかわからない。博物館を明確に文化施設と位置付けた法律は、2001年に公布施行された文化芸術振興基本法と考えるのが妥当ではないか。同法は2017年に文化芸術基本法となったが、26条はいずれも「美術館,博物館,図書館等の充実」で「支援その他の必要な施策を講ずるものとする」とある。博物館は文化施設として基本法に位置付けられて20年が経過した。博物館人はその点に無頓着だったのではないか。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/kihon/geijutsu_shinko/index.html
学芸員ならきっと「そこでいう博物館とは登録博物館か」と問うてくるだろう。心配は無用である。常に前向きなK3省とか官邸は辛気くさい法律などお構いなしに実益を求める。博物館も法的位置付けなど意識せず実態に即した扱いがされていくと予想する。登録相当類似の区分けに関係しない競争が始まるのかも知れない。
4)文化芸術基本法を利用すべき
文化芸術基本法は強力な法律で、たとえば湯島にある国立近現代建築資料館は、個別の法律によらず同法第17条を設置根拠に2012年に設置され2013年に開館した。やる気になれば国立の博物館くらい簡単に出来てしまうのである。個別の博物館としては、この法律から演繹される支援策を考える、補助制度を導き出すことなどが将来性のある方向と考える。
つまりは、博物館法改正はおこなわれるだろうが、それ以外の博物館関連法や関連制度、支援策についても怠りなく目配りすべきということ。とくに文化芸術基本法まわりは要注意だ。
]]>JUGEMテーマ:博物館
1月28日(金)に開催される「博物館法制度に関する緊急フォーラム」(日本博物館協会主催)を前に、今回の法改正に向けた議論を時系列的に整理した。明日のフォーラムの参考資料にしてほしい。この小文を書いていて初めて気付いたのだが、文部科学大臣からの諮問書には学芸員制度の改革は含まれていない。これが既定路線であったのか、議論の結果なのかはわからない。
1.博物館行政が文化庁へ一本化された(2018年10月)
日本の博物館行政は大きく3つにわかれていた。1)文化財保護法を根拠にした狭義の国立博物館(東京国立博物館や国立西洋美術館)、2)教育法体系に位置付けられた博物館法による登録博物館と科博、3)その他の博物館で、これらは博物館関連法からすれば無法地帯だが規模や活動内容にかかわらず多数の博物館が含まれる。
これを国の役所は整理して、2018年10月をもって文化庁に一本化した。文化庁の担当は企画調整課。文部科学省設置法も改正した。
第三節 文化庁 第一款 任務及び所掌事務
(任務)第十八条
旧:文化庁は、文化の振興及び国際文化交流の振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことを任務とする
新:文化庁は、文化の振興その他の文化に関する施策の総合的な推進並びに国際文化交流の振興及び博物館による社会教育の振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことを任務とする。
2.文化審議会博物館部会で議論を始めた(2019年11月)
文化審議会の博物館部会が開催された理由は見つからないが、?博物館行政の変更、?この年9月に日本で初めて開催された国際博物館会議ICOM京都大会でICOMの博物館の新定義が決議されると見込まれていたこと、?前回2008年改正で積み残しとなった登録制度と学芸員制度の改定、などから博物館法の再改定を目指したものと思われる。
文化庁が第1回目の会議で提出した「資料3:博物館部会において議論いただきたい事項」では「博物館部会における検討の観点」として下の3つを示し「これらの課題整理を受けて、さらに、どのような政策が必要か、具体的な議論が必要」とした。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan01/01/
1)前回の博物館法改正(H20年)のフォローアップと、それを踏まえた課題の整理
2)ICOM京都大会を契機として議論すべき課題の整理
3)その他博物館の振興施策に関する審議
3.「法制度の在り方に関するワーキンググループ」を設置した(2021年2月)
博物館部会では設置の目的について、登録制度などの博物館法改正の必要性が指摘されていることを踏まえ、博物館法制度の在り方について具体的な検討を集中的に行うため、としている。設置要綱による審議事項は次の5である:?博物館の定義と使命について、?登録制度について、?学芸員資格制度について、?登録制度と連動した博物館振興策について、?その他。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/index.html
そして2−3月にかけての1月足らずの間に3回の会議を実施、3月末に「登録制度を中心とした博物館法制度の今後の在り方について(中間報告)」を提出した。中間報告では、?現行制度の課題とこれまでの議論、?新しい登録制度の方向性、?学芸員制度の在り方、の3つについて整理した。分量を見ると、この時点で登録制度は厚く、学芸員制度についての記載は少量であった。
4.「博物館法制度の今後の在り方(中間とりまとめ)」をまとめた(2021年5月)
2021年5月の文化審議会第3期博物館部会(第1回)において、ワーキンググループからの報告をもとに「中間とりまとめ」をまとめる議論をおこなった。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan03/01/92359302.html
「中間とりまとめ」は、ワーキンググループによる「中間報告」に比べ学芸員制度の記述が何倍にも厚く、認定司書や社会教育士のような社会教育機関の類例を上げた検証までおこなっている。ネットでは「案」が見られるが、決定稿は探せていない。
5.文部科学大臣が諮問をおこなった(2021年8月)
大臣からの諮問書が提出されたのは、2021年8月になってからである。諮問書は、7月30日付けの「博物館法制度の今後の在り方について(審議経過報告)」を踏まえて取りまとめたという(第2回議事録)。これらは文化審議会第3期博物館部会(第2回)のページで公開されている。それまでの博物館部会の開催根拠は審議会の設置理由に基づくものだろうか。また「審議経過報告」が上記「中間とりまとめ」の完成版になるのだろう。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan03/02/index.html
諮問書の概要は、?博物館に求められる役割と期待は、文化観光の振興やまちづくり・地域振興、国際的な交流、社会的包摂、産業の振興、環境保護など、様々な社会的・地域的課題へと多様化高度化している、?戦後、全国に博物館を増加させるために制定された博物館法に基づく登録制度は、制定から約70年が経過し、実態との乖離が指摘され、近年の博物館の設置者の多様化に対応できていない、?ひとつの館では対応しきれないような様々な課題に対しては、館種や設置者の枠を超えて複数の館が連携・協力することを促進していく必要がある、?分野ごとのナショナル・センターとしての国立の博物館については、その役割を明確化する必要がある、となっている。
諮問内容には、学芸員制度も社会教育という言葉も見えない。長く説明されるのは「社会的・地域的課題」であり、極めて明確な文言は「ナショナル・センターとしての国立の博物館」である。ここに「の」が入っていることは注目に価する。狭義の「国立博物館」は科博を含まず、「の」が入ることは少なくとも科博を含むことを意味する。さらに他省庁の日本語では博物館を名乗らない国立のmuseumを取り込むことも可能でだろう。
6.「博物館法制度の今後の在り方について(答申)」が提出された(2021年12月)
答申「概要」の要点は次のものだ。自分なりに要約すれば「博物館は今後は文化施設となる。上位法は文化財保護法に加え、文化芸術基本法と文化観光推進法が主体である」。
?現状では博物館は社会教育施設
?これからは文化施設であり社会的・地域的課題と向き合う場として期待される
?登録制度は設置主体を拡大、審査は引き続き教育委員会がおこなう
?館相互や関係機関との連携を促進しつつ、学芸員の制度改革は先送り
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/index.html
「答申」本文からは次のこと記されている。
?類似施設の登録促進
?国立博物館は登録の対象外
また、内容から下のことも読み取れる。
?第三者機関による認証制度は断念
?ネットワークや連携への踏み込んだ言及はなし
結局、今回の答申を踏まえた法改正の目的は、博物館は文化庁が所管する文化施設であると宣言することではないかと考える。たとえば文化財保護法との関係は、(博物館の事業)第三条において、
八 当該博物館の所在地又はその周辺にある文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)の適用を受ける文化財について、解説書又は目録を作成する等一般公衆の当該文化財の利用の便を図ること。
と明記されている。このような条文を文化芸術基本法と文化観光推進法について追記することなどがあるのだろう。
加えて、社会的役割の重視の明文化だろう。気になるのは、答申には学芸員に地域課題に向き合えという文言がないこと。博物館は、かつての顔役の制度化である社会教育士が活躍する場になるのだろうか。
]]>
文化審議会博物館部会法制度の在り方ワーキンググループ(第8回)2021-9-7のZOOM傍聴メモ
参加者(全部で)44名 始まり頃→60名1504、最大時1605で75人
会議資料
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/12/mext_00033.html
設置要項・委員名簿、開催状況など
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/index.html
事務局(文化庁企画調整課):資料1(ヒアリング結果)の説明1502–1513
設置者(株式会社)については議論が分かれた
多様性への配慮が必要ということかと
小規模館への配慮や入館者数のみでの審査は避けて欲しい
審査基準についての意見
都道府県教委による審査の継続はおおむね了解が得られた。そこに専門的な第三者組織が加わる
更新…[聞き漏らし]
研究機関等についてはさまざまな意見をもらった
ネットワーク人材の共有?についての意見があった
デジタル技術…[聞き漏らし]
論点1定義
本日は、定義や事業などについて具体的な議論をしてもらいたい
基本的使命+今後必要とされる機能(文化審議会博物館部会審議経過報告)、という組み立てと考えている
非登録館についても議論してほしい
論点2公益性非営利性 審査においての判断としてはどうか=審査基準
論点3事業? 「今後必要とされる機能」は事業で議論してほしい
論点4新たな審査基準
佐久間大輔委員(大阪市立自然史博物館学芸課長)
1513–1521
博物館のような機関も社会教育機関であり、それらの背中を押すことが公益になる
門戸を狭めるように機能していないかという疑問。広範な施設を拾い上げ底上げしていくべき
法3条の事業はアップデートする必要がある。とくに「博物館資料に関する」という限定は疑問で無くすべき。博物館の調査研究は、設置目的や使命に基づくとすべき。
教育活動を法に入れ込むことが必要。ネットワーク重視の視点を明記したい。MLA連携の主務官庁が不明、推進体制を明確にすべき
文化庁に移管されたが、自然史館や動物園水族館へのサポート体制が不明。国立博物館がサポートの中心になるような[仕組みや文言]。
半田昌之委員(日本博物館協会専務理事)1521–1534
日博協の立場で意見陳述した。悉皆調査の必要性、政策立案とサポートの体制協強化、という意見を述べた。
数の実態も把握できていない。どんな施設が博物館なのかという基本的認識も共有できていない実態が浮き彫りになった。登録や認証へのインセンティブが必要。
未来を生きる世代への責任
国家民族宗教の枠組みでは解決困難な課題に立ち向かう砦にもなる
ICOMの新定義には社会的なキーワードが新たな博物館の課題が見えている
日本全体の文化政策は、博物館の資料つまり過去の記録と記憶を活用するという方向は同じ方向性がある。その博物館の現状は厳しく、国際的な視野でも博物館施策の充実は必要
博物館法は登録館限定から対象を広げた底上げ法にすべき
資料2として添付した博物館法の棚橋原案は是非一読してほしい
栗原祐司オブザーバー(京都国立博物館副館長)1534–1541
ICOM新定義の経過説明
博物館法は先見の明があった。羅列的だったICOMの旧定義から離脱し、2007年に現行定義を採択したら、それは日本の博物館法に似た内容だった。
以上前半
佐々木秀彦委員(東京都歴史文化財団事務局企画担当課長)1541–1553
資料5として新条文の私案を説明
浜田弘明委員(桜美林大学教授
全日本博物館学会副会長)
1553–1604
そもそも博物館法を改正する理由を振り返る
学芸員の職務の「博物館資料」という縛りは時代遅れ
法改正の最優先は登録制度の見直し、中期的には学芸員制度の改定
意見交換1604–1657
塩瀬隆之委員(京都大学総合研究博物館准教授):博物館法が対象とする博物館を拡張するとき、ICOMの新定義からだとどの言葉を重視するのか委員に聞きたい。たとえば「紛争」など日本に相応しいとは思えない。日本の博物館は何を、どんな博物館を対象としていくのか
半田氏:日本にも国際的な課題もある。国際的には普遍的でも国内的には不適当な言葉は、日本に適切な用語に置き換える。
栗原氏:ICOM定義は紳士協定、法的な有効性はない。紛争に関していえば、過去には日本も当事者であったし美術館には戦争画が数多くある。それを考える場や機関として捉えればどうか。
塩瀬氏:[聞き漏らし]
竹迫祐子委員((公財)岩崎千尋記念事業団事務局長、ちひろ美術館主席学芸員)
:日本にも外国人が多く訪問し、日本人も外国に出掛ける時代であり、外からの目も意識し、内に閉じた法律から脱皮したい。「分かち合う」という言葉は、共通理解よりも相互理解が大切と思っている。
青木豊委員(國學院大學教授):定義の基本要件は[聞き取れず]、小規模博物館つまり郷土資料館の育成存続に重きを置いて欲しい。審査要件もゆるやかに…[音声切断]
内田剛史委員(早稲田システム開発):質問だが、登録制度をどこまでやる気なのか。何らかのハードルを設ける一方、多様性がある。館種と規模などによるモデルケースを示して、未達点をクリアするためのサポートをどうするかなど。
浜田氏:そこまで議論されていない点もある。
小林真理委員(東京大学教授):おさらいが出来、方向性が出た。佐々木委員の私案の議論に基本的には賛成。裾野を広げるのは賛成。地域のなかでの平等性をどうするのか。支援策の対象をどのように選択していくのか。ネットワークで質上げは賛成だが、中核館を作ったとして、ジャンルは別でもよいのかという疑問。今回は登録をとにかくやるということか。
浜田氏:登録博物館法から脱皮したい。
佐々木氏:内田委員の質問に関して、法律でどこまで登録を言うかだが、資料14–15ページが参考になる。これが今後の進め方になる。[小林委員の問いに関して]多様性と基準向上については、資料15ページの設置や経営など何を博物館として担保するかは共通する、他方いかようにやるかはそれぞれの博物館が考える。大規模館がネットワークに資さない、目指さないときはどうするか、は残る[端折りました]。認証博物館は税制優遇や支援対象になる、ネットワークの拠点として期待される館園にはふさわしい補助金や金額が得られると理解している。たとえば収蔵品管理だと中核館がシステムを作り、地域で共有するなど。都道府県に保存修復の担当者なりチームを置いて保存科学の助言支援をするなど。おなじ館種のネットワークでとイメージしている。
小林氏:具体的な数字で、中核館のうち歴史館や総合館は47館(=県0)になる?[途中、聞き漏らし]。底上げや中核館は具体的な数字の根拠をもって改正をイメージした方がよいのではないか。そうでないと夢になってしまう。
佐久間氏:そのためにも博物館の悉皆調査が必要になる。ネットワークは最初から全都道府県でやれるとは思わない、拠点館もそのつもりでいない状態だろう。分野別の全国ネットワークがあってもよい、東北といった圏域での地域ネットワークがあってもよい。テストケースとしていくつか試行して広げていくのがベストと思う。そうでないと制度設計ができない。都道府県別での中核館ネットワークとはイメージしていない。
栗原氏:小林先生の戦略は否定しないが、特別立法ではないので具体性はそこまで必要ない。法律に基づいて計画を作るのが普通。法律に書くと改正には国会審議が必要となる。法律と施策は別に分けて考える。
半田氏:未来志向の博物館を支えているのは郷土資料館であり小規模館である。公立館のうち市町の博物館の割合が高い[全体に対してか、設置者に対してか不明]。それを法に基づきサポートすることを考えると、文化庁が統一窓口になったことは大きなこと。文化政策全体のなかでの博物館の位置付けの強化が重要。活用計画の承認数が増加していて、そこで博物館のモチベーションが重要。博物館がモチベーションが高くでも設置者がやる気が無いとうまく行かない。地域のモチベーションを上げながら、博物館の背中を押す法や制度が重要[やや曖昧な説明]。地域格差は作らないのが原則だが、格差が生み出されるのは設置者のモチベーション。博物館を取り巻く広い文化政策との協働が重要。
小林:栗原委員の話はわかったうえで、。立派な博物館に興味を持たない首長や首長交代で方針がまったく変わる例を見てきた。将来10年くらいスパンでの数値目標はイメージした方がよいと思った。
青木氏:審査要件はゆるやかにすべきと考える。ネットワークの意味が分からなかったが、小規模館を育成するには県や地方単位の博物館機構などを作って育成する[イメージでよい]。文化財保護法との整合性を持たせた「野外」[館外]も博物館の事業と認識できる条文を入れて欲しい。
浜田氏:現行法3条には文化財保護法への言及があるが…。詳細に、あるいは拡大…
青木氏:具体的に言及してほしい。
竹迫氏:聞き間違いかも知れないが、今回の改正では登録制度の見直しは実現したい、定義の見直しは先送りも仕方ないということか
浜田氏:登録や認証の制度を変えると定義も変わるので、それに合わせた変更は必要。他方、全体改正は将来の課題となる可能性があるという事務局に配慮した。
竹迫氏:佐々木委員が、幅広い博物館のより所として、新しい博物館法があるとすれば重要なことだ[端折りました]。
半田氏:最初の塩瀬委員の発言。座長は全部改正を目指すべきと発言したとおり、今日の議論はまさにそのとおりだった。定義がないと先に進めない。それならば全部改正が適切というのが素直な感想。
塩瀬氏:博物館が増加した場合、リソースが変わらないならば恩恵がそれだけ薄まることなる。それでも未来に送る博物館が増えることで[よくなる]。定義変更までは実現するか不明だが、定義の議論をしたこと自体が重要で、そのことを発信していくべき。ここに参加できたことがおもしろかった。
佐久間氏:全部改正が実現できるとは思っていない。残された課題への対応を継続する必要がある。そのようなコミュニケーションを文化庁と続けることが重要。残された課題を認識し続けることが重要と考える。
浜田氏:事務局の示した方向性とは若干違ったかも知れない。
事務局説明1657–1700
文化庁:部会では一部改正全部改正は意識せずに議論してほしい。日程説明。
浜田氏:意見質問あればどうぞ。[意見なし]。ありがとうございました。
]]>JUGEMテーマ:博物館
普通交付税で措置される道府県
地方交付税の算定に博物館の費用はどの程度反映されているか。実際の交付金の額は計算が複雑で理解していないので、交付税の算定根拠についてだけ自主学習した。このうち普通交付税で措置される道府県について見てみたい。市町村は特別地方交付税で措置され普通交付税の対象外となっており、参考資料が今のところ探せておらず、おそらく無いと思っている。個別事例をそのうち紹介したい。なお、文化財行政は道府県も市町村も別に普通交付税で措置されている。
地方交付税の制度や計算式、実際の交付金の額などは総務省のウェブサイトで公開されている。ところが個別の事務の単位費用算定内容は掲載がない。それを知るには財政担当者が用いる公式参考書が必要となる。今回用いたのは「地方交付税制度解説(令和2年度)単位費用篇」(地方交付税制度研究会編 2020)4,100円+税である。交付税については別に「同(補正係数・基準財政収入額篇)」6,800円+税があるが、こちらは計算式と法令ばかりで今回のような金額を知るには不要である。高いし嵩張ることもある。余談だが、2021年4月下旬の購入だが売価は総額表示されていなかった。俺らはいいんだ。
さて、道府県の博物館に触れているのはpp.57–66「(第三節)第五款 その他の教育費」である。第五款 その他の教育費>第一項単位費用算定基礎>第三行政事務内容>5.社会教育費>(2)社会教育施設費>(3)歴史、芸術、民族、産業、自然科学等に関する資料を収集、保管、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供する事務等、として現れる。「博物館」としない回りくどい表現は図書館も同様で「図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料を収集、整理、保存して一般公衆の利用に供する事務等」と記載されている。これは(2)社会教育施設費の根拠法令を「図書館法、地教行法、社会教育法、博物館法」としながらも算定の対象を登録博物館に限定せず、実態としての博物館を広く対象にしていることを示しているのだろう。道府県の類似施設の算定について情報が欲しいところ。
社会教育施設費の費用は総額626,160千円、特定財源:国庫支出金0/使用料手数料8,090/計8,090千円、一般財源618,070千円とされている。一般財源を道府県の仮想の標準団体人口170万人で割った単位費用は364千円。1人当たりの社会教育施設費は36万4千円と算定されている。使用料手数料のほとんどは博物館の入館料と見ることが出来る。特定財源をそのまま該当事務に要する費用と読み替えていることもわかる。
博物館の数については「第四 標準団体行政規模>「人口」を測定単位とするもの」で博物館数は1館としている。職員数は「第五 職員配置>「人口」を測定単位とするもの>5.社会教育費>(2)社会教育施設費:課長級の館長・所長2、職員A8、職員B28、計38人」となっていて、博物館単独の職員数はここでは出てこない。これについては次の費用の積算根拠からわかる。「第二項 標準団体行政経費積算内容>「人口」を測定単位とするもの>(細目)5社会教育費(細節)(2)社会教育施設費」を見ると、図書館費、青少年教育施設費、博物館費、その他の経費に分けて積算内容が示されている。博物館費は下のように記されている。
給与費 68,620千円 職員数11人
報酬 279千円 博物館協議会委員報酬
需用費等 51,224千円 収蔵品購入費等
委託料 39,677千円 施設維持管理等委託(博物館特別展開催を含む)
計159,800千円
また収入として使用料及び手数料8,090千円が計上されている。
つまり地方公共団体の保護者たる総務省の考えを地方交付税からうかがうと、人口170万人の仮想的標準都府県(p.19)では博物館費に人件費込みで1億5,980万円、住民1人あたりちょうど9万4千円を費やしているということである。なお、使用料手数料8,090千円を単純に170万で割ると住民1人あたり4.8円となる。
参考に図書館費を見ると、給与費165,020千円職員数27人(館長1人を含む)、報酬180千円図書館協議会委員9人(委員長1人を含む)、需用費等40,510千円図書及び視聴覚資料購入費等、委託料10,305千円施設維持管理等、計216,015千円となっていた。博物館と比較すると人員で2.45倍、1.35倍である。青少年教育施設費[少年自然の家?]の費用は委託料144,897千円だけ。内容は指定管理料であり「トップランナー方式」がはっきり示されていた。「その他の経費」は需用費105,448千円で社会教育施設活性化事業費等を含むとしている。
以上「地方交付税制度解説(令和2年度)単位費用篇」からわかることはここまでである。不明な部分として職員費用が残る。社会教育施設費では職員数は全体で38名(課長級の館長2、職員A8、職員B28)と階級を示している。青少年教育施設は指定管理なので38名は図書館と博物館の2施設の合算である。「第二項 標準団体行政経費積算内容」の記述の人数とも合致する。ところが博物館費と単独になると職員階級の内訳が非記載なのである。これは紙面の都合なのか、読者に不明部分をわざと残す小細工なのかわからない。課長と職員AおよびBの職員費用はp.12にあり、給料や手当、共済組合負担金などを個別に計上、課長10,008,380円、職員A8,380,650円、職員B5,385,260円である。博物館費の給与費68,620千円を職員数11人で単純に割ると6,238,181円である。
目指すべきこと
博物館の立場で地方交付税の制度に要求するとすれば次のことがあるだろう。
1)社会教育費を独立の款として独立させる
現状では博物館を含む道府県の社会教育の費用は「第四款 その他の教育費」にある。ここに含むのは教育委員会費、総務調査費、学校管理費、社会教育費、保健体育費、教育研修センター費、子ども・子育て支援費である。ここから社会教育費のみ、あるいは子ども子育て支援費を含めて独立させる。それは実情の可視化と将来の構想立案に役立つ。
2)学校関連と同様の措置を求める
小学校費や第中学校費を見ると「本年度主要改定内容」として、1教職員数の見直しを行ったこと、2会計年度任用職員制度の施行に伴う期末手当の支給等に要する経費を措置したこと、とある。おなじことを博物館費に求めて交付税の算定基準額をかさ上げすることを目指す。高等学校費は会計年度任用職員制度の施行に伴う期末手当の支給等に要する経費を措置、特別支援学校費は職員数の見直しを実施している。ところが「その他の教育費」での改訂内容は「「人づくり革命」に基づく幼児教育および高等教育の無償化であり、社会教育については記載がない。社会教育の軽視が露わである。
文部科学省の総合教育政策局なり文化庁企画調整課にも頑張って欲しい。
博物館は社会教育から離脱したのか
余談だが、現在の博物館行政の所管はどこか。数年前までは狭義の国立博物館(東京、京都、奈良、九州)は国立美術館は文化庁、科博や公立博物館などは文部科学省生涯学習政策局社会教育課の所管であった。それが2018年10月からは文化庁に一本化された。問題は文化庁のどこが所轄なのか。国立の博物館は独法化していることもあり、公立博物館を含め博物館の所轄は企画調整課となっている。ところが、文化庁の組織図に博物館の文字は出てこない。文化庁だけに事務の内容は有形無形の文化財や芸術の振興が主体でそこに和食や観光振興が加わる。企画調整課の事務は「文化に関する基本政策の企画立案、劇場等の文化施設、アイヌ文化振興、所管独法等」である。意地悪く読めば、公立博物館が居るのは所管独法「等」の部分だ。
文化庁の組織|文化庁(下のpdfがクリア) https://www.bunka.go.jp/bunkacho/soshiki/index.html
他方、図書館は現在も文部科学省総合教育政策局地域学習推進課とそれらしい部署の所管である。
図書館の振興:文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/index.htm
社会教育法や博物館法は健在だが、現在の事務分掌からすれば博物館は社会教育から外れている。それから文部科学省では課以上の組織名から社会教育の文字が消えている。また、生涯学習の文字が局から課に格下げされている。
大きな改組が進行中で2018年10月の改組によってその一部が顔を出したのかも知れない。
]]>ここ数年急にエビデンスとうるさいなと思っていたら、今更ながら出所がわかった。行政改革推進本部が「EBPMの推進」をしているからだ。EBPMとは「エビデンスに基づく政策形成」Evidence-Based Policy Making で「政策の企画立案・検証・改善を、定性的、経験的なものや過去の慣行にのっとったようなものではなく、データから定量的に効果が導かれた「証拠(エビデンス)」の活用に基づく複数の政策メニューを意思決定者に提示し、可能な限り科学的な客観性を持ち、透明性を高めた意思決定を実践する点に特徴がある」(郭 2019)そうな。
郭日恒(2019)行政のさらなる EBPM 推進に向けて
第二次安倍内閣が2017年1月に設置した行政改革推進本部は同年7月に「EBPM推進委員会」の開催を始めた。推進委員会の設置根拠は「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(平成29年5月30日閣議決定)、設置を決定したのは「官民データ活用推進基本計画実行委員会会長」。ついでに言えば行政改革推進本部も閣議決定で内閣官房に置かれている。中曽根内閣の臨時教育審議会(臨教審)も民主党の行政改革推進本部も法律に基づき設置されていた。安倍内閣以降の国会軽視の姿勢は当初から発揮されていたわけだ。絶対多数を支配する国会状況では議論しても結論は変わらず、やってもムダという本音はわかるが建前を失った政治は恐ろしい。
EBPM推進委員会 https://www.gyoukaku.go.jp/ebpm/index.html
共通テストもEBPM
EBPMは主要省庁が参加する。たとえば批判の嵐で一時停止中の共通テストの英語がそれ。英語の学力のエビデンスとして採用された測定指標は CEFR(Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment)「外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠」。だから CEFR のグレードに応じた民間の英語検定が試験の代用品とされた。
CEFRで見る英語・外国語検定試験 | 旺文社 英語の友 https://eigonotomo.com/hikaku/cefr
CEFRが指標指標と明記されたのは「第3期教育振興基本計画」(平成30年6月15日閣議決定)の「目標(7)グローバルに活躍する人材の育成」であった。
測定指標:英語力について、中学校卒業段階でCEFRのA1レベル相当以上、高等学校卒業段階でCEFRのA2レベル相当以上を達成した中高校生の割合を5割以上にする
「第3期教育振興基本計画」 https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1406127.htm
この部分は第16回経済社会の活力ワーキング・グループ(令和元年12月3日)の提出資料に盛り込まれた。
資料1 文部科学省提出資料「教育政策におけるEBPMの強化」 PDF 1957 KB
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg7/
「経済社会の活力ワーキング・グループ」は内閣府(橋本政権下の2001年に発足)に置かれた経済財政諮問会議(設置根拠は内閣府設置法)のなかの専門調査会のひとつである「経済・財政一体改革推進委員会」の下に位置する。この推進委員会は「経済財政運営と改革の基本方針2018」(閣議決定)に盛り込まれた「新経済・財政再生計画」を実行するために置かれた。「基本方針」は毎年作成されるが、2018年バージョンは自分にとっての重要事項が多く含まれ無視できない。
博物館は2か所現れ「国際博物館会議(ICOM)京都大会の開催等を通じて日本文化の魅力や日本の美を国内外に発信する」「国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園などからなる民族共生象徴空間を開業し、年間100万人の来場者を目指す」という場所。大きな話題を取り上げるも、目的が日本スゴイで目標が来場者100万人というあたりの浅ましさが泣けてくる。私立大学に3つの観点(世界牽引、教養と専門性、実務能力)の選択を迫ったのもこれ。
「経済財政運営と改革の基本方針2018」 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/decision0615.html
エビデンスの測定指標に最適化する業者の勝利
英語能力の指標や獲得方法はさまざまだが、いったん測定指標が明らかになれば明らかになれば、その指標に特化した商品開発、さらには受験システムをパッケージとして売り出すなど商売がしやすくなる。かつての国土開発時代には大規模公共事業の箇所付け情報が非常な経済的価値を持っていた。この情報をいち早く入手し、当該の土地を買い占めたり、適合した資材を調達して大きな利益を上げたこともあるのだろう。現在、それに相当するのがエビデンスの測定指標なのだ。
さらに進めば、自社に都合のよい測定指標を「基本方針」や「何たら計画」に盛り込むことを目指すだろう。英語の共通テストにCEFRが採用されかけたのもそうなのかも知れない。この点については数多く報道されたりツイートを見ていたが、CEFRがエビデンスの測定指標として「経済財政運営と改革の基本方針2018」に盛り込まれており、その方法はEBPM推進委員会が推し進め、第二次安倍内閣が2017年1月に設置した行政改革推進本部が起源であることを知ったのが今日だった。
教育の成果は本人の努力によるところが大きく、制度をいじったところで良い結果が得られるとは限らない。それを良いことに成功すれば改革の成果、失敗は教え方が悪いと現場に責任を押しつける。本質的な教育の成否とは無関係に測定指標に群がるテストや指南書、塾予備校は潤う。これらに市場原理は働くが教育の結果責任を問われることは無い。悪いのは学校の教員と現場に責任を押しつけるシステムが完成している。なんせエビデンスですから。測定指標は絶対なんで。
閣議決定は何所まで可能なのか
それにしてやたらめったら本部や会議を作り、そのなかに紛らわしい名称で部会や幹事会、コア幹事、ワーキンググループを設置、外から見ていると誰が何を議論しているのかまるでわからない。いや同じ人たち、少なくとも思想信条を同じにする人たちが入れ代わり立ち替わり出入りしているだけで、会議や名前は目眩ましと考えるべきか。多くは設置根拠は口出しできない閣議決定だ。いったい閣議決定というやつはどこまでやっても許されるのか。決定事項が会議の設置であってもそこでの方向付けが強制力を得て政策や行政を左右するとすれば太政官制の再現ではないか。
内閣府と内閣の機関は制度的にはともかく、実態として外から見て区別が付きにくい。日本宮内庁や学術会議があるのが内閣府、内閣の機関は内閣直属で国家安全保障会議や構造改革特別区域推進本部、国土強靱化本部や原子力防災会議、社会保障制度推進本部に社会保障制度改革推進会議などがぶら下がる。組織図を見るとびっくりする。これは第二政府なのか? 二重行政そのものではないか。欠けているのは旧文部省と文化財の部分。これはかえって不気味である。
内閣府 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/satei_01_05_5.pdf 3.7 MB
内閣の機関 https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/satei_01_05_4.pdf 2.0 MB
博物館はソ連末期の状況に追い込まれるのか
いまのことろ博物館にはEBPMは及んでいない。学校と違って取るに足らない存在だからだろう。しかし安心はしていられない。財政健全化とか何らかの名目で博物館を淘汰することを目指した測定指標が導入されるかも知れない。あるいは自ら獲得目標と計測指標を設定させ、計測させ、自己評価させることも考えられる。それが資金配分に連動すれば不適切な指標の設定、成果の捏造などにつながり、ほんとうにソ連末期の状況が再現されるのだろう。
]]>JUGEMテーマ:博物館
・学芸員がお金について興味を持ち、活発に議論するには、具体的な数字とその共有が必要と考える。生の数字を見て、初めて関心が高まるだろうから。前回は交付税のなかでも特殊な、しかし博物館が狙い撃ちされそうな「トップランナー方式」についてのメモを公開した。今回は地方交付税についての基礎学習のメモである。
地方交付税は「国が地方に代わって徴収する地方税」(資料「地方交付税制度の概要」)で、地方団体がおこなうべき仕事に必要とする税額に対する不足分が再配分される、と理解しておく。交付税は全体の94%が普通交付税、残り6%が特別交付税として状況に応じた配分がされている。自治体の必要額の算定は「基準財政需要額」とされ、算定項目は都道府県と市町村とで別の扱いだが、項目は共通性が高い。博物館の費用は個別算定経費の教育費の「その他の教育費」だろうか。測定単位は「人口」である。追加された「地域の元気創造事業費」「人口減少等特別対策事業費」「地域社会再生事業費」にも算定される可能性はあるが。
費用算定では特定財源は除外されるとあり、使用料手数料にあたる入館料も含まれる。入館料で稼いだ分は自治体の追加分の財源となる。
以上の資料は「総務省|地方財政制度|地方交付税」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouhu.html
博物館については後述の文化審議会第1期博物館部会(第2回)の資料で、都道府県は普通交付税、市町村は特別交付税で措置されるとしている。法令を見ると市町村の博物館についての措置は「特別交付税に関する省令」に1か所現れる。算定方法や個別の金額についてはネットでは資料は見つからない。
特別交付税に関する省令(昭和五十一年自治省令第三十五号)
(市町村に係る三月分の算定方法)
第五条 各市町村に対して毎年度三月に交付すべき特別交付税の額は、第一号の額に第三号の額から第四号の額を控除した額(当該額が負数となるときは、零とする。)と第二号の額の合算額から第五号の額を控除した額(当該額が負数となるときは、零とする。)を加えた額とする。
三 次に掲げる額の合算額
ロ 次に掲げる事情を考慮して定める額
(10)博物館があるため、特別の財政需要があること。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=351M50000008035
普通交付税で措置される都道府県の博物館については、総務省や財務省の資料は見つからなかった。他方、「博物館に関する基礎資料(平成18年度)」では「博物館振興に係る地方財政措置」に「平成17(2005)年度「社会教育施設費」のうち博物館関連経費単位費用積算(道府県分)」という記述がある(498p)。それによると、測定単位を人口170万人と置き、経費として給与95,220千円、需用費47,292千円などとしている。ただ、この金額を物差しとして、どのような算出方法で金額がいくら措置されたのかは記されていない。ほんとうに興味があるところの記述が無いのは残念だ。
社会教育実践研究センター 平成18年度 基礎資料:国立教育政策研究所
https://www.nier.go.jp/jissen/book/h18/index.html (下の方、分割版なら「VII 博物館に関する基本データ」
現在おこなわれている博物館法改正に向けた議論では、文化審議会第1期博物館部会(第2回)で取り上げられた。議事録を見ると、博物館業界は地方交付税について無知であるので初歩から丁寧に説明があったことがわかる。事務局が提出した資料1にも解説がされており、博物館費よりも文化財保護、現在では活用で交付税措置が2018年度以降充実したことが示されている。
具体的には、文化財の保存では修理維持補修に普通交付税や特別交付税が、活用では解説の多言語化や企画展示広報などのソフト事業に特別交付税が充当される。施設の長寿命化やユニバーサル化も同様である。充当といってもやり方は、事業費の9割まで起債(=借金)が認められ、その3割が交付税で補填するというもの。
文化審議会第1期博物館部会(第2回)|文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan01/02/
議事録の説明では、1)都道府県では博物館の費用は普通交付税、2)市町村では特別交付税(全体の6%で措置、3)費用算定に登録や相当そして類似の区別。3)は登録のメリットが無いことの証左であるが、登録は文科省の制度であるので総務省は関知しないのは当然ともいえる。博物館法の改正の議論では「地方交付税における支援拡大」(第3回ワーキング)も議論対象となっているが、登録のメリットは文科省が独自事業として提供するのが筋だろう。
文化審議会博物館部会での交付税に関する議論は、ネットで議事録が閲覧できる第1期(1−3回、ワーキング1−3回)と第2期(1−5回)をテキスト検索した限りでは実質上述の第2回だけである。「法制度の在り方に関するワーキンググループ」第3回では資料1と2に記され、議事録にも資料1の説明として出現するが、議事録の議論には現れない。あるいは「交付金」という発言の一部が「交付税」だったのかも知れない。
法制度の在り方に関するワーキンググループ(第3回)|文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/03/index.html
博物館部会の資料や議事録をまとめてダウンロードできる資料箱を用意している。ご利用ください。なお、ワーキンググループ(第3回)議事録(ワードファイル)は含まれていない。
学芸員を目指すひとへ:東京農業大学・博物館情報学研究室(オホーツクキャンパス/北海道)
http://nodaiweb.university.jp/muse/ 下の方
文化審議会第1期博物館部会(第1−3回)および法制度の在り方に関するワーキンググループ(第1−3回) zip 32.6 MB
文化審議会第2期博物館部会(第1−6回) zip 45.8 MB
博物館の業界では地方交付税の知識が乏しい。第2回の議事録でも文化庁の担当者が、交付税や財政措置について「博物館関係者の中ではあまりというかほとんど知られていないところがございますので、今日は資料を書き下ろしてまいりました」と発言している。ぜひ今後もお金についてのレクチャーや資料提供をお願いしたい。とりわけ交付税の算定方法や算定額など具体的な数字を知りたく思う。
]]>JUGEMテーマ:博物館
「トップランナー方式」とは「経済財政運営と改革の基本方針2015」に現れた地方交付税の単位費用の積算方式の変更。「基本方針」は、「骨太の方針」とも呼ばれ経済財政諮問会議での答申を経て閣議決定される。
経済財政諮問会議は、経済財政政策に関し、内閣総理大臣のリーダーシップを十全に発揮させるとともに、関係国務大臣や有識者議員等の意見を十分に政策形成に反映させることを目的として、内閣府に設置された合議制の機関です。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/index.html
経済財政運営と改革の基本方針2015〜経済再生なくして財政健全化なし〜(平成27年6月30日閣議決定)
第3章 「経済・財政一体改革」の取組-「経済・財政再生計画」
4.歳出改革等の考え方・アプローチ
[II]インセンティブ改革
(トップランナー方式等を活用し、個人、企業、自治体等の意識と行動の変化を促進)
・自治体については、自治体間での行政コスト比較を通じて行政効率を見える化し、自 治体の行財政改革を促すとともに、例えば歳出効率化に向けた取組で他団体のモデルと なるようなものにより、先進的な自治体が達成した経費水準の内容を、計画期間内に地 方交付税の単位費用の積算に反映し(トップランナー方式)、自治体全体の取組を加速す る。集中改革期間において、早急に制度の詳細を具体化し、導入時期を明確に示すとともに自治体に準備を促す。
・優遇措置を講じる場合には、原則として時限を区切った対応とする。(28p)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2015/decision0630.html
しかしながら、総務省は自治体の業務によってはトップランナー方式を見送り、博物館もそこに含まれている。
第7回_国と地方のシステムWG御説明資料(地方交付税等について)平成29年10月10日総務省提出資料 下線は引用者による
「図書館管理等5業務」はトップランナー方式の導入を見送りと明記(12p)。方針[の根拠」として次のことを列記。「5業務」とは、図書館管理、博物館管理、公民館管理、児童館等管理、窓口業務。
○地方団体においては、以下の観点から指定管理者制度を導入しないとの意見が多い。
・教育機関、調査研究機関としての重要性に鑑み、司書、学芸員等を地方団体の職員として配置することが適切である。(図書館・博物館等)
・地域づくりの拠点として重要な役割を有しており、行政や地域との密接な関係を安定的・継続的に維持していく必要がある。(公民館)
・子育て支援機関として重要な役割を有しており、保育所、学校その他の機関との連携が重要である。児童館等)
・専門性の高い職員を長期的に育成・確保する必要がある。
○関係省(文部科学省及び厚生労働省)や関係団体(日本図書館協会等)において、業務の専門性、地域のニーズへの対応、持続的・継続的運営の観点から、各施設の機能が十分に果たせなくなることが懸念されるとの意見がある。
○実態として指定管理者制度の導入が進んでいない。
○社会教育法等の一部改正法(2008年)の国会審議において「社会教育施設における人材確保及びその在り方について、指定管理者制度の導入による弊害についても十分配慮し、検討すること」等の附帯決議がある。
第7回 国と地方のシステムワーキング・グループ 資料1 地方交付税等について(総務省)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/291010/agenda.html
ところが、この総務省の方針には異議が提出されている。
第7回国と地方のシステムワーキング・グループ議事要旨(2017-10-10)
(参考:文書の検索結果は「博物館」「社会教育」はゼロ、「学芸員」は1か所2回、「図書館」は3か所3回、うち1か所は学芸員と共通)
委員[2番目の発言]
あと、やはり気になるのは、この後、実は水道事業にもかかわるが、幾つか岩盤と言われる部分があって、今回トップランナー方式でよくわかるのは、文教施設だと思う。特に、初めから図書館管理5業務については云々と言っているけれども、その理由がよくわからなくて、例えば司書とか学芸員がちょっと話題になった。「学芸員とかを直接自治体で雇用しなければだめだよね」と書いているけれども、例えば病院などだと、お医者さんとか看護師という専門性の高い人たちがいる病院であっても、もちろん独法もあるけれども、指定管理者制度も進んでいるし、多摩総合医療センターのようにPFIを入れているところもある。
だから、専門性が高い、イコール、指定管理者ができないということには多分ならないと思う。契約の結び方だし、どこを指定管理者に出すかの問題でしかないわけなので、ここの理屈づけがよくわからないなと思う。ここでうまく指定管理者とか民間委託を進めていくことができれば、ある意味、ほかの分野にも広げる余地が出てくると思うので、自治 体が嫌がっているのはわかるけれども、やはりここをちょっと重点的に改革として取り組んでいく必要があるのではないかというのがコメント。(3p)
経済・財政一体改革推進委員会 国と地方のシステムワーキング・グループ- 内閣府 第7回 議事要旨
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/index.html
このコメントに対する博物館や学芸員からの意見表出はこれまであったのかどうか知らない。私見を述べれば、当該委員の発言は、専門業務の対象との関係への無理解から来るものと理解できる。医師や看護婦の専門性が発揮されるのは医療行為である。怪我や病気は地域ごとの特徴はあっても、特定の地域に歴史が反映される風邪などはない。その意味で医療職は普遍的な職業であり、ユニバーサルな専門性を持つ。対して学芸員の専門性は、資料や地域との長い関わりでより発揮される。専門知は特殊あるいは地域的なものとして限定される場合が多い。とりわけ地方交付税の対象となる自治体が設置する博物館で、このことが顕著である。よって、学芸員と医師は同列に議論することは不適切であり、学芸員に指定管理者制度は不向きである。
こうやって相手方の土俵に乗って、情報を追いかけ批判解説するのは労が多く得るものは少ない。継続性や体系性がなく、思い付きでの変更、書面や根拠なき改変や中止中断放置などが多発し、こうやって文章を書いているうちにも変化があるかも知れない。ただの煙幕目くらまし。やりたいことはちゃっかりやる。事前に公表はしない。意見も受け付けない。
以下、2015年と2020年の「基本方針」から博物館に関する記述を抜き出した。それぞれ1か所であり、博物館は些細な問題として相手にもされていないのだろう。それでも現政権が考える博物館像が露わとなっている。国立アイヌ民族博物館はオリンピックの前菜、博物館や美術館はインバウンドの道具である。観光目的地とならない図書館は言及されない。
経済財政運営と改革の基本方針2015〜経済再生なくして財政健全化なし〜(平成27年6月30日閣議決定)
(「博物館」の検索結果は1つ、「図書館」はゼロ)
第2章 経済の好循環の拡大と中長期の発展に向けた重点課題
3.まち・ひと・しごとの創生と地域の好循環を支える地域の活性化
[3]2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けた取組
アイヌ文化の復興等を促進するため、2020年(平成32年)までに国立のアイヌ文化博物館(仮称)を開設するなど「民族共生の象徴となる空間」の整備を進める。(18p)
経済財政運営と改革の基本方針2020〜危機の克服、そして新しい未来へ〜(令和2年7月17日閣議決定)
(「博物館」の検索結果は1つ、「図書館」はゼロ)
第3章 「新たな日常」の実現
2.「新たな日常」が実現される地方創生
(2)地域の躍動につながる産業・社会の活性化
?観光の活性化
ポストコロナ時代においてもインバウンドは大きな可能性があり、2030年に6000万人とする目標等の達成に向けて、観光先進国を実現するために官民一丸となって取り組む。
各国との人的交流回復までの時間を活用して、空港やCIQ(60)など入口の整備、多言語 表記などストレスフリーで観光できる環境整備、スノーリゾート整備や文化施設(61)・国立公園などの観光資源としての更なる活用等、新たなコンテンツづくりに取り組む。
(61) 国立劇場の再整備に向けた検討や、博物館・美術館等の文化施設の機能強化を含む。(25p脚注)
経済財政諮問会議の取りまとめ資料・政策の実施状況
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/decision0717.html
]]>JUGEMテーマ:博物館
文化審議会第2期博物館部会(第7回)2021-3-24のZOOM傍聴メモ
私的な傍聴メモです。事情により聞き漏らしがあり、不完全な部分や誤りが含まれます
委員からの発言を記録、事務局からの回答は一部のみ記載。[ ]はメモ者による注記
ページ数は本日の会議資料「登録制度を中心とした博物館法制度の今後の在り方について)中間報告)」のもの
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/12/mext_00022.html
逢坂惠理子氏(国立新美術館館長)」
1)選別や序列化ではなく「底上げと盛り立て」とするが具体的にはどういう意味か。
2)館長の資格を明確にする、学芸員を必要とするなど。
3)10年程度の間隔での審査が必要ではないか[聞き漏らしのため、後の発言から補充]。
4)登録対象に2ページ?株式会社を含めるのは違うのではないか。他の記載と比べると違和感がある。民間ではどうか。
高田浩二氏(前マリンワールド海の中道館長)
1)他の法令の洗い出しは、誰がおこなうのか。当事者やその関連団体に意見を聞いて欲しい。
2)関連団体は各分野1つと限定せず、広範に意見聴取してほしい。
3)動物園水族館では学芸員というポストがない場合がある。そうであっても、学芸員有資格者が着任すべき仕事や業務を聞き取って欲しい。
4)自分自身は株式会社の水族館で勤めてきた。形式的に営利企業を否定するのではなく、中身を見て民間の活動も評価してほしい。
太下義之氏(同志社大学教授)
1)登録のメリットが議論されているが、腹落ちしない。これをいじったとしても何が意味があるのか見えてこない。結果、博物館がどう変わるかを明記する必要がある。そうでないと博物館村の中の議論に終わってしまう。
2)メリットとは何を目指すのか。手続きよりも、財政的なものが実質的でありがたいはず。博物館への支援は現状の10倍くらいになるという腹をくくって欲しい。そうでないなら、意味が無い。腹落ちしないとはそういう意味。
3)ネットワーク化はわかりやすい。これは登録制度とは別であり、登録制度とは切り離してすぐにでもやっていくべき。これは腹落ちした。
浦島茂世氏(美術ライター)
1)質の向上とは具体的にどういう意味かわからない。利用者からすれば来館と登録の有無は無関係。2)改善のための時限支援は画一化を避け、個性を活かすようにしてほしい。
(事務局)登録や支援は利用者だけを向いているのではない、保存なども含めて考えている。資料の有無によって博物館のあり方が変わってくると考えている。
(栗原祐司氏:京都国立博物館副館長)
株式会社の議論で:民間というと社団、財団も入る。株式会社は営利企業の代表という意味で掲載している。ICOMの定義を見ても、財務省からしても営利団体の登録は困難と個人的には考える。
川端清司氏(大阪市立自然史博物館館長)
1)紐付きの交付税でもよいので、学芸員1名を雇えるような財政的支援が実質的。
2)営利はダメだと言われると、大規模な展覧会は何かと問われる。株式会社海遊館は研究所があり公益性が十分ある。名称の問題ではなく、大事なことは何かという議論をしていきたい。
3)審査でいうと、参考事例にジオパークがある。国内審査の日本ジオパークも学会相当の会議で認定される、これを経て、ユネスコ認定の世界ジオパークを目指すというコースがある。再認定の審査は日本も世界も4年に1回で、かなり厳しく、途中であきらめることもある。博物館の登録や認証も再審査が必要と考える。
4)博物館法の改正とICOMの新定義のタイミングもあり、今回決めていきたい。
半田昌之氏(日本博物館協会専務理事)
1)ここまでの質問はワーキングでも継続議論とした内容と相当重なっており、議論の方向性が見えてきたと思う。
2)株式会社でも個人立でも、登録や認証の対象は形式ではなく中身を見ていきたい。
3)法が無ければ行政はない。審査は、2008年改正の積み残しであり、時代も変化し、博物館の力が再認識されてきている。それを担保する法律と施策実現のための法制度に持っていきたい。
4)個人立でも、資料整理はできているか[聞き取れず]。
5)ワーキングでは認証はスター制度にしらどうかという話もした。欠けている部分を明示し、中核館なり他からの支援が得られやすいようにと。
出光佐千子氏(出光美術館館長、青山学院大学准教授)
1)出光美術館も出発時は出光興産の広報部だった。登録館のメリットが税制であるならば、営利企業を登録対象とすると営利行為と税制優遇は矛盾するのではないか。それを目指した企業が増えるかも知れない。[聞き漏らし]皆うなずく。
2)登録のメリットがやはり見えてこない。設立母体に合わせたメリットの細分化など細かな枠組みが必要。
3)学芸員実習が登録館のボランティアになっている。資金的メリットに議論が集中しているが、人材的なメリットが必要。学生のインターン制度、それを利用した学芸員の交流、など教えた学生が館園に戻ってくるような仕組みがあればよい。
佐々木秀彦氏(東京都歴史文化財団事務局企画担当課長)
1)収蔵品の管理が登録審査のベースにある。それを広げるのが「底上げ」。
2)館園の個性化を目指していく。
小林真理氏(東京大学教授)
1)[ICOMの新定義の話もあり]このチャンスは逃したくない。
2)選別はしないが、底上げは全部は目指さなくてよい。頑張っている館園など絞り込みや具体的な数字を得るためのシミュレーションが必要。
3)博物館の課題は数多く館園によって異なる。すべてを今回で解決するのは非現実的。今後20年なりの恒常的な必要な予算額、5年ごとの特記事業に必要なお金とを区別して考えるべき。
4)細分化も期間と金額とを構想して考える。
5)以上を含めて審査についても考えていくべき。
太下氏
4)対象館が最大5倍、予算が2倍とすると10倍。現状で登録館が1000館でひとり追加で雇うと50億。5倍に増やすと未来永劫200億[聞き漏らし]。
(事務局)登録の議論については、登録制度自体のメリットを議論してほしい
小林氏
6)登録は、補助金や支援施策に手を挙げることができる、という意味で考える。登録すれば自動的にお金が得られるのではなく。
伊藤誠一氏(岐阜県美濃加茂市長)
1)改正にあたり、地域振興やまちづくりを示されたことはありがたい。それが財政支援につながれば更によい。
2)地域の文化を学ぶ場として博学連携を実践し、子どもたちと地域のつながりができてきた。成人式では生まれた当時の写真を展示したり、里山[聞き取れず]、SDGsの取り組みも加えた。
3)博物館は施設ではなく人。学芸員はがんばっている。
4)小規模資料館では10万円の資金でも助かる。がんばっている館園への支援を期待する。
逢坂氏
5)広範な館園を登録可能にするのは歓迎。美術館の定義を議論、再確認する必要が生まれる。
6)無定義なまま[聞き取りとれず]活動が停滞する。
宮崎法子氏(実践女子大学教授)
1)登録は、それにふさわしい施設を示す行為でもある。
2)外圧を利用して中を充実させることはあり得る。登録に必要な[具体的]基準を示すのは質の向上につながる。
3)登録の後には、選択と集中になっていくと思うが、そのまま進むことを危惧する。保存のなかには研究も含まれる。保存と活用がセットになっているが、保存を担保する制度、たとえば[担当の]学芸員を置くなどが必要。できる人が限られている場合、たとえば先生が移動で回ってきて、実質的な専門職員が1−2名というケース[聞き取れず]。
4)ネットワーク化はすばらしい。が、小規模館に担い手がいるのか、職員が不足またはいない館園の場合はどうしていくのか。デジタル化でもそれに労力が持って行かれて本来業務ができなかった経験をした。
5)現場のやろうとしている声を反映させる形で改正が進み、よい外圧になるような、絵に描いた餅にならないような法改正を期待する。
]]>JUGEMテーマ:博物館
2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。今回はこれから議論すべき内容を考えてみたい。
今回のシンポジウムの下敷きとなった日本学術会議の提言は、概要ページが用意されており本文へのリンクがある。回りくどい表現を簡素化すると次のようになる。
提言「博物館法改正へ向けての更なる提言〜2017年提言を踏まえて〜」のポイント
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t294-3-abstract.html
1.背景 「21世紀の博物館・美術館のあるべき姿―博物館法の改正へ向けて」(2017年7月)で次の2つを提言した。
1)博物館法の改正による新たな登録制度への一本化
2)博物館の水準を向上させる新登録制度設計と研究機能の充実
2.現状 2018年から博物館関連業務が文化庁に一本化され、文化財保護法と博物館法の一元化に向けた議論ができる素地が生まれた。博物館法は、現状との乖離を解消することが望まれる。また、現在の学芸員資格制度は、資格保有者だけを増加させている。公立博物館における人事・予算・運営の窮迫は顕著であり、改善の必要がある。
3.求める法改正と展望
1)認証博物館制度への転換
2)学芸員資格制度の改革及び研究者としての学芸員の社会的認知の向上
3)博物館の運営改善と機能強化
4.提言の内容
1)登録博物館制度から認証博物館制度(一種、二種)への転換
2)認証博物館制度の認証基準策定、検証、評価等を担う第三者機関の設置
3)学芸員制度の改正による学芸員の区分(一種、二種)の設定
4)学芸員による独創的な研究を可能とする新制度設計
5)文化省(仮称)の創設による博物館の運営改善と機能強化の実現
やや役人発想が見えるが、今回のシンポジウムはこの提言を受けたものであり、議論の出発点はここにある。しかし、出発点はあくまで例示であって、3月2日のシンポジウムでも別の視点が示されている。それを含め、提言そのものをまず考えてみたい。以下は個人的な意見。
1)登録博物館制度から認証博物館制度(一種、二種)への転換
転換か併用か
提言では登録制度を廃止して新たに認証制度を導入するとする。別の考え方としては、登録制度はそれとして残し、新たに認証制度を導入する、という方式も可能である。たとえば世界ジオパークなどがそれにあたる。認証主体が国際機関であるので、日本の場合は国内法による登録博物館よりもユネスコの世界ジオパークの方が権威があり一般アピールもできるだろう。現実に世界ジオパークのビジターセンターは予算も人員も展示も販売物も地元協力も上手くいっている例が存在する。社会教育機関としての登録博物館、それと研究機関としての認証など登録と認証の両使いも可能だろう。登録から認証に転換するのか、併用するのか、議論が必要である。
区別は差別落胆につながる
国の制度は甲乙を付けて進めることが多い。河川や自然公園(国立と国定)など。博物館の場合、設置主体の違いが甲乙に相当するのではないか。認証制度で甲乙を付けると謙遜から自虐へとつながり、公立館が多い実態を考えると他の自治体との比較から激励なき叱責、住民からの見放しなど誘発する心配がある。調理師免許は最低限の保障であり、味の評価は純然民間団体の仕事である。結果的に権威が生じるのは仕方が無い。けれども国のお墨付きを得た機関が甲乙を付けるのは、ラーメン屋に味の上下の区別を与えるようなものではないか。
2)認証博物館制度の認証基準策定、検証、評価等を担う第三者機関の設置
博物館法か別の根拠か
3月2日のシンポジウムでは、自分はこの点について質問をした。質問は2段階だったのが1段目だけ読み上げられたので、すれ違いの部分があったと思う。質問の内容は、博物館法に基づく認証制度は他省庁が参加可能かどうかを問うた。回答は、それを目指している、実際に参加するかどうかはそれぞれの判断、というものだった。「提言」では認証主体は第三者機関となっているが、その根拠が社会教育法の特別法たる博物館法でよいのか、それとも認証制度自体が博物館協会なりのNGOが定めたものかで他省庁の参加状況は異なるのではないか。世界遺産も決定は国際機関のユネスコだが、審査はNGOのICOMOS(イコモス)やIUCN(国際自然保護連合)が実施する。世の中すべての博物館を文化庁が主務官庁となって仕切ることは果たして可能なのだろうか。
博物館の範囲をどうするのか
提言にも参考資料(pp.24–26)として付記されているとおり、イギリスでは科学館(science centre)や動物園水族館などの生体展示施設は認証制度の対象外である。フランスでも科学館は博物館 musé の名称は使えない。日本の博物館法では博物館の範囲は不明確であるが、第2条の定義に「資料を収集し、保管し」とあるのでプラネタリウムや科学館の展示装置だけでは博物館から外れる。科学館の多くは、科学史や産業応用の展示があるので博物館の定義は満たしている。では、国立新美術館(The National Art Center, Tokyo)どうするのか。新たな認証は得られないだろう。ICOMの博物館の新定義の議論もあり、博物館の改正では定義は避けて通れない。公立館でも同様の事例が生じることを考えておきたい。
Accreditation_Guidance_Mar_2019
3)学芸員制度の改正による学芸員の区分(一種、二種)の設定
誰が求めているのか
博物館は多様であり統一規格の上級資格など現場で実際に役立つのだろうか。属人的な部分が多くなるのは仕方がないことではないか。学芸員に甲乙ができたとして、実効性があるのは狭義の国立博物館と国立美術館に限られるのではないか。
質保証ならば試験制度を導入する
本気で知識技能を担保するならば医師や弁護士のように養成課程の修了者に試験を課せばよい。それは考えないのか。
区別は差別落胆を誘発する(再掲)
国や公的機関による序列は、認証制度とおなじ、それ以上に差別落胆を誘発するのではないか。
学芸員資格保持者としての評価を認める
現在の学芸員あるいは学芸員資格は、社会教育法や博物館法が意図する社会教育機関の職員としての学芸員(遵法学芸員)という意味と、学芸員という国家資格保持者という2つの形が存在する。現実には後者の資格保持者という意味での職員募集があり、選考がなされている。対して、前者についてはほとんど意識されていない。これを脱法的学芸員資格の通用と考えず、博物館法の規範が普及した結果の学芸員資格制度の普及受容と捉えてはいかがか。類似施設が学芸員を募集するのは無知なのではなく、現実に有資格者が求められていると考えてはどうか。
上級資格には機関としてのメリットが必要
博物館によっては発令を学芸員ではなく研究員や主事ということがある。学芸員は資格として見なされ、職名ではない、また職階も表さない。上級学芸員資格が実効性を持つには、公立館や私立館が採用したり利用する利点が明確なことが不可欠ではないか。
4)学芸員による独創的な研究を可能とする新制度設計
研究能力は学芸員の前提
学芸員は博物館法が規定する資格で、博物館法は社会教育法の特別法で、博物館は社会教育法で社会教育の機関とされる。学芸員は法令により存在し、その法令が博物館を社会教育機関と規定するならば、学芸員は社会教育機関の専門職員である。学芸員資格は社会教育機関で働くにふさわしい知識技能を修得した証である。他方、博物館法では学芸員の職務に研究が明記されている。つまり研究能力は学芸員の前提である。ただし、それがどの分野どの程度の研究能力かは問われていない。
学位取得を推奨してはどうか
研究能力の担保や開発は学位の取得が正攻法である。現場からすれば、そのような意欲が実現するような環境整備を求めたい。現在の空気は博物館によっては調査に外勤すること自体がはばかられる。大学院への社会人枠での入学や論文博士の取得を奨励する雰囲気づくりを進めるのはどうか。文化庁から学芸員による調査や研究の推奨、学位取得の奨励を市町村の教育委員会に呼びかける、金銭的財政的な支援が難しければ人員補充の仕組み整備など、繰り返し文書を出すだけでもよいかも知れない。
5)文化省(仮称)の創設による博物館の運営改善と機能強化の実現
意見なし。
博物館法の改正か、他の法令の整備か、別の形か
これからの博物館の充実のための方法は、1)博物館法の改正、2)他の法令を目指した整備、3)別の形、という3弾構えで議論することが肝要に思う。すべての課題について博物館法の改正を目標とする必要はない。他の法令が定める基準を目指した予算的支援や市町村に対する奨励、省令で対応可能な対応などでも博物館と学芸員の未来は開けてくるだろう。現在のメンバーでは思いもよらなかった方策が存在するかも知れない。多くの、とりわけ博物館の現場からの意見やつぶやきを知りたいと思う。
地方では設置者の区別を無くしたい
自分が考える現時点での大きな問題は、文部科学省以外の国立の博物館施設が博物館を名乗らず、博物館業界に背を向けている点である。たとえば北海道の旭川には北鎮記念館という国立の施設がある。
北鎮記念館
https://www.mod.go.jp/gsdf/nae/2d/hokutin2/top.html
自分は未見で、ウェブページも残念な感じであるが、資料の充実した展示であるらしい。漫画ゴールデンカムイのヒットにより聖地としても注目されている。自衛隊が設置した施設で英語は Hokuchin Museum である。しかし、北海道博物館協会には加盟せず、館員は自衛隊の職員が3か月や半年勤務で交代して勤めているらしい。利用者からすれば設置者や法的根拠に関係なく、展示を観覧する。他省庁設置の施設であるけれども、このような施設に学芸員有資格者がまっとうな条件で勤務できるような仕組みの構築が欲しいと思う。もし学芸員に相当する職員が不在ならば、利用者としても、職場としてももったいない。
今回は私見丸出しの内容で失礼しました。どこかで意見交換を続けていければと思っています。
]]>JUGEMテーマ:博物館
2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。今回は2つの新聞記事を中心に2008(平成20)年の博物館法改正を巡る議論を見てみたい。
その前に、前回紹介した資料から1回目の検討会議の配付資料は一読しておきたい。2008年以前の改正点や関係する議論がまとめられている。
「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」(第1回)配付資料
博物館に係る過去の検討結果について(総括)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/06101611/003.htm
博物館に関連する答申・報告等
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/06101611/004.htm
社会教育主事,学芸員及び司書の養成,研修等の改善方策について[関係部分]
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/06101611/005.htm
「博物館法改正 期待外れ」(朝日新聞 2008年8月30日)
さて、2008年6月の博物館法では、事前の検討会では包括的な博物館登録制度の創出、学芸員資格への見習い期間の設置や上級学芸員など学芸員資格の高度化など、博物館法の2本柱そのものの改正を提案した。ところが実現したのはデジタルデータの資料への位置付け、学習活動の機会の提供や奨励、評価と改善の情報提供、学芸員の研修の努力義務などに限られ、いずれも現状追認や掛け声であり、博物館活動に直接的な影響がない。実質的な変更点は博物館協議会に「家庭教育の向上に資する活動を行う者」を加えるとした点だけであった。それよりも多くの若者に影響を与えたのが、学芸員養成課程の科目「博物館に関する科目」の科目数と単位数が大幅に増加させた2009年の博物館法施行規則(文部科学省令)の改正であった。
このように不十分な改正結果に対し、改正後に記された評論や3月2日のオンラインシンポジウムの資料でも「期待外れ」という評価を紹介している。じつは、この言葉は2008年8月30日の朝日新聞の見出しを引用したものだ。記事中には「空振り」という言葉も複数回用いられているが、取材対象となった人が発した言葉には「期待外れ」も「空振り」も現れない。これらは新聞社による代弁である。それを直接の関係者が引用して使うのはいかがなものか。自身の考えがそのとおりであればよいが、そうでない場合は誤った認識を広げてしまうのではないだろうか。
記事のまとめに従うと、期待されたのは学芸員資格の条件改正、つまり学部卒業後の1年間の実務経験を経て資格発給、そして上級学芸員資格であり、この2案がともに見送られたことを「期待外れ」と表現したと思われる。疑問なのは「期待」は誰がしたのかということ。大学の学芸員養成課程は前者は明確に反対であるし、上級学芸員について示現したいという声は聞いたことがない。博物館や現役の学芸員にとっても見習いを1年抱えるのは負担であるし、上級学芸員が待遇改善につながるならともかく、雇用組織の職階の方が重要である。何よりも多くの学芸員は研究者を自認しているので、欲しい資格や称号は博士であり、研究費である。包括的な登録制度についても記事にあるとおり、登録制度は社会教育法の特別法たる博物館法の規定である。社会教育機関としての自己規定がない博物館はあって当然であるし、学芸員としては登録を願っている地方博物館は現状の制度か、せいぜい後に実現した首長部局での登録実現で十分だろう。学芸員資格の高度化も包括的な登録制度も現場からは出てこない発想である。
「学芸員格下げ? 大学側から反発も」(朝日新聞 2006年11月28日夕刊)
時間的には遡るが、博物館法改正で早くに反応したのは大学の学芸員養成課程だった。公式ウェブサイトも無く、関係者以外にはほとんど知られていない組織に、私立大学を中心に学芸員養成課程で構成する全国大学博物館学講座協議会(全博協)がある。全博協が博物館法の改正で問題視したのは、学芸員資格の高度化、なかでもこれまで学部卒業と同時に取得できた学芸員資格が、学部卒では学芸員補となってしまうこと、つまり基礎資格あるいは学芸員補として「格下げ」されてしまうことだった。
学芸員資格の高度化の内容は、1)上級学芸員制度、2)高度な資格養成、この2つである。改正の当初案は、2006年11月11日の第2回会議の配付資料として公開されている。
学芸員資格の改正について(案)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/07012608/004.htm
これによると、学芸員資格の改正案は、
1)学芸員補 学士+博物館に関する科目、注)現行の「学芸員」相当を「学芸員補」とする
2)学芸員 [従前の養成課程の修了に加え]登録博物館における5年以上の学芸員補の経験(+研修)
3)上級学芸員 登録博物館において10年以上の学芸員としての経験+実績・研修・国家試験
などとしている。注目されるのは<現行の「学芸員」相当を「学芸員補」とする>の注記であり、紙媒体での配付資料での記載の仕方は承知していないが、学芸員養成課程の大学教員には相当の衝撃であったと想像する。協力者会議の委員には学芸員養成課程の教員もいたので、一部の大学教員は協力者会議の開催直後に状況を把握していた。
2007年3月に「新しい博物館制度の在り方について(中間まとめ)」が公表される。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/toushin/07051101.pdf 438 KB
ここで協力者会議での検討内容が一般の知るところとなった。学芸員資格の高度化については、資格付与に必要な実務経験は、登録博物館で1−2年と緩和されている。当初案の「5年」は落しどころを探るための見せ値だったのだろう。上級資格も経験年数の例示が7年と短縮されている。
全博協では「中間まとめ」公表の翌月2007年4月に学芸員資格の高度化について参加大学からの意見聴取を始めた。全博協は協力者会議のヒアリング対象となり、2007年4月19日に開催された「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」(第10回)では意見が配付資料とされている。これも現在はネットで公開されている。要点は、<大学において学芸員資格を取得する場合、『「博物館に関する科目」の修得(現行資格に該当)の後』『博物館における一定年数(例;登録博物館1〜2年)の実務経験を資格要件とする。』(短大の場合は3年の実務経験の後基礎資格を取得し、さらにその後1年の実務経験)との案には反対の意を表明したい>である。
辻教授資料[全国大学博物館学講座協議会東日本部会会長校 東北学院大学歴史学科]
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/shiryo/07102509/003.htm
配布資料を集めたページはこちら。リンク表示やURLをたどって戻れないので。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/old_index.htm
そして全博協では2007年5月28日付けで伊吹文明文部科学大臣にあて「博物館法改正に関する要望書」を提出した。
結論としては、2008年で示された学芸員資格の高度化と包括的な登録制度という改正案は、学芸員養成課程と博物館という2つの現場の意向を反映した内容でなかった。むしろ利害が対立する内容であった。だから博物館法改正に対して現場からの支持が得られなかったのだろう。もっとも学芸員養成の高度化は省令改正で実現したし、包括的な登録制度は無理でしたと示すことが落しどころであれば目的を達したのであるが。問われるべきは、前回2008年の法改正は誰のための改正だったのか、省令改正で実現した養成課程の科目と単位の増加、しかも講義科目ばかり、は何が目的だったのかということである。
これから予定されている博物館法の改正でも同じことが論点となる。次回は、博物館法の改正の意味と目的、受益者を考えてみたい。現実的で実利がある制度改革は、博物館法ではなく、他の法令や制度にあるのかも知れない。
]]>JUGEMテーマ:博物館
2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。今回は2008(平成20)年の博物館法改正を巡る議論を見てみたい。
2008年6月の博物館法の改正点は、博物館資料に電磁的記録(デジタルデータ)を新たに規定、学習活動の機会の提供や奨励の追記、運営状況の評価と改善の情報提供の努力義務化、学芸員の研修の努力義務などであった。これらは現状に適合した文言が付加された現状追認であり、実質的に重要な変更点は、2009年4月におこなわれた博物館施行規則(文部科学省令)の改正にあったと考える。安倍政権による教育基本法の改訂を反映し、博物館協議会の委員の任命基準に「家庭教育の向上に資する活動を行う者」が加わったこと、大学の学芸員養成担当教員として重大だったのは、学芸員養成課程の科目、法令用語では「博物館に関する科目」の科目数と単位数が大幅に増加したことにあった。大学の学芸員養成課程に職を得たのが2006年は、養成課程の全国組織である全国大学博物館学講座協議会(全博協)が総力を挙げてこの改定に向き合っていたことを覚えている。
これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議
博物館法の改正にあたっては意見聴取をおこなっている。名付けて「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」。第1回の会議は2006年10月11日、以降2008年10月30日まで19回にわたり開催されている。すべての配付資料の一覧と議事概要は下のページで公開されており、15回目までは配付資料の一部が見られる。
これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/old_index.htm#toushin
第1回の会議の配付資料にある設置要綱を見ると、調査研究事項が3つ掲げてある(4つ目は「その他」)。
1)博物館法の博物館について
2)博物館登録制度の在り方等、博物館評価について
3)学芸員資格制度の在り方について
つまり、主要な議論の対象は、定義、登録制度、学芸員資格の3つだったことがわかる。設置要綱は何度か改定されたようだが、議論の対象は一貫して上記の3項目である。
協力者会議は2008年10月まで開かれたが、成果品はもっと早くに提出されている。成果品とは次の4つ。これらは下のページから入手可能である。前出とは同名別ページ。以下、発表順に成果品の概要を記す。
これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/014/index.htm
2007-6-1 新しい時代の博物館制度の在り方について(報告)
2009-2-18 学芸員養成の充実方策について(報告)
2009-4-30 博物館実習ガイドライン
2011-3-26 博物館の設置及び運営上の望ましい基準の見直しについて(報告)
○博物館の設置及び運営上の望ましい基準の見直しについて(報告)
協力者会議の最初の報告で、当時の博物館の現状をまとめ、地方分権を進めていた時代背景があることがわかる。博物館の状況とは、社会教育調査や日本博物館協会による館園数、職員数、入館者数、指定管理者制度の導入数、資料購入費などである。
「望ましい基準」の説明として、内容は国として目指す内容、活用方法は評価の基準、かつて示されていた数値基準は地方分権の観点から適当ではないとする。館種や設置者別に面積や資料点数を示した「公立博物館の設置及び運営に関する基準」(昭和48[1973]年11月30日文部省告示第164号)などは参考資料に示されている。なお、数値基準は、2003(平成15)年に告示された「公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準」で削除されている。
その上で、新たな望ましい基準に求めることとして、博物館法の改正点に留意し、基準は私立博物館にも拡大させ、閉鎖に伴う資料の散逸を防止する規定を設け、基本的運営方針の明文化と公開、一次資料と二次資料の区分けは不要で、調査研究の項目を追加、展示更新を促し、学習支援の職員を置くことが望まれ、インターネットなどによる情報公開と意見反映を求め、連携事業を増やし、開館時間は延長し、必要な数の学芸員を置くことが重要で、職員の研修機会を拡充し、多様な利用者に応じたサービスを提供し、ショップを充実させ、地震や水害などの自然災害さらには伝染病や事故を含めた危機管理が必要である、とする。
網羅的で、伝染病を明記するなど現在を見越したような充実した内容となっている。また、報告書の公表が東日本大震災の直後であり、被災資料の復旧や防災対策についての付記がある。
○博物館実習ガイドライン
薄いが背表紙があり冊子としての体裁を持つ。「ガイドライン」以前の指針を知らないので、どのような改善があったのかは言及しない。
ガイドラインでは、実習を学内実習と館園実習とに分け、学内実習は2単位以上、館園実習は1単位以上とした。学内実習は、見学と実務(実技)、そして館園実習の事前・事後指導から構成されるとし、館園実習の日数は5日以上と明記した。単位数に加えて日数が明記されたことで館園の不安や不明を除去したといえる。は以前は「館務実習」という用語も使われていたが、このガイドラインで館園実習が公式用語となったといえる。
さらに館園実習では館種ごとに実施計画が示された。反応はさまざまで、これを見て荷が重いと感じて実習受け入れを躊躇する場合もあったと想像される。
館園実習を実施でも登録制度が課題となる。博物館法施行規則には、登録または相当で実施と明記したあとに「(大学においてこれに準ずると認めた施設を含む)」という但し書きがあり、なんとも歯切れが悪い。
○学芸員養成の充実方策について(報告)
冊子の表紙には「第2次報告書」とある。これは「新しい時代の博物館制度の在り方について」が第1次という位置付けによる。内容は「博物館に関する科目」と、資格認定の見直し、具体的には学芸員養成課程の科目を8科目12単位から9科目19単位へと増大させ、試験認定では4年生学部卒業者だけに課していた1年間の実務経験(学芸員補)を全ての試験合格者に拡大する、無試験認定は学部での養成とのバランスを取るとともに口述試験を必須とし名称を「審査認定」に改める、としている。
無試験認定というのは、博士の学位取得者が単位修得や認定試験を経ずに学芸員資格を得る制度である。博士号が博物館学や教育学なら比較的容易だと聞くが、それ以外の分野では学芸員になることは相当困難だった。実例では学位取得後に登録博物館で学芸員補を5年ほどやって、やっと認められた例を知っている。それもニュースレターを毎月発行して、そこに編集者として名前を載せて実績にするなど涙ぐましい努力を積み重ねてのことである。学部生であれば極端な話、授業に出席していれば自動的に資格が手に入るのに、学位を持っていながら、なぜこんなにも苦労するのかという課程での単位修得の容易さとのアンバランスを修正を目指したもの。
○新しい時代の博物館制度の在り方について(報告)
報告書の章立ては、1)博物館をめぐる昨今の動向、2)博物館とは、3)博物館登録制度の在り方について、4)学芸員制度の在り方について、5)博物館運営に関する諸問題について、6)博物館に関する総合的な専門機関の必要性、と幅広い内容となっている。「2)博物館とは」は定義について、「5)運営に関する諸問題」は、指定管理者制度、公立館の入館料、博物館倫理、人材養成と確保、について記している。上級学芸員は「6)専門機関の必要性」で示された。5)では地方独立行政法人による博物館運営にも言及している。
網羅的総花的であるので「早急に検討する必要がある事項」を別紙として述べている。中身は、登録制度と学芸員制度の2つ。登録では共通基準(最低基準)と特定基準の2つを設定することを提言、学芸員では、1)養成科目の見直しとして科目と単位数の追加、モデルカリキュラムの作成、実習の見直し、2)実務経験の導入とガイドラインそして審査証明制度など、3)大学院での養成制度、などを提言した。
登録制度は詳しく改訂の意義を述べている。新たな登録制度は、利用者にとって明確な博物館の指標となり、設置者への予算人員確保要求の根拠となり住民への設置や費用負担の説明になる、結果、博物館への関心が向上し、博物館全体の質の向上につながるとする。
加えて、登録の対象外の博物館についても具体例を示して登録への移行やその方法を述べる。言及されたのは設置者別に、1)国や独法(文科省以外を含む)、2)大学、3)首長部局、4)営利法人、5)個人、と網羅的である。いずれも登録館への移行や検討が可能とし、個人立館は法人化のうえ登録と想定している。
上級資格については、実施は第三者機関、対象は高度な専門性に加えて管理能力、名称は上級学芸員で館種や分野の名称を付記、評価の方法は一定期間の実務経験と業績を有する者が館長の推薦によって申請し、専門分野の審査委員会が合否を決定する、という構想だった。
以上、2008年の博物館法改正とその後の文部科学省令(博物館法施行規則)の改正を振り返った。今後の博物館制度を考えるにあたっては、これまでの議論、とりわけ前回の改正における論点を踏まえることはしておきたい。
そのうえで、報告書や議事概要では知り得ない議論の内容について、10年という時間が経過してことを踏まえ、可能な限り公開あるいは共有されることを望む。次回は改正に対する意見や反応を見ることにする。
]]>JUGEMテーマ:博物館
2021年3月2日にオンラインシンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」がおこなわれた。発表途中からツイッターでは「#今後の博物館制度を考える」というタグが立ち上がり、さまざまな意見や感想が書き込まれた。概要は下のとおり。
公開シンポジウム「今後の博物館制度を考える〜博物館法改正を見据えて〜」
http://www.scj.go.jp/ja/event/2021/307-s-0302.html
主催: 日本学術会議史学委員会博物館・美術館等の組織運営に関する分科会、全日本博物館学会、名古屋大学人文学研究科附属人類文化遺産テクスト学研究センター
後援:日本博物館協会
開催趣旨:博物館とは空間と時間を越える文化のハブとして日本と世界の人々の幸いに資するものである。その趣旨のもと、ICOM(国際博物館会議)が3年に1度世界各地で開催する大会が2019年9月に京都で開催された。それをも踏まえて日本学術会議は2020年8月に提言『博物館法改正へ向けての更なる提言〜2017年度提言を踏まえて』を発出した。1952年施行の博物館法に規定される登録博物館制度や学芸員資格等の構造的な不備は、2008年の博物館法改正においても抜本的には改正されず、現実との乖離が著しい。そこで『提言』では、従来の登録制度に代わり文化財保護法との整合性のとれた新・認証制度と学芸員を研究者と認定する制度の構築の必要を示した。以上を背景として本シンポジウムでは、全日本博物館学会との連携の下に、現在進行しつつある博物館法改正を含めた、今後の日本の博物館と学芸員の制度について皆で考えてゆきたい。現在の我々は、過去からの文化遺産を、未来の世代にどのように伝えていったらよいのだろうか。
開催趣旨にあるとおり、今回の博物館法改正の議論は2019年に開催されたICOM(国際博物館会議)京都大会での博物館の新定義を巡る議論の経験を活かし、さらには前回2008年の法改正での未達部分の実現を目標にしたものである。シンポジウムの発表者の多くは前回の法改正から議論に加わってきた人たちであり、積み残しとなった課題や論点などが意識されている。今後の博物館制度を議論するにあたり、まず、現在の博物館法の課題を復習しておきたい。ここからは学芸員養成課程で習うこと。
博物館法とその課題
博物館法は1952(昭和27)年に施行された教育法体系に位置付けられた法律である。現在の教育法体系は日本国憲法から導き出されるもので、日本国憲法>教育基本法>社会教育法>博物館法となる。博物館法は博物館を定義し、国家資格の学芸員を制度化した。博物館法の2つの柱が学芸員と登録制度である。
登録制度
博物館は近代法以前から存在し、その名称も一般に普及している。法律に基づいて定義して型にはめることができない。病院や銀行のように特定の業務を専門におこなうために名称を独占的に使用する「名称独占」にもなっていない。そして博物館法は罰則規定のない規範法、世に模範を示す法律である。結果、博物館という名称は誰がどんな目的で使ってもかまわない。レストランや土産物店が何とか博物館と名乗ってもおとがめなしである。
そこで、自由奔放多彩な博物館のなかから、社会教育機関としての条件を備えた施設を選び出し、それこそが戦後の新しい日本が求める博物館、博物館法が適用される博物館という方法を考え出した。それが登録制度である。広い意味での博物館のうち、博物館法が定義する博物館、つまり資料を収集保管・展示教育・調査研究するまっとうな博物館を都道府県の教育委員会が申請によって登録する、という方法である。ひとたび博物館に登録される、登録博物館になると固定資産税などの税制上の優遇があり、国鉄の鉄道コンテナの輸送運賃の割引が受けられた。
なるほど、これは戦後の日本が自主的な成人の学習を支援する社会教育を進めるうえでよい方法である。問題は、登録の対象となる機関の設置者を地方公共団体と非営利法人に限定したことである。条文そのもので国立の博物館は博物館法の対象から外してしまった。では、東京国立博物館や京都国立博物館など由緒正しい博物館は何者かというと、これらは国立美術館とともに文化財保護法に設置根拠を持ち、文化財保護行政の一翼を担うことが役割である。社会教育機関としての出自はない。では科博はどうか。国立科学博物館の設置根拠は文部省設置法にあり所属部門は生涯学習局であった。狭い意味での「国立博物館」には含まれない。いまでこそ博物館行政が文化庁に一元化されたが、それ以前の文部科学白書を見ると文化庁の博物館と科博との差は歴然で、国立博物館が1館ごと1ページを使って写真入りで紹介されるのに、科博は写真も載らず、県博との共同事業の紹介に留まるといった具合であった。このあたりは明治時代の内務省と文部省の対立、それが現在にまで尾を引く現実として語られる部分である。
さらに今となっては博物館を登録する意味や利点が見えない。2010年代までは登録博物館は教育委員会の所轄の必要があった。自治体設置であっても組織上首長部局の所管では登録の対象外で、名称も外形的にも立派な県立博物館なのに、首長部局にあるというだけで類似施設だった。ところが、首長部局の類似施設でも学芸員を多数配置し、展示も高く評価され、科研費を得ている博物館が存在する。ここの博物館は博物館法からすれば博物館ではないが、外形も内容もまっとうな博物館として半世紀近く活動している。博物館法の登録制度とは、いったい何なのか。少なくとも博物館の優劣を直接示すものではないらしい。
学芸員制度
学芸員にも同様の問題がある。学芸員は確かに博物館法に明記された国家資格ではあるけれども、医師や弁護士のように無資格者が名乗ると処罰される名称独占の制度がない、同様に一般には禁止された業務を可能とする「業務独占」の規制がない。また免許ではなく任用資格である。つまり学芸員は登録博物館に勤め、任命権者から学芸員として任命されている限りにおいての学芸員であり、登録博物館に勤めるのをやめれば自動的に学芸員でなくなる。さらに言えば、博物館法が適用されるのは登録博物館に限られるから、それ以外の博物館、「博物館に相当する施設」(博物館相当施設)やいわゆる博物館類似施設に勤める専門職員は法的には学芸員ではない。外形も内容もまっとうな博物館でも類似施設の場合、そこで働く専門職員は法的には学芸員ではないのである。
もちろんこれは制度的な話であって、類似施設の職員も実際には学芸員としての仕事をまっとうしている。また、登録博物館でなくとも採用や仕事を続けるにあたり学芸員資格を要求することもある。逆に業務独占が無いことは学芸員不要論にもつながる。動物園や水族館では、薬品の購入など技術的面に加え制度面でも獣医師免許が必要とされる。学芸員を置いても具体的に得られる業務上のメリットが無い。教育普及事業で大きな役割を果たすことは、学芸員でなくても個性の範囲、属人的な形で可能だろう。ならば学芸員資格に何か実質的な意味はあるのか。
なお、博物館法には雇用関係については規定がない。学芸員は「置く」。登録博物館に勤める個人事業主、一人親方学芸員は制度上可能である。
規範は普及したが、制度が有名無実化
少し横道にずれたが、大手の公立博物館の場合、類似施設であっても学芸員を配置し、展示と普及事業をおこない、研究報告を出版することは普通にある。これは博物館法の示す博物館の規範が広く受け入れられた成果と評価できる。この意味においては博物館法は戦後の日本に大きく貢献したといえる。しかし、博物館法に準拠せずともまっとうな博物館活動が実現していることは、博物館法が定める制度が実質的な意味を失いつつあることを示している。文化行政が教育委員会から首長部局へ移管されるなか、後付けで、首長部局の博物館も登録博物館として留まることを可能にしたり、国立博物館を類似施設から相当施設に移管することがおこなわれたが、根本的なところで博物館をめぐる用語の混乱や制度の形骸化はなくならない。博物館と資料館はどう違うのか、博物館に名称独占を導入するのか、学芸員に業務独占行為を何か付加するのか。自治体や博物館が博物館法を本格的に無視して活動し始めたらどうするのか。すでに許可や届出の関係から動物園は環境省、水族館は水産庁の法を向いて仕事をしている。
ほかにも課題はあるだろう。とにかく、学芸員と登録制度を見直す。現状に追いついた形の法律の改正は必要という議論は長くあったと想像される。逆に、博物館法は規範法に徹して、登録も学芸員も無くしてしまえという考えにも納得しそうになる。それはさておき、博物館法の改正の機会は第一次安倍政権で巡ってきた。2006年に教育基本法が改正されたのを受け、教育法体系の下位法である社会教育法が2007年の改正となり、2008(平成20)年に博物館法の改正にこぎ着けたのである。
何かを議論する際、基礎資料やバックデータが手元にあることは必須である。かつては一部の専門化にだけ許された特権であったが、インターネットとアーカイブの充実で一般にも可能となった。博物館行政については「博物館に関する基礎資料」がそれに当たる。最新版はこちら
社会教育実践研究センター 令和元年度 基礎資料:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
https://www.nier.go.jp/jissen/book/r01/index.html
旧年度版もアーカイブされており、2003(平成15)年度版からは全文pdfが入手できる。旧版には最新版では削除された資料が掲載されているかも知れない。
国立教育政策研究所研究成果アーカイブ(「博物館に関する基礎資料」をタイトルで検索)
(つづく)
]]>JUGEMテーマ:絵画
去年12月初めて絵を買った。絵といっても版画、リトグラフ。ごくわずか色鉛筆での彩色が施されていて、これがまた自分だけへの特別感があってうれしくなる。北海道の網走という地方在住なので、美術作品の購入はなかなかたいへん。作品を見るのは美術館がせいぜいで、画廊で現役作家の作品を見て回ることは困難で、時間とタイミングが必要となる。
作者について知ったのは4年前、札幌出張の際に立ち寄った展覧会「TOKTO国際ミニプリント・トリエンナーレinSAPPORO」でのことだった。ポスターに採用された作品に一目惚れ。あいにくポスターの販売がなかったのでチラシを持ち帰り、机のそばに貼って眺めていたが、そのうち作者の名前も忘れてしまった。ところがツイッターで作者の作品を見たのである。誰かのリツイートか何かで、ポスターとは別だったが、ひと目でその人のものとわかる作品だった。そこで名前を確認して、フォローして、ウェブサイトを見て、作者とつながることができた。そして、ギャラリーでの個展があるとわかる。
夏に京都での個展があったのだが、コロナなのために行くことができずに終わり、秋、池袋で再び個展が開かれると知る。関東に出掛ける必要があったので時期を合わせて出張をつくり、個展の最終日の夕方にギャラリーに行くことができた。そこは別世界だった。とくに大きい作品は紙面やモニタとは完全に別物で圧倒される。「命の繋がり」がコンセプトで、それを稠密に書き込んだ具象で表す。写実的だが具体的なモデルはないと思っていた。ところが、今年はコロナで在宅勤務の期間もあり、かつてないほど庭に出て手入れをした。じっくり見る機会も増え、いま住んでいる古い家の庭に作品とおなじ世界が広がっていたのである。これはうちの庭だ、と。
入手したのはけっこう大きい作品。言葉が足りないが絵柄と全体の白黒の比率が好みのもの。クリスマス直前に届き部屋に机の横の壁に掛ける。作品を頼んだとき、画廊に居合わせた常連さんが声を上げた。それは値段ではなく作品の大きさ。110×90cmの大きさの作品を置く場所、壁面があるというのが驚きだったらしい。田舎は作品には遠いが、近くに置く環境には恵まれているのであった。
美術作品がそこにあるというのは、毎日がうれしい。目をやる、眺める、時に細部に目をこらす。こんなに違う時間が流れるなんて思ってもみなかった。似た経験は、小学生のとき初めて熱帯魚を飼ったときか。経験は無いが、たぶん犬猫は違うのだろう。彼らは家族になる。魚はそうではない別の世界に生きる、けれども虫とは違って気持ちがわかる。作品にも気持ちが宿っているのだろう。作者の意思や気持ちを読み取っている、あるいはそう思い込むということかも知れないが。
]]>JUGEMテーマ:北海道
お正月に電話すれば良かったのに、ごめんなさい。元日はS君と2人で北海道最東端、根室市の納沙布岬で初日の出を見に行きました。これが11月30日に茨木から戻ってからの唯一の遠出となりました。これ以外に網走から出たのは北見と斜里にそれぞれ4−5回です。ずっと家にいます。
2021年が開けてすぐ、2時起床、2時半出発の予定がS君がなかなか起きてこず、出たのは2時45分くらい。もちろん真っ暗な中、斜里を目指す。国道244号線は思った以上に車が少なく、斜里までの間にすれ違った対向車は2台、さらに先、根室市厚床まででも10台くらいだった。根北峠を越えて標津のセブンイレブンで菓子パンとコーヒーを購入、S君は車から降りなかった。ここから先は路面も良いだろうという予想は外れ、真っ白ではないがずっと路面の一部に雪が堅くこびりつく冬道状態。ぶっ飛ばすことはできず?0kmくらいで走ったか。
左前方は海越しに根室の街明かりを見つつ進み、本別海からは西に向きを変えて内陸へ森の中を進む。ポンヤウシュベツ川の最初の支流だろうか、車道の左から視線の高さで大きな鳥が横切る。大きさと翼の白茶の太い縞模様からシマフクロウで間違いない。が、場所を確かめるのも面倒でそのまま走り去る。カーナビがあればよかったと思う。
昔、古い友だちA さんが住んでいた牧場の中の一軒家を左手に見つけたら厚床に到着。ここからは左折して釧路からの国道44号線を東に進む。車は増えて抜かれるようになる。さすが傍若無人の釧路ナンバー、網走での走行は時速?0kmが標準だがここでは10km増しが基準。?0kmだと「遅い」と躊躇無く抜いていく。根室市街に着く頃は東南の空が赤くなってきた。知らない高速道路ができていて誘導されて乗る。さっき抜いた車はこの1車線道路を知っていたのだ。やや遅い車に付いていって市街地に入る。市役所の先で右に曲がり、次の左折を間違えて直進してしまい、交差点を越えたところにあるコンビニ経由で行くべき道に戻る。このころには車列ができている。1車線で抜くことはできず、日の出までに到着できるかちょっと焦る。抜いても先にはまた車列なので諦めて進む。
納沙布岬の一口には6時半ころに着いた。もう車は数珠つなぎでなかなか進まない。早くに居れば本当の岬の近くの駐車場に入れられたのだろう。Uターンして戻る車が出始める。道路端での整備員のお兄さんに聞くと、この先に駐車できる場所は無いので、日の出は戻って漁港から見た方がよいという。ならばとUターンしてさっき見つけておいた草原に続く脇道に入る。この道は民家に続くが、左折すれば断崖の縁まで行けるが、乗っている車は日産ノートe-power。FFなので無理はできない。物置の前に駐車。S君は先の空き地に止めろと言うが、そこは昆布干し場。そう告げると「昆布干し場なら昆布を見つければいい」といって、すぐに根にあたる部分を見つけて納得していた。案の定、4−5台の車が駐車に入り、犬を連れた漁師に追い出される。うち1台がびびったのだろう、ダッシュして猛然と車を走らせたので漁師が怒鳴っている。当たり前だ、タイヤが空転して平らに慣らした小石を散らしてしまうじゃないの。
初日の出は水平線からとは行かなかったが、いい感じの雲の間から昇ってきた。久しぶりにニコンD7100+70–300mmズームを使って撮影。多くの人は海が見下ろせる草原の端で日の出を見ていたが、自分は草地のなかで牧草を入れて撮影。これだと撮影場所の様子が写真に入る。あとで年賀状の写真を見て「こんな良いの撮れたの」とS君が驚いていた。このへんが年の功。
帰り道は自分が運転。行きはS君がずっとハンドルを握っていたが、帰りの方が眠いことが十分に予想されたので。根室半島を反時計回りに、今度は北側を進む。市街地に入るとS君が裏道に行くという。夏に汽車で根室に来ているのだが、その宿と食事の場所を確認するらしい。1回外したが1回目で宿は特定、食事場所も判明した。1度来ただけなのに正しく場所がわかるなんてスゴイ、と本人は満足。JR根室駅でトイレ。さあ本格的に運転となるが、せっかくなのでいろいろ寄っていく。
春国岱に行きたいというので、まずはビジターセンターに寄ってみると冬季休館。車道も行き止まりで道としては間違いだったのだが、シカがいっぱいいる。すべて雌子の群れで10頭ほど。車道からはまったく見なかったのに、すこし脇に入るといるのだ。植生がほんとう心配である。春国岱は風蓮湖の湖口の橋を渡る。車はここまで。木道が延びているので歩き始めるが、凍てつく風に負けて数秒でやめ。晴れているけど、氷、風蓮湖は全面結氷していた、を渡る風が痛い。次の目的地は尾岱沼。標津市街地の手前から野付半島を進みビジターセンターを目指す。10月にもシーカヤックで来ているのだが、これが遠い。到着するとトイレは冬季閉鎖。観光客が1組いたので立ち小便は諦める。間近に見える国後島は海岸沿いの建物が上下方向に伸びている。蜃気楼だ。帰り道、わずかに湾曲した根室海峡の向こうの標津の街も建物が伸びている。斜里岳を背景にいい写真が撮れそうなので撮影。S君は興味なさげ。
標津サーモン科学館に行く、S君が突然言い出したのでトイレもあるので行くことにする。毎年正月開館しているのでやってるだろうと調べもせずに思い込む。科学館では建物のすぐ前に車が2台止まっていた。並んで駐めようとすると、ドアから館長が出てきた。誰かを送り出すところで前の車が出て行った。市村に聞くと今年はコロナで正月開館はしていないらしい。来客があったし魚の確認もかねて出勤したとのこと。来るのだったら電話してくれ、と当たり前のことを言われてしまうが、寄るのを決めたのが20分前だったのでそのまま来てしまった。
まあ入れやと中に入る。こちらの見世物は成長したS君。最後に来たのはG君が0歳のときか? G君と3人で来たことあったっけ? まずトイレを済ませ、館内を一周。魚には興味がさほど無いだろうからあっという間に見終わるも、売り出し中のチョウザメ指パクはよろこんでやってみるが怖がってちゃんと口に指を入れて無さそう。エレベータで展望塔に昇ると快晴の風景が広がっていた。
再び根北峠を越え、藻琴の原生牧場へ。D型ハウスから焦げ茶色のラマが長い首を出してこちらを伺う。S君がスキー場があったというので半信半疑ながら見ると奥の看板にしっかり書いてあった。上のレストランの建物まで行くと動物の飼育場もあって、20年くらい前に脱走事件があったニホンザルは1頭だけ居た。さらに進み藻琴神社に行く。ここが自分は初詣。夕べや今朝はまつりごとがあったようだ。
ようやく帰宅。往復で寄り道してほぼ12時間行動。S君は網走神社へ初詣へ。元気だなあと思いつつ、戻ると昼寝していた。
]]>JUGEMテーマ:博物館
ICOM日本委員会が今月末(2020年6月)を締め切りとしている「博物館の定義に対する意見」を先ほどメールで送信した。これは昨年9月に開催された第25回国際博物館会議ICOM京都大会の臨時総会の議案となり、非常に多数の意見表明がおこなわれた後に採択の延期だけが決まったICOM規約に組み込む博物館定義の改訂に対する意見である。
延期された採択は昨年の京都大会の会場では今年6月にパリでおこなう年次総会でとアナウンスされたが、その後、今年の総会は議論だけで採択は来年2021年以降とされた。今年の総会では、ICOMの国際委員会(分科会)や国内委員会(国別組織)が意見集約したものをたたき台に議論をおこなう、そのために4月末日までに意見をICOM本部に送るという話であった。ところがCOVID-19の影響で今年の総会は延期となり、ICOM日本委員会からは4月10日に意見がある人は今月末までに日本委員会あてにメールで送信するという案内があったのだった。
以下は自分が本日送信したメールである。
ICOM日本委員会さま
博物館の新定義に対する意見をお送りします。
1.ICOM規約第3条第1項の博物館の定義については、現行の定義のままとする。昨年の京都大会で議論された新定義は規約に組み込む定義としては現在的価値観が過剰でふさわしくない。博物館の定義は歴史的課題とは独立に博物館の機能と役割を明示した内容に留めるべきである。ICOMはヨーロッパ域内の国際関係を超え全世界的なNGOである。歴史や文化さらには価値観の共有が限られた国々や地域がともに行動できる定義に留め置く禁欲的な態度が求められる。
2.新定義については、現在の経済的に発展を遂げた国や地域の博物館に与えられた課題が明確に表現されており、2020年代の博物館あるいは博物館界の使命として位置付ける。規約に組み込むか、別立ての文書とするかなど文書の地位については意見を持たない。
--
宇仁義和(うに・よしかず)
JUGEMテーマ:博物館
昨日ツイッターでユーチューブに博物館のニュースチャンネルがないと嘆いた。そこで博物館の YouTube チャンネルを拾い出してみた。
動くものを展示している動物園や水族館、そして科学館は動画と相性がよい。けれども美術品の鑑賞や民具の使用実演、講座や講演の記録、修復作業や保存配列、野外調査の様子など、動画こそふさわしい博物館の資料もある。博物館の資料に関連した文化財や町並み、自然の風景もコンテンツとなるではないか。
コロナの影響や展示工事などで休館している時など潜在的な来館者とのつながりを保つ重要なチャンネルのはず。今後は博物館の動画チャンネルが増えることを願う。国立の博物館で記載が無いのはチャンネルが見つからなかった博物館。
なお、< >で囲った博物館名はユーチューブチャンネルには無いので補ったもの。検索や初心者のことを考えれば、チャンネル名には日本語の正式名称や愛称を入れるべきだ。
<日本科学未来館>MiraikanChannel
チャンネル登録者数 1.15万人
展示紹介、実験映像、トークショーにアニメーションと充実している
https://www.youtube.com/user/MiraikanChannel/featured
【国立科学博物館公式】かはくチャンネル
チャンネル登録者数 記載なし、42,135 回視聴
展示紹介から普及事業、研究者のモノローグなどで画面サイズもさまざま
https://www.youtube.com/user/NMNSTOKYO/featured
<東京国立博物館>TokyoNationalMuseum
チャンネル登録者数 3310人
常設展示や庭園のツアー、研究員による展示解説など正統派、外国の博物館員も登場
https://www.youtube.com/user/TokyoNationalMuseum/featured
京都国立博物館トラりん
チャンネル登録者数 990人
ゆるキャラが折り紙したり、職員が集まって短歌を作ったりバラエティー番組風
https://www.youtube.com/channel/UCTL5ge3mys0fmncEYDFKb_Q
国立国際美術館
チャンネル登録者数 319人
メイキング映像、プロモーション映像、開館40周年記念展は12人が語る
https://www.youtube.com/channel/UCmox3PPjarAXuRQNh4jcxkg
国立民族学博物館 (National Museum of Ethnology, Japan)
チャンネル登録者数 587人
特別展の紹介がほとんど
https://www.youtube.com/user/MINPAKUofficial
国立歴史民俗博物館 National Museum of Japanese History
チャンネル登録者数 210人
全6点中、国際企画展示「昆布とミヨク−潮香るくらしの日韓比較文化誌」が5点
https://www.youtube.com/channel/UCUwOqRe9BMv1qhnQzecsI3Q/
<標津サーモン科学館> shibetsusalmon
チャンネル登録者数 30人
チョウザメ腕ガブ、踊るユムシ、ぷかぷかカイダコとかマニアック
https://www.youtube.com/user/shibetsusalmon/featured
仙台うみの杜水族館公式
チャンネル登録者数 562人
メガネカイマンやアメリカビーバー、ダイオウグソク食レポなど意外な内容
https://www.youtube.com/channel/UCxI5Dn0i7ACI_0GSic4tqHw/videos
埼玉県こども動物自然公園(SaitamaChildrensZoo)
チャンネル登録者数 2180人
もくもぐタイムや赤ちゃんなどほのぼの映像、ペンギン突撃シリーズなど
https://www.youtube.com/channel/UCNCn6mBBDfbuTr4Q0_4xcWg
<江戸東京博物館>Edo-Tokyo Museum
チャンネル登録者数 246人
展示室や特別展の紹介。展示室が広いので屋外収録のよう
https://www.youtube.com/channel/UCHULFfLXb5QsTH6ASDW5jRA
東京ズーネットBB
東京動物園協会が運営する館園(上野動物園、多摩動物公園、葛西臨海水族園、井の頭自然文化園)の動画配信サイト。動物図鑑、お知らせ、シアターで動画の数は約1000本!
https://www.tokyo-zoo.net/movie/index.html
横浜・八景島シーパラダイス
チャンネル登録者数 1530人
シーパラCM、よしもとお笑い芸人、イルミネーションなど娯楽番組が主流
https://www.youtube.com/channel/UCe-b3jajzFAY3NzwYNS7I4w
新江ノ島水族館公式チャンネル
チャンネル登録者数 1.74万人
クラゲから軟体、魚、イルカショーまで盛りだくさん。LIVE配信が売り物のよう
https://www.youtube.com/user/EnosuiMovie/featured
新潟市水族館 マリンピア日本海
チャンネル登録者数 132人
動画5本、うち4本が6年前。もっと見たいです
https://www.youtube.com/channel/UCDXsTKaJXaO88NpqHLBdmBw
公式動画チャンネル名古屋港水族館
チャンネル登録者数 4170人
世界唯一というナンキョクオキアミへの給餌、水族館近くでのスナメリ調査など貴重
https://www.youtube.com/channel/UCK3U37dAefBwlGpTPOeywcA
鳥羽水族館
チャンネル登録者数 4720人
アザラシ、イルカ、ジュゴンなど海生哺乳類が主体、水中入社式も
https://www.youtube.com/user/TobasuiChannel?feature=mhee
琵琶湖博物館
チャンネル登録者数 33人
回るボルボックスとかミジンコの血流など微小生物プランクトンが充実
https://www.youtube.com/channel/UCGrj0nj628Y0jTaUSvLgLFQ
舞鶴引揚記念館
チャンネル登録者数 記載なし
動画6本、地域学習が主体
https://www.youtube.com/channel/UCJGJpPGVCw-_Flq3FaeHBFQ
大阪市天王寺動物園(Osaka Tennoji Zoo)
チャンネル登録者数 4420人
飼育日誌やエンリッチメント報告のほか、イギリスに婿入りしたコアラの近況
https://www.youtube.com/channel/UCRb3-Nt6Z6JQmJHMyMgsLkA
大阪・海遊館 Osaka Aquarium Kaiyukan
チャンネル登録者数 4780人
可愛い系もバックヤードもあり、1時間を超える動画は環境ビデオによいかも
https://www.youtube.com/user/OsakaKaiyukan
アドベンチャーワールド公式チャンネル
チャンネル登録者数 8340人
はやりパンダ、ライブ配信もある
https://www.youtube.com/channel/UCVEmpbL5VzfXsULPFeRsj4Q
城崎マリンワールド 公式
チャンネル登録者数 記載なし
魚や海獣のほか、釣りのコマーシャルも
https://www.youtube.com/channel/UCE7FFwlwLahtrRgdBlaFi_A
【公式】池田動物園 ikedazoo
チャンネル登録者数 103人
個体の行動主体で1分未満の短いものが多い
https://www.youtube.com/channel/UCkPdzsm1uR5ZOunQYuONaCA
四国水族館公式/SHIKOKU AQUARIUM
チャンネル登録者数 649人
大人の水族館妄想ロマンス、スタップの話、水族館の建設工事のメイキング映像
https://www.youtube.com/channel/UCauB61GghuPwz5aEFVFEkgA
愛媛県立とべ動物園
チャンネル登録者数 1460人
キリン、ライオン、アフリカゾウと大型動物が多い印象
https://www.youtube.com/channel/UCATcoO27HDvwzkdEOFx_69A
福岡市科学館
チャンネル登録者数 54人
できたばかりか動画15本、いちばん古いのが1月前
https://www.youtube.com/channel/UCPoWzxvstQ0nUXA8Cy2YFsQ
長崎バイオパーク公式
チャンネル登録者数 26.7万人
カピバラだけで何十本、もっと? うちで踊ろうコラボもある
https://www.youtube.com/user/biopark
<大分マリーンパレス水族館 うみたまご>umitamagostaff
チャンネル登録者数 1090人
CMながら読み聞かせ絵本、多言語のPR動画がある。これはユニーク
https://www.youtube.com/user/umitamagostaff
【公式】海洋博公園・沖縄美ら海水族館
チャンネル登録者数 1510人
美ら海が多いが、海洋博公園の植物園や博物館の動画も
https://www.youtube.com/channel/UCXjkj8-HaOvX7o-fzhOu7Ng
OKINAWA ZOO & MUSEUM公益財団法人沖縄こどもの国
チャンネル登録者数 332人
動物園ほ他、ワンダーミュージアム、科学実験や工作。タイトルのみ多言語
https://www.youtube.com/channel/UCab3aiKQAmnlmUaN9nwy3WQ/videos
ここまで見たところ、国立の博物館はおしなべて動画の数が少なすぎる。チャンネル登録者数が数百人はその反映である。それから概要の記述が簡素すぎる。短い文章の過半数が著作権の主張や管理者などの事務連絡ではなく、もっと詳しく興味が持てる内容にしてほしい。
それから個別の博物館ではコンテンツ不足であれば、束アイドルよろしくポータルサイトを作るとよいかも知れない。実現するまでこのページがその役目を負っておきます。
ではお前はどうなんだ。動画をアップロードしているのかと問われれば、わずか4本だが、いちおうチャンネルは持っている。世界的にもめずらしい場面を記録した動画が1つあり、この1本のためにチャンネルを作った。画質はミニDV、キャプションはわずか、ナレーションなしだが、2014年7月27日に公開して以来150万回以上視聴されている。残り3つは数百回だが。
UNI Yoshikazu
チャンネル登録者数 3170人
動画4本、実質1本で150万ビューを稼ぐ
]]>JUGEMテーマ:博物館
ICOM京都大会の報告書をざっと見ました。別冊博物館研究「ICOM京都大会2019特集」と合わせて読むとうまい具合に理解が深まります。
ICOM京都2019最終報告書(日本語版)
190ページ pdf 23.3 MB
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/kyotohoukokujap.pdf
読むのがたいへんなので、要点を書き出しました。結果報告として重要なのは採択された決議の全訳、資料としては登録(国別参加者数ほか)や参加者アンケート、参考資料の京都大会を準備実施してきた委員、協賛企業や出展者の名簿などがおもしろいでしょう。国別参加者ではロシアが6位というのに驚きです(165p)。プログラムについてはICOM委員会リスト(16p)を参考に興味のある国際委員会のセッションを見る、
個人的には秋篠宮殿下の「開会式のおことば」(29p)がお守りのように重要で、「標本」という言葉を用い、最も大切な意義に「保存と継承」を取り上げたことに感激しています。
内容
挨拶 スアイ・アクソイ会長、佐々木丞平ICOM京都大会組織委員長(京都国立博物館館長)、青木保ICOM日本委員会委員長(前国立新美術館館長)、銭谷眞美日本博物館協会会長(東京国立博物館館長)
概要 6ページ
数字で見る京都大会(写真多数)、日程表、大会テーマ「文化をつなぐミュージアム―伝統を未来へ―」
プログラム(簡単な内容報告を含む) 116ページ
ICOM委員会などリスト、規約に基づく会議(採択された決議全訳、日本委員会提出決議文の解説)、式典、式辞、開会式、基調講演、全体会合、国際委員会(分科会)のセッションほか
運営 大会への歩み、主催者、運営組織、開催都市と会場、ボランティア、参加助成、PR、登録(国別参加者数ほか)、参加者サービス 18ページ
参加者アンケート(日本在住者41%) 4ページ
財務報告 2ページ
大会後のイベント 2ページ
参考資料 26ページ
委員会名簿(組織委員会、運営委員会、事務局)、協賛協力一覧、出展者、オフサイトミーティング(会場外会合)、エクスカーション(巡検)、制作物一覧(参加者への配付資料、各種パンフレットほか)、メディア掲載、参考資料(ICOM規約、博物館の定義:現行および新提議案)
別冊博物館研究「ICOM京都大会2019特集」 1320円+送料400円
https://www.j-muse.or.jp/03books/other.php
「報告書」はとっつきにくい、よくわからないという場合は、この「別冊」から読むのがよいと思います。「報告書」と重複する内容はごくわずかで、京都大会の概要を知るにはこちらの「別冊」が適しています。巻頭の委員長や会長などの挨拶が、どれもえらく力が入った文章で微笑ましいと感じるほど。手応え十分だったのでしょう。本文はさまざな立場で博物館に関わる人たちの寄稿で、いろいろな意見や経験を知ることになります。日本とICOMの関係と歴史、京都大会実現までの経過など時間的な奥行きからも理解ができます。
この2冊を回し読みして館内でICOMについて話ができればよいのですが、いまの状況ではリモート飲みでやるしかないかも。
]]>JUGEMテーマ:博物館
報告書は世界を変える第一歩
報告書と聞いて思い起こすのは、自分の場合は「ローマクラブ報告書 成長の限界」(1972)や「経済構造調整研究会報告書 前川リポート」(1986)、「学芸員養成の充実方策について「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」第2次報告書」(2009)などがある。これらは議事録や講演録として参加者以外にも内容を伝えること、それに加えて提言や宣言など意見集約と意見公表をおこない、その後の世界を変える役割を担っている。世界を変えるとは大げさだが、制度や仕組みの変更の手続きとしての諮問機関の報告でなくとも、調査で歴史や実態を明らかにすることや研究によって無意識におこなわれてきた事柄やきれいごとに隠された意味を浮かび上がらせるなど、論文や報告書には人々の考えや行動、物の見方を変える力を持つ。ちいさいことでも報告書にはその気概がほしい。
ICOM京都大会の振り返りイベントとは
以下は次の報告書を見ての感想となる。当日の参加はできなかったため、知り合いから送ってもらった。
「ICOM京都大会からみた あたらしいミュージアムのかたちとは? ICOM京都大会2019報告会・ワークショップ報告書」
日時:2020年1月13日(月・祝)
会場:京都文化博物館
主催:京都歴史文化施設クラスター実行委員会・ICOM京都大会2019組織委員会・ICOM日本委員会
平成31年度文化庁地域の美術館・歴史博物館を中核としたクラスター形成事業
報告書は公開されて意味を持つ
このワークショップは「平成31年度文化庁地域の美術館・歴史博物館を中核としたクラスター形成事業」として国費も投入された公のものである。国民すべてが内容を知る権利を持ち、なによりも全国の博物館や学芸員が参照すべき内容を持つ。開催場所は京都市であり、北海道や沖縄、本州でも空港から離れた場所からの参加は時間的にも金銭的にも困難である。当日参加できなかった人たちに向けて何らかの報告をインターネットで公開するのは義務ともいえる。
ところが現在のところ、この報告書はインターネットでは公開されていない。前半部分は京都大会の内容紹介で舞台上の人物や投影されたスライドを多数収録していること、当日の解説もオリジナルな内容が含まれるからだろう。後半のワークショップも人物が大きく写る写真などが含まれており、全体をネットで公開するのは著作権の尊重や肖像権から控えたと想像する。とくに解説では限られた参加者に向けたその場限りの話もあったかも知れず、不特定多数が目にする、誰が読むのかわからないインターネットでは公開が難しいのは理解できる。もっともこの感覚は日本独自のもので、紙媒体がOKならネットでも大丈夫のはずだという考えもあるかも知れない。
それはさておき、公開できる範囲、積極的に公開すべき内容はないのか。それとも公開するほどの価値がないのか。公開した場合の費用対効果が読めないのか。現在のネット情報は開催のお知らせに限られる。ついでに言うとチラシがpdfでリンクされているが 8.5 MB もある。これくらいのファイルサイズならばクリックする前にわかるようにリンクのところで明記してほしい。現在はリンク切れになっているし、もうちょっとメンテナンスできていたい。ファイルサイズは国会図書館のサイト Current Awareness Portal の情報。いつも思うのだが、ここのサイトは要領よく簡潔で参考情報も気が利いている。
関連イベント | ICOM Kyoto 2019
https://icom-kyoto-2019.org/jp/related-events.html
【イベント】ICOM京都大会2019報告会・ワークショップ「新しいミュージアムの形とは?」(1/13・京都) | カレントアウェアネス・ポータル
https://current.ndl.go.jp/node/39687
見られることを意識したい
報告書にとって途中経過は省略可能であり、重要なのは結果である。議論の経過は掲載すべきだが、雑談は必要ない。今回の報告書でいえば、ワークショップの結果が最も重要である。しかし報告書の内容ではワークショップの成果が結局何だったのか、わからない。班別学習でアクティブラーニングをしたのはわかるが、そこでの発話は班の意見なのか何なのか。アンケートの回答が掲載されているが、まとまりなく不完全な文字列をどう受け取ればよいのか。平たい板に付箋を貼り付ける作業はもはや陳腐で、若い人は小学生からやらされてきた。あの方法は口下手であっても意見が出しやすい利点があり、意見を引き出す方法としては効果がある。報告書にはマジックで意見を書き込んだ模造紙を博物館の専門家が広げて持ってる写真、伝えたいことを記したサイコロが並んだ写真が多数掲載されている。教育学関係の学会発表なら付箋からアレンジして活発な発言が得られたとする証拠写真になるだろうが、これはICOM日本委員会の報告書である。財界や政治家の偉い人たちが報告書を手に取ったとき、へーICOMってお気楽な集まりなんだなあ、という印象を与えないだろうか。古い言葉でいえば、女子供の博物館という偏見を持たれてしまうのではないか。報告書は読者に向けた物であると同時に、政治や経済界に向けた宣伝道具としても機能する。そこまで考えた上で、この編集内容だったのだろうか。
ワークショップが和気あいあいとするのはかまわない。意見を求めても発言する人が固定するので、何らかの仕掛けが必要なことも多い。けれどもそれはその場の都合であって、公的な報告書では不要ではないのか。教育学的な成果発表は切り離して別にすればよい。
意見の形成は積み上げて成る
ICOM京都大会の宿題は「ミュージアムの定義改正」である。このワークショップのタイトルも「あたらしいミュージアムのかたちとは?」と宿題を受けたものである。けれど報告書にはワークショップの結果が見えない。活発な意見交換があり、たくさんの意見が出され、班や参加者で共有しました。それが何なのか。共有すべき範囲は日本の博物館関係者全体ではないのか。そのための報告書のはずであり、公開すべきはワークショップの成果である。それをインターネットで公開して博物館関係者の共有物とするべきではないのか。もちろんワークショップの結果は日本全体の統一見解ではない。各論羅列でよいのである。それでも一定規模の人数の意見交換の後に生まれた結果としてコンセンサスが得られたのであれば一定の意味がある。それを第1段階の基礎として、日本博物館協会なりICOM日本委員会が参加者以外からの意見を募集する。そして日本委員会の見解をまとめていくという、ICOM日本委員会としての新定義に対する意見の積み上げ、組み立てが可能な機会だったのではないか。
現在、ICOM日本委員会は会員に向けて定義改正に関する意見収集を呼びかけている。しかしそれは京都会議以降の意見集約の段取りや道筋がまったくないままの一般公募である。1月のワークショップが意見集約に位置付けされておらず、せっかくの開催があまりにもったいない。
Facebookには「ICOM「ミュージアムの定義改正」についての意見交換グループ」が存在するが、当初から投稿者は少数で、3月以降は更新がほとんどない。原因のひとつが最終的にはICOM日本委員会の意見集約との関係が不明なこと、そこに向かう道筋が不明なことに思える。長い在宅時間が何かを変えるか。
]]>JUGEMテーマ:博物館
きのうICOM日本委員会から会員あてのメールが届き、年次総会の延期と博物館定義の意見募集について案内がありました。日本委員会の意見募集は6月末日まで受付とのことです。全文とICOM事務総長の会議延期を伝える手紙を貼り付けます。
意見収集は会員からですが、ICOMの趣旨からすれば博物館や関係機関・企業で働く人や研究者であれば会員外からでもかまわないでしょう。もし会員外からの提案は受け付けないという場合は当方が代わって意見提出しますのでお知らせ下さい。
意見収集や提案が結果的にICOMの新定義に反映されなくとも、多くの異なる博物館、働く立場や境遇、目指す方向から意見が出されることは博物館の業界にとってプラスになります。日本の博物館に対する意見提起や批判批評は、官邸や官邸官僚からのものが幅をきかせています。博物館の伝統的な考えや行動様式を小馬鹿にし、文部科学行政や文化財保護行政の流れを無視したものですが、見方によっては因習やしがらみにとらわれない斬新な提案ともいえます。
昨日、2020年4月10日も「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律」(文化観光推進法)が成立したばかりです。具体的な中身はWiFiやキャッスレス情報でデジタル化のようです。これは文科省の法律の概要に明記されています。例によって計画を作成して認定を受ける、推進事業者と連携するなどとされ、結局は作文屋と仲介屋に税金をつぎ込む仕組みです。
文部科学省のページ
https://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/mext_00379.html
NHKの記事
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200410/k10012379201000.html
いまの政権はこのような事業を推し進めるのでしょう。博物館の現場からすれば、それに対向する意見集約、その前提となる意見交換の場が必要なのです。ICOMの新しい定義への意見収集が、そのきっかけになればと思っています。
--
ICOM日本委員会
会員 各位
(bccでお送りしています。
新型コロナウイルス感染防止に係るICOM関連事業等の計画変更について、つぎのとおりお知らせいたします。
<新型コロナウイルス感染防止に係るICOM関連事業等の計画変更について>
*ICOM本部から
2020年の年次総会、諮問会議の延期について:2020年6月10日〜12日の日程でパリにて開催予定だった年次総会と諮問会議は延期となりました。新しい日程は未定となっています。
(添付:本部事務局長からの通知)。
*ICOM日本委員会から
1. 2020年の国際博物館の日記念シンポジウムの開催について(ICOM日本委員会):
5月16日(土)に東京国立博物館にて開催予定だったシンポジウムは、集会形式での開催は行わないこととします。現在、主要なプログラムについて、感染リスクのない形でインターネット配信することを検討しています。詳細は決まり次第ご案内します。
2. ICOM日本委員会の2020年度の理事会及び年次総会の開催について:
5月に開催すべく準備を進めてきた今年度の理事会と総会は、集会形式の会議は行わず、書面による開催といたします。書面理事会にて成案を得た議案を各会員に郵送し、葉書で返信いただいた結果に基づき審議を行い、結果を通知する予定です。議案書の発送は5月上旬を予定しています。
3. 採決延期となったICOM規定の博物館定義見直しに対する意見募集について:
本年1月にICOM本部から示されたスケジュールによると、MDPPでの継続的検討を経て、2021年6月の年次総会にて採決予定となっています。ついては、日本委員会としても国内会員のご意見を収集することといたします。ご意見をいただける方は、6月末日までにICOM日本委員会
<icom@j-muse.or.jp> へメールにて「博物館定義に対する意見」のタイトルを付してお送りください。
ICOM日本委員会
]]>
JUGEMテーマ:博物館
ようやく『ユネスコと博物館』(雄山閣 2019)を読んだ。タイトルにあたる主要な部分を執筆された林氏は一般向けの商業出版には入りきらないユネスコの原典について、直リンクによる文献リストを作成されている。これはたいへんに助かることで、タイミングこそ異なるが2015年の勧告の作成過程が追体験できる仕組みになっている。なお、直リンクで示されたpdf文書などの多くはウェブページからリンクされている。まずはここを訪問するのがよろしい。
Recommendation on the Protection and Promotion of Museums and Collections | United Nations Education
本書のうち、ユネスコ2015年勧告については、2017年9月18日に京都国立博物館で開催されたワークショップ「2015ユネスコ勧告を読みと解く―今後の我が国の博物館像を考えるために」の林氏の講演を下敷きに書物としてまとめたものになる。当日は台風が心配されたり演者の1人が欠席されたりした。
「2015ユネスコ博物館勧告を読み解く」参加報告
ユネスコは国連の専門機関であり、各国政府が分担金を負担する国際機関である。国連は地球上のほとんどの国が加盟し、総会での議決は人口や経済力にかかわらず1国1票である。事務総長が欧米以外からも選ばれるなど、第三世界の存在感が大きい場である。本書では、ユネスコ2015年勧告もアフリカや南米、中国など非欧米諸国の意見によって相当程度に修正が加えられたことが詳しく述べられている。
また、タイトルには無いが中身の半分はICOMと日本の博物館業界、そして京都大会の招致の内幕だった。ここを担当された栗原氏の記述は数字や名称が多数記され、直接の典拠は示されていないが参考文献を合わせれば相当の確度で事実を追及することが可能な資料性の高い書き方になってありがたい。
他方、ICOMはNGOである。会員の構成はヨーロッパが過半を占め、そのなかにはオランダのように人口に較べ会員数が飛び抜けて多い国もある(下表参照)。議決権は国内委員会と国際委員会の役員だけが持ち、当然ながら役員の出身地は欧州が多い。そしてその補正はおこなわれない。このような評決の前提条件が不平等な国際機関など存在できないだろう。ICOMは出自も現在もヨーロッパが中心の組織であり、ICOMのいう国際とは西欧諸国間の付き合いという認識でいるような気がしてならない。新定義の議論で設定された8つの指針そのものがヨーロッパの歴史を下敷きにした問題意識である。とりわけ北西ヨーロッパが中心、別の言い方をすれば英米を含む性を持たないゲルマン語諸国の価値観、先導者意識が見られるように思う。
ICOMは博物館の新定義を議論する前に、代議員の平等性や代表制を再確認する必要がある。日本委員会として、意見表出してみてはどうだろうか。
ICOMの会員数(京都大会総会資料 ADVISORY COUNCIL MEETING 85th and 86th SESSIONS より)
総数の年次変化
2015 2016 2017 2018
30,624 37,140 40,860 44,686
2018年の地域別会員数(カッコ内は%)
地域 国数 総会員数 うち個人会員 うち機関会員
アフリカ 22 (15.9) 385 (0.9) 375 (0.9) 10 (0.3)
中南米 24 (17.4) 1,807 (4.0) 1,606 (3.9) 201 (6.7)
北米 2 (1.4) 2,899 (6.5) 2,800 (6.7) 99 (3.3)
アラブ諸国 16 (11.6) 301 (0.7) 279 (0.7) 22 (0.7)
アジア太平洋 25 (18.1) 2,141 (4.8) 1,874 (4.5) 267 (8.9)
欧州 49 (35.5) 37,153 (83.1) 34,743 (83.4) 2,410 (80.1)
2018年の総会員数上位国と主要国の状況
国名 総会員数 うち個人会員 うち機関会員
ドイツ 6,101 5,864 237
フランス 4,845 4,418 427
オランダ 4,614 4,538 76
イタリア 2,250 2,092 158
イギリス 1,949 1,887 162
オーストリア 1,911 1,820 91
デンマーク 1,688 1,625 63
スイス 1,687 1,626 61
ベルギー 1,452 1,347 105
スペイン 1,197 926 271
ロシア 958 836 122
スウェーデン 954 835 119
アメリカ 2,028 1,963 65
カナダ 871 837 34
オーストラリア 596 564 32
中国 293 216 77
北朝鮮 1 0 1
韓国 89 54 35
台湾 43 20 23
日本 402 362 40
]]>JUGEMテーマ:博物館
1.ICOM博物館定義と変遷
ICOMの博物館の新定義が京都大会では採択の延期を決めたのは、あまりにも変更の度合いが大きく、事前の意見交換の期間では対立する溝を埋めることがことによる。これについて見てみたい。
現在のICOMの博物館定義は2007年のウイーン大会で採択された。ICOM規約の第3条第1項である。
2017_ICOM_Statutes
https://icom.museum/wp-content/uploads/2018/07/2017_ICOM_Statutes_EN.pdf
ICOM規約(2017年6月改訂版)
https://www.j-muse.or.jp/icom/ja/pdf/ICOM_regulations.pdf
直前の2001年の定義からの変更点は無形 intangbile 遺産が追記されたこと。それ以前には有形も無形もともに言及されていない。規約の変遷はイコムのアーカイブサイトで追跡が可能で、最初の定義は1946年の創立時から存在し、最初は設立書、1951年以降は規約の条文となっている。定義については下のページで1946年版から2007年版まで確認できる。
Development of the Museum Definition according to ICOM Statutes (1946 - 2001)
http://archives.icom.museum/hist_def_eng.html
上記サイトに見える博物館の定義は、簡潔な1946年版の定義を充実させる形で何度も改訂されててきた。いわばマイナーチェンジである。最初の1946年定義は簡潔に過ぎるが一般公開された資料 collections to the public という言葉があり、1951年に恒久的 permanent という言葉が出現し、1961年は恒久的な機関 permanet institution とされ教育 education という言葉が加わり、1974年には非営利 non-profit と明記された。博物館の広がりや資料の有無については、当初から芸術、技術、科学、歴史、考古、そして動物園と植物園が含まれ、水族館は1951年に明記された。歴史的記念物や歴史公園、自然記念物や保護区は1961年、科学館とプラネタリウムは1974年に追記されている。条文の内容や博物館の広がりから、1974年版が現在に至る博物館定義の原型といえる。その後は博物館と見なす施設を具体的に言及して広がる改訂が1989、1995、2001年の3回おこなわている。現状の2007年の定義では無形遺産を含むと明記する一方、対象施設を示す第2項について具体的な施設一般名称を記載することをやめ、執行役員会が決めた機関としている。
2.新定義の内容
フルモデルチェンジとなった新定義(正確には案であるが煩雑なので省略)は、現定義とともにウェブサイトに示されている。現在、ICOMのウェブサイトで定義を探すとこのページが示されるようになっている。現状の定義だけ取り上げて示したページは見当たらない。それだけ新定義を訴えたいということか。
Museum Definition - ICOM
https://icom.museum/en/standards-guidelines/museum-definition/
日本語訳については、ICOM日本委員会から訳文は示されず、私訳が複数提案されているが、それらは後に紹介するオリジナルサイトで見ていただくこととして、ここではすでに削除された国立国会図書館の和訳を原文とともに紹介しておく。
博物館は、過去と未来に関する批判的な対話のための民主的で包摂的で多声な空間である。現在の紛争や課題を認め対処するために、博物館は、社会のために委託されて人工物や標本を保有し、未来の世代のために多様な記憶を守り、すべての人々に遺産に対する平等な権利とアクセスを保証する。
(Museums are democratising, inclusive and polyphonic spaces for critical dialogue about the pasts and the futures. Acknowledging and addressing the conflicts and challenges of the present, they hold artefacts and specimens in trust for society, safeguard diverse memories for future generations and guarantee equal rights and equal access to heritage for all people.)
博物館は営利を目的としていない。博物館は、参加型で透明性があり、人間の尊厳、社会正義、世界的平等や幸福に貢献することを目的に、収集・保存・研究・解説・展示を行い、世界への理解を高めるため、多様なコミュニティーと、コミュニティーのために積極的に連携する。
(Museums are not for profit. They are participatory and transparent, and work in active partnership with and for diverse communities to collect, preserve, research, interpret, exhibit, and enhance understandings of the world, aiming to contribute to human dignity and social justice, global equality and planetary wellbeing.)
ICOM announces the alternative museum definition that will be subject to a vote(ICOM,2019/7/25)
国際博物館会議(ICOM)、規約に含まれる博物館の定義の新たな案を発表:2019年9月に京都で開催される臨時理事会で採決へ Posted 2019年8月1日 カレントアウェアネス
https://current.ndl.go.jp/node/38705
*リンクは現在のページで和訳は削除されている。ちなみに末尾のリンクもカレントウェアネスに掲載のもの。さすがである
3.新定義の議論
京都大会から半年が経過し、新定義については不十分ながら多くの議論や評価がなされてきた。ここでは2つのウェブ読み物を紹介しておく。両者ともに新定義の私訳の他に定義やその議論を巡る事実提示や考察が示されており、たいへん勉強になる。このふたつを読めば、新定義をめぐる大まかな状況は把握できる。
「ICOM博物館定義の再考」が示すもの─第25回ICOM(国際博物館会議)京都大会2019 芦田彩葵
https://artscape.jp/report/topics/10157593_4278.html
ICOM(国際博物館会議)の意義とは何か? いま、あらためて京都大会を振り返る 青木加苗
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/21339
さて、新定義の議論の出発点は、ICOMの特別委員会 MDPP (ICOM Standing Committee on Museum Definition, Prospects and Potentials:博物館の定義、見通しと可能性に関する委員会)が2018年12月に提出した報告書である。もちろん特別委員会の編成前から議論はされていたのだろうが、一般の会員が議論に参加可能となったのはこの時点であり、議論の道筋が示されたのがMDPP報告書であった。
MDPP-report-and-recommendations
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/MDPPteigeneiyaku.pdf
MDPP「提言と報告」仮訳
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/MDPPteigenwayaku.pdf
MDPPの報告書は長文で要点がつかみにくいが、アクソイ議長の2020年1月19日の手紙でも言及された8つの指針 criteria を中心に考えるのだろう。ICOM日本委員会の和訳(MDPP「提言と報告」仮訳)では次のとおり。原文には無いが、引用するにあたり番号を付した。
1 「博物館の定義」では、博物館の目的と価値が明確に定義されるべきであり、その目的と価値は、博物館が常に未来へ向け、持続可能で、かつ倫理、政治、社会、文化上の課題と責任を成就するべきものである
2 「博物館の定義」では、仮に現行の用語が今後変化する場合でも、博物館に特有で本質的な共通の機能である、収集、保管、記録、研究、展示及びコレクションやその他の文化的遺産を通したコミュニケーション等の機能を維持すべきである
3 「博物館の定義」は、現実社会の緊急性および持続可能な解決策の開発と実施という責務を含むべきである
4 「博物館の定義」では、博物館が世界規模で活動を行う際に、多様な世界観や慣習等に敬意と配慮を持つべきとの認識が必要である
5 「博物館の定義」では、地球規模、国内、地域、地方レベルでの権力と富に関わる、根深い社会の不平等や非対称という存在を、危惧の念を持って認識されるべきである
6 「博物館の定義」では、それぞれの博物館が所属するコミュニティとの関係において、博物館が、協調、共有されたコミットメント、責任と権限を有する、専門的な役割を果たしているという統一的な見解を表明すべきである
7 「博物館の定義」では、博物館が有意義な人々の集まる場であり、学習や交流のためのオープンで多様なプラットフォームであるというコミットメントを表明すべきである
8 「博物館の定義」では、物質、財務、社会、知的リソースの取得と活用にあたっては、博物館がその説明責任と透明性を明確にすべきである
アクソイ議長の2020年1月19日の手紙
https://icom.museum/wp-content/uploads/2020/02/Museum-definition_the-way-forward_EN.pdf
4.以下は私見
8つの指針はいずれも結構な内容であるが、現実の博物館は自由と民主主義とセットで存在するわけではない。独裁国家や西欧的価値観を比定する国家の博物館はどうなるのか、新定義が採択されれば行政からの支援が止まる事態も考えられる。新定義への指示と保留ないし反対の態度はそこを想定したものだ。
日本の場合、登録博物館は社会教育法の特別法たる博物館法で規定されており、初めから新定義の博物館と親和的と考える。つまり公立博物館や多くの博物館では多かれ少なかれ新定義の目指す博物館が先取りして実践している。そして大規模館や県立館では新定義は今後の活動目標としてふさわしい。
他方、博物館は自由であり近代以前から存在する。朴訥と資料の保存に専念する博物館があってもよい。ICOMの定義など無視すればよいだけだ。
心配するのは私立の博物館である。新定義に照らした場合、京都の有鄰館などはどう評価されるのか。これ以外にも個人コレクションが一部公開されたような博物館があるだろう。それらは権威ある国際的な基準からは博物館と見なされなくなるのか。そういったコレクションはユネスコの勧告に委ねるのだろうか。その勧告が対象とするコレクションはパブリックコレクションに限らない。
有鄰館
ミュージアムとコレクションの保存活用等に関するUNESCO勧告
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/UNESCO_RECOMMENDATION_JPN.pdf
「2015ユネスコ博物館勧告を読み解く」参加報告|網走日記帳
博物館には名称独占制度がないので、博物館は誰が名乗ろうと自由である。罰則もない。そのために登録制度で模範となる博物館を具体的に示し、金銭的な支援の対象を規定してきた。しかし、制度上の制約から現時点では評価の高い博物館でも登録博物館になれないケースがいくらでもある。災害などで支援が必要となったとき、現在のICOMの定義であれば、たとえ登録館でなくともICOMの規約に照らして十分に博物館と認定できるという線引きに使える。新定義の導入は、博物館から外れたり、降りてしまう博物館が出てくるのではないかと危惧する。
うがって見れば、新定義はあまりにも北西ヨーロッパの視点が強すぎる。さらに言えばスキーのジャンプの基準変更のようにも見える。東の国々が追いついてくると基準を変更する。それは基準変更によって異なる方法を発達させ別の主役を登場させるという積極的な意味がある一方、常に自分たちが世界の最先端に立ち続けるというゴールポストの恣意的移動ではないか。これが言い過ぎであれば、変化の速度は地球の各地で異なっており、21世紀になって移民の流入などで変化が激しい地域もあるだろうが、ゆっくりと時を過ごした場所もある。それら時の流れの違いを無視した突然の定義変更は無理がある。
ICOMの博物館定義は2007年版のマイナーチェンジにとどめ、新定義については現時点の使命として使える国では用いていく、そんな落しどころではないだろうか。
]]>JUGEMテーマ:博物館
昨年9月のICOM京都大会では博物館の新定義が議論された。おおかたの予想どおり結果は採決の先送りであった。その後はどうなったのか。新型コロナウイルス COVID-2019 の影響でICOM関連のイベントが次々に中止となったが、いずれも京都大会の記念集会や振り返りであり、明確な目的が示されていなかった。今するべきは意見表出や議論である。じつは、昨年末から年始にかけICOMは新定義に向けての議論の手順を期限を示していた。
ICOM英国委員会は、ICOM執行役員会が2019年12月9日に合意した事項として次のことを伝えている。
・MDPP(ICOM Standing Committee on Museum Definition, Prospects and Potentials:博物館の定義、見通しと可能性に関する委員会)が継続して博物館定義の議論進展に努めることを支持する
・上記の委員会をこれまでの委員会と区別してMDPP2と呼ぶことを提案する
・MDPP2には会員からより多くの代理人を補充する
・この重要な仕事を次の段階に進める期間を2020–2022年の3年間と設定する
・MDPP2の仕事を進展させる指針 parameters を確立する
ICOM new museum definition – update on the next steps
https://uk.icom.museum/icom-new-museum-definition-update-on-the-next-steps/
執行役員会の結果は、2020年1月19日付けICOMのアクソイ議長から国内委員会と国際委員会の執行部に宛てた手紙で通知された。
・MDPP2が設置され、国内委員会と国際委員会からの代理人が追加される
・各委員会で議論を始めるよう、この手紙をもって依頼する
・ICOM役員会は、その議論はボトムアップモデルとして役員会を超え各委員会のすべてのメンバーが参加すると決めた
・国内委員会と国際委員会では役員に限定せず、すべてのメンバーで議論することを期待する
・リアルでもオンラインでも規模を問わず議論をする、メンバーから調査 surveys をする
そしてこれらの作業を前提に
・各委員会の結果は今年2020年6月10–12日のICOM年次会議での博物館定義の議論に情報提供される
・各委員会の議論や情報は4月30日までにMDPP2に送ってほしい
・今年の年次会議は臨時総会や採択はなく、それらはICOM設立75周年となる2021年6月を予定する
Museum definition - the way forward
https://icom.museum/wp-content/uploads/2020/02/Museum-definition_the-way-forward_EN.pdf
つまり、これから1か月の間は、ICOMの各委員会は会議を開き意見集約をおこない、4月30日までにMDPP2にその結果を通知する、そういう期間なのである。ICOMの会員は国際委員会(分科会)に所属していなくとも自動的に日本委員会のメンバーであるので、日本での意見集約はICOM日本委員会が主導的に進めるのが筋である。それが国内委員会の役員や事務局の責務である。
この情報はICOM日本委員会のウェブサイトでは見えない。コロナウイルスではワシントンポストが出した日本語の記事が話題だが、本件も同様である。知るべき情報を他国のICOM国内委員会から知る状態は情けない。ICOMの事務局に予算と人員を投入することが急務である。何か良い方法はないものか。
しびれを切らした人たちがフェイスブックページを立ち上げたが、議論は低調である。コロナのおかげて時間はあるが集会は不可。オンラインの議論には絶好の機会である。「さあ議論しましょう」というとどうしても特定の人が発言して他は黙る、とくに出遅れたと感じると沈黙してしまう。建設的な意見交換をするはずが、個人の主張の開陳、自画自賛の場となるなど。本旨から外れるが、超基本的なところの質問回答の場としても使って良いと思う。
ICOM「ミュージアムの定義改正」についての意見交換グループ
https://www.facebook.com/groups/544422873094972/
またICOM特有の問題として、ICOMは誰のものか、誰が主役なのかという疑問がある。ひとつは、公用語が仏英西であるため言葉の問題で情報アクセスに差がでること。2つめに発言者の多くが教育担当や博物館学の専門家で研究者が少ないこと。3つめとして、ICOMそのものが文化財や美術品が主体で自然史系が少ない、つまり人間が作ったものが主流で神さまが作ったものに疎い。4つめ、大規模館、国立館、県立館では議論が現実に仕事に関連しそうに思えるが、小規模館、とりわけ地方公立館ではまったく無関係に思えること。
最後の問題が最大の課題に思う。小規模館でも私立の場合、まわりに相談する人が居ない状態でICOMで救われたという話を聞く。設置者が博物館に不慣れなため、ICOMのメンバーが直接に手本や助言者となり、場合によっては標準仕様となるのだろう。ところが公立館の場合、博物館に不慣れ無理解であっても公務員や地方公共団体という標準仕様が存在し、たとえそのローカルな理解が独自研究であっても独善的にそれが適用される。博物館の世界では尊重すべきICOM基準など市町村の前では無力となる。工場(学校でも教室でも家族でも可)のなかでは憲法が停止されるのと同様の状況が現実にある。これを変えていくことが必要で、ICOM新定義よりも目の前の問題が重大なのである。これがICOM新定義の議論とリンクするとよいのだ。まずは名付けからだ。
]]>JUGEMテーマ:ベトナム
2020年2月25-29日にベトナムに行ってきた。
初めてのベトナムの旅行を終え、久々に興奮している。おもしろい、おいしい、興味深い。片言の現地語、ありがとうとか数字を口にするだけで強面の若おじさんがニカーッとしたり、つっけんどんのお姉さんが微笑む。訪れた場所はハノイとハイフォンの2か所。ハイフォンは仕事で短時間の滞在だったので、以下ほぼハノイの情報と経験です。
建物と町並み
ハノイの街、政府系の建物は大きく立派。旧市街も郊外も石造りやそれを模したコンクリート製のちいさな建物がひしめき合っている。ガイドの兄さんによると税金対策で間口が狭い作りになっているとか。2間から3間くらいなのに高さは4−5階。バルコニーも着いている。新しい建物も古い様式に則って作っているよう。郊外の住宅も同様の様式。屋根が赤瓦のような色がほとんど。緑のなか、樹木森林は少ないが田畑のなかに彩りが楽しい。焼き物で有名なバッチャン村の建物もにぎにぎしい。それに較べると関空の帰り道バスから眺める灰色の景色はほんとう寒々しいというか、げんなりする。
いろいろな宗教や信仰の施設があるが、仏教寺院は六色仏旗を掲げているのでわかる。ハノイの郊外東方にある Vin University はスターリン様式の上だけという外観。2018年に着工、2020年から入学開始というのでオリジナルのデザインというべきか。
Vin University https://vinuni.edu.vn
ホテル
今回の旅行はHISのツアー「初夢フェア第2弾ベトジェットエア利用!自由自在ハノイスーペリアクラスホテル(部屋指定なし)に滞在」でホテルはおまかせだった。あてがわれてのは旧市街の北端にあるモンリージェンシー Mon Regency Hotel だった。口コミの評価はいろいろだが、まあまあよかったと思う。
部屋もベッドも広くてきれい。冷蔵庫、湯沸かし、テレビ、WiFiがある。冷蔵庫の飲み物は有料、上にある水ペットボトルは無料。口コミどおり水回りはいまいちで、洗面台の栓の上下が渋かった。大通りに面して騒音がひどいが夜はおさまる。問題は近くの広場でおこなわれる太極拳?か何かの集まりで、早朝からマイクで数を数える声が響く。これも目覚まし代わりのベトナム語のヒアリングと思えば悪くは無い。WiFiが遅いのが難点か。
立地は抜群で、とくにリムジンの乗り場に近いのがありがたい。
公式サイト http://www.monregencyhotel.com/en/home.htm
日本語サイト http://mon-regency.hotels-in-hanoi.net/ja/#main
クレジットカード
クレジットカードはほとんど使えない。使えたのは全国チェーンのコンビニ VietMart と Highlands Coffee、外国人向けのレストラン、日本人相手の蓮茶の販売店、村の観光客向けの瀬戸物店。セブンイレブンやショッピングモールでは使えるが、商店街では使えないという少し前の日本とおなじ状況。異なるのは交通機関でカードが使えないこと。実際に経験したのは鉄道駅とリムジン。
キャッシング
ATMでのキャッシングは3回それぞれ別の銀行のものを試したが、結局できなかった。最初の Ocean Bank の機械は少し古くてカードが戻ってこないのではとやや不安になりながら手続き。カードを挿入、ピン入力後に画面が暗転して反応せずタイムオーバー。店舗の前の機械だったので警備員に身振りで示すと、店に入れというがATMを試したかったのでパス。2台目 Vietcombank は反応して手続きは進んだ。しかしレシートを要求すると紙がないとアラートが出たので手続きを中断した。3台目はHSBC(香港上海銀行の後身)で建物のなかにあるマシンは見たことがないような格好いいもの。順調に進んで500,000ドンをキャッシング+手数料50,000ドンとのレシートも印字されたのにお金が出てこない。警備の人に言うと奥のカウンターに行けと手振り、カウンターではさらに奥の窓口へと案内される。男性の係員は外国で発行されたカードだから出来ないのだろうと言って、レシートをコピーして返金すると返してくれた。確認書がほしいと言うとそれはできない、レシートはVISAカードのものだからという理由らしい。もう信用するしかない、あるいはそもそもキャッシングされていないのかも知れない。と、思っていたら今日 2020-3-17 になってキャッシングのお知らせが配達された。無事返金されるのか。
両替
ということで空港で換金した40ドルでは足りず、最終日にキャッシングを試みるもできずハノイ駅から北上して線路を越えた右側にある Vietinbank で20ドルを換金した。見せに入るとずらっと並んだカウンターの行員(みんな女性)に較べ客がまばら、手空きの人が手招きしてくれドル札を見せる。すると反対側の窓口に行けというので、行ってみると管理職っぽい男性が出てきて対応、電卓をたたいて数字を見せて確認後にベトナムドンの札をくれた。空港の両替窓口ほどスピーディーではないが、さほど待たずに交換できた。銀行の窓口での換金は書類なし、身分証不要、レシートもなし、言葉も不要だった。
現地旅行社
今回の旅行はHISのフリープラン。現地の運営は SKYhub という会社で独自製作の地図の付いた小冊子とクーポンのついたプリントをくれた。せっかくなので乗ってやろうと最終日はビール1杯無料で料理の種類が多くて22ドルというRiuLiuというレストランに行くが店員はクーポンを知らず使えなかった。気の毒に思ったのか、会計は10%値引きしてくれた。後から SKYhub に聞いたところ、あらかじめ同社に申し込みが必要とのこと。クーポンや小冊子に書いてくださいと頼んだ。
街の構造
高級地区
ハノイ駅の東側は少し高級地区らしい。歩いた範囲では北側、Phan Boi Chau 通りの Hai Ba Trungから Ly Thurong Kiet の間は高級洋酒店が何軒かあり、MUFG(三菱UFJ銀行)が入る Pacific Place の向かい(北側)には高級カフェがあり、昼休み後半だったので日本人とおぼしきお姉さんもお茶していた。ヒマワリの種を食べている人が目立った。
韓国街
街の西側にロッテホテルや大宇(でーうー)ホテルが建つ地域は、工事の囲いにもハングルが書かれて韓国の都会のようになっている。経済的な存在感は大きいし、街の一角が韓国のコピーだ。コリアタウンではなく、現代の韓国の都市の複写。
ベトナムの大規模開発には日本のODAが相当入っていて、今回の訪問先でもハノイのノイバイ国際空港の新ターミナル、ハロン湾のバイチャイ橋などがそれにあたる。バイクもほとんどが日本のブランド。それにも関わらず、ハノイの街に日本の姿は見えない。あえて国の姿を示さなくとも、企業レベルでベトナム国民に浸透しているということか。日本におけるアメリカの姿のように。
ペット屋
見かけたペット屋は小鳥と魚。観賞魚店はホテルの近くに5軒集まっている存在。熱帯魚より金魚の方が多い感じで、全体的にも赤い魚が優勢だった。チラ見だったので詳しいことはわからない。
動物
動物がほとんど居ない印象。哺乳類の姿はタンロン遺跡でリスを1回、どこかで夕方にコウモリを1回見ただけ。コウモリなど大阪の郊外より少ない。鳥も少ない。鳴き声が聞こえたのはハノイ市街ではタンロン遺跡と中心部の聖ヨゼフ大聖堂の南にある庭園 Vườn Hoa Hàng Trống (フラワーガーデン)だけ。庭園の方が多く少なくとも4種類さえずりが聞こえてほっとする。ついでにアフリカマイマイの殻を見つけぞっとする。ハノイに虫もほとんどいない。蚊には1回も刺されず姿も見ない。アリも旧王宮で1回だけ。日本だと街中の植え込みでも普通なのに。それとも日本の印象が数十年前の札幌や京都で、現在の大阪や東京では違っているのだろうか。それからハエがいない。ちいさめのを1−2回見ただけ。あれだけたくさんの飲食店があるのに感心する。ゴミの回収を徹底しているのだろう。
自動車
自動車は韓国勢が優勢、バスはヒュンダイが席巻。初めてインドのタタモータースの車を見た。1トン位の小型トラック。ハノイとハイフォンの間にいすゞ自動車の工場があり、ハノイの町中のゴミ収集車はいすゞ製だった。もはや乗用車を製造していないのでブランドイメージを傷つけることもなく事業用車両に専念できる。韓国勢というと前に書いたとおり市街地の西方にはロッテセンターや大宇ホテルなどが集中する場所があり、そこだけ韓国ぽい景色になっている。ハングルを記した観光バスもあり韓国の存在感はある。比較して日本の影は薄い。
WiFi
情報どおりハノイのネット通信環境は良好。公共施設ではどこでも使える。鉄道も列車には装備がないが、駅では使える。ホーチミン廟前の広場、その東の官庁街の歩道上でもWiFiが飛んでいる。リムジンや旅行会社の送迎バスでも使えて結構早い。
ベトナム語
予習に使ったのはスカイプ教室とYouTube。スカイプはVVレッスンとカフェトークを1回づつ。日本語を学ぶハノイの学生が講師というVVレッスンは日本語もたどたどしく素人丸出しという感じ。発音のコツとか、自分の発音への評価など初心者が知りたいことがうまく伝えられない様子。ベトナム語がある程度でき、現地の人と会話を楽しみたいという上級者向けでしょう。カフェトークの Gyoku 先生は日本語も流暢で発音への指摘も的確、講師の画面を共有して教えるなどスカイプも使いこなし、質問にも丁寧に答えてくれて、たいへんよかった。
YouTubeでは、ベバさん BEBA VIETNAM language! 、それからカフェトークの先生がタンポポ Tanpopo Vietnamese という名前で公開してる手作り感満載のビデオがていねい。カフェトークと併用すると効果的かも知れない。おもしろかったのが英語/ベトナム語の Vierglish Fun の Vietnamese Numbers というビデオ。現地の30歳代の知り合が大笑いしていた。
BEBA VIETNAM language! https://www.youtube.com/channel/UCXPj5m7FgFILM_KND371_BQ
Tanpopo Vietnamese https://www.youtube.com/channel/UCee4aT2qPP6Q-4Pt19uEvVg
Vietglish Fun https://www.youtube.com/channel/UC7mu94v1zFZU8pgNX13dHsQ
YouTubeのベトナム語番組が伝えるとおり、挨拶は二人称を付けたものがよい。というか、効果絶大である。自分は50歳を過ぎているので、たいていの相手は年下となるので使うのは男女共用の em だけ。そこで、たとえ年下でも敬意を表して年上向けの二人称を使うこともあるというので、使ってみた。すると強面のホテルの若おじさんに「ありがとう Cảm ơn anh」と言うと、照れたような笑顔で返してくれた。ただし、これが効果的なのは男性のみ。日本語でいろいろ教えてくれた年下の女性(といっても若くはない)に Cảm ơn chị 使ったところ微妙な空気が流れ、em と言い直したら緊張がほぐれて互いに顔を見合わせ笑い合うという感じだった。ここらへんは日本とおなじ。
それから数字も使ってみる価値がある。外国人も多い食堂で forty と言われて食事を頼み、金額を知っているのにわざわざベトナム語で bốn mươi と確かめるとつっけんどんだったお姉さんが、可愛く微笑みをくれる。
観光対応
ハノイの旧市街には英語や外国語の案内看板はほとんど存在しない。ベトナム語の表記はアルファベットなので、ほとんどの外国人にとってタイや韓国のように右も左もわからないという状況には至らない。けれども英語の案内が無いというか、そもそも観光用の地図や案内板がほぼ存在しない。日本の地方で見られるような「地方を売り込む」ような姿勢は見られないのは誇り高く良いことだが、訪問者にとっては相当不便。
バイクの車列には圧倒されるが、川のように流れる理由は信号が少ないことによる。無秩序に走っているわけではなく、また速度も時速30kmほどなので渋滞していても車両がコントロールできている。バイクの大河を横断する心得としては、ゆっくり歩くこと。横断中に目の前をバイクが抜けていくのを許すことに思える。自分が先に渡ろうとして小走りですり抜けるような動きは秩序を乱してかえって危ない。もちろん車列が切れるタイミングで渡り始めるのであるが。それから信号が右折はいつでも可能であったり、方向別に変わったりと時差信号のような動きも把握することも必要です。
リムジン
リムジンと称しているが、ミニバンを用いた行き先固定の乗り合いタクシー。使ったのは大手バス会社 Hoang Long Bus が運行しているハイフォン行き。ここでカードが使えず200,000ドン現金で支払った。念のため前日に乗り場兼事務所へ行って予約=支払い。レシートも何も出てこないので不満そうにしていたら裏紙に手書きで予約書を書いてくれた。翌日の乗車ではその係員に目で挨拶してOK。結局紙は不要。まあ、日本でも電話で店や宿を予約したら何も証明書類は無いので、証書がなくて通用するのが普通である。
リムジン案内サイトの紹介ページ https://limousinevn.vn/car/hoang-long-limousine/
鉄道
ハイフォン1500発の汽車でハノイのロンビエン駅まで乗車。インターネットの予約サイトでは席がなく、当日駅の窓口で切符を購入。現金。買うのは現地の人がしてくれた。ネット情報のとおり列車はほぼ満員で驚く。乗り心地は快適。揺れはあるが不安な縦揺れではなく、横揺れでむしろ心地よい。途中駅での乗り降りもあり、景色も自分は楽しめたので2時間半はちょうどよい乗車時間だった。ロンビエン駅で下車後に線路近くで写真を撮影。その時、鉄橋にカメラを向けたら向かいに座っていた警備員が声を掛けてきて指を指す。見ると撮影禁止の看板。素直に従う。
ビール
ベトナムのビールは概してオリオンや韓国製普及版のような軽い口当たり。けれどもビールの味はする。なかでも Bia Hà Nội がおいしい。値段は50円くらいで清涼飲料水と変わらない。
]]>JUGEMテーマ:博物館
ICOM京都大会に参加するかどうか。迷いますね。4月30日で早割が終わってしまうので、決断第一関門まであと2週間です。それならば過去の大会の参加報告を読んでみようと検索してみました。結果は驚くほどにネット情報が少ないのです。幸いなことにイコム日本委員会のサイトでは公式報告書を公開しています。これ以外で参考になりそうな記事をリンクしてみました。報告を見つけられたのはミラノ、リオ、上海の3大会で、ウィーンとソウルは見つけられませんでした。
ところで公式サイトが残っていたのはミラノとソウル大会だけでした。ここは残っいて日本語ページもありました。アーカイブサイトらしきスペイン語のページがあるので載せておきます。検索ではイコムのページとして ICOM 2007 General Conference - ICOM Website Archives というのが当たるのですが既に削除されてしまったようです。国際委員会のページのなかには残っているものがあります。
ウェブページの削除は本当に愚行だと思います。博物館の親玉がこれではいただけません。ウェブサイトは速報性に加えて、蓄積も重要な機能なのだから。
2016年ミラノ大会
ICOM日本委員会の報告書
リンクページ
https://www.j-muse.or.jp/icom/ja/office.php
直リンク 2.5 MB
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/ICOMMILANOHOUKOKU.pdf
ICOM MILANO 2016大会レポート〜その1 [その2と7あり]
https://ameblo.jp/tokugawamuseum/entry-12177550194.html
民音音楽博物館 ICOM(国際博物館会議)ミラノ大会に出席しました
http://museum.min-on.or.jp/information/detail_677.html
公式ページ
http://network.icom.museum/icom-milan-2016/
2013年リオデジャネイロ大会
京都外国語大学博物館調査研究レポート「第23回ICOMリオデジャネイロ⼤大会に参加して」
https://www.kufs.ac.jp/umc/pdf/icom2013.pdf
ICOMレポート 第23回ICOM大会(ICOM Rio 2013)参加報告
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/MS48-10_secretariat
ハムと薪と、それから保存 ICOMリオ大会に出展した日本ブース [他にも記事があります]
http://kambanobuyuki.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/icom-ccbc.html
スペイン語のアーカイブページ見つかりません
2010年上海大会
博物館の国際動向に関する考察−ICOM第22回上海大会の議論を中心として−
https://irdb.nii.ac.jp/00828/0000991605
直リンク 1.5 MB
http://petit.lib.yamaguchi-u.ac.jp/G0000006y2j2/file/18578/20110721153129/D500008000011.pdf
ミュージアムの小径[会議]ICOM上海大会2日目・3日目 [前後にも関連記事があります]
http://d.hatena.ne.jp/takibata/20101110/p1
冒けん!発けん!【世界の博物館教育】 中国・上海市「第22回国際博物館学会(ICOM)」に参加して
https://www.kobegakuin.ac.jp/gakuho-net/topics/2010/vol55.html
神戸学院大学Topics 国際博物館会議(ICOM)上海大会<報告>
https://ksaotome.exblog.jp/15654694/
スペイン語アーカイブページ
https://www.icom-ce.org/tag/icom-shanghai/
2007年ウィーン大会
スペイン語アーカイブページ
https://www.icom-ce.org/tag/icom-shanghai/
2004年ソウル大会
公式サイト
http://icomkorea.org/icom2004/index.htm
日本語ページ
ICOM 2004ソウル大会参加へのご招待
]]>JUGEMテーマ:博物館
1.ICOMとは
ICOM京都大会まで半年となりました。この時点になっても、ICOMってなに?どうやって参加するの? という素朴な疑問があるように思います。当方、ICOMの個人会員ですが京都大会には何も関わっておらず、罪滅ぼしにICOMと大会の参加について書いておこうと思います。
まずICOMとは何か。ICOMは International Committee of Museum の略称で日本では国際博物館会議と訳しています。本部はパリにあり、公用語は英語、フランス語、スペイン語の3か国語です。ICOMの英語はちょっと違和感があったりするので、実際の文書作成言語はフランス語ではないかと思っています。ICOMはUNESCO(ユネスコ:国連教育科学文化機関)との協力関係がありますが国際機関ではなく、NGOです。国際機関であれば政府が直接分担金を支払い、事務局も省庁内に置かれますが、ICOMはNGOなので国内の事務局は公益財団法人日本博物館協会が持っています。
さて、ICOMの読み方です。長らく日本ではラテン語式に「イコム」と呼んできました。出版物でも「イコム」と表記されています。ところが、京都大会の準備が始まるとにわかに「アイコム」と読む人が出現し、瞬く間に広がっていきました。そしてついに、京都大会では英語の使用場面の多さから「アイコム」と統一することにしたそうです。
http://icom-kyoto-2019.org/jp/FAQ.html
2.ICOMの委員会と会員資格
加盟する国ごとに組織された国内委員会 National Committee と専門分野に分かれた国際委員会 International Committee で構成されています。日本博物館協会が事務を担当しているのはICOM日本委員会ということになります。国際委員会は30あり、それぞれに年次総会を開催しています。重要なのは国際委員会で、ICOMのなかみはつまりは国際委員会の活動といえます。委員会といっても加入に特別な資格はなく、ICOMの会員であればひとつでも複数でも入ることができます。委員会の種類は京都大会のページでも紹介されています。
発表募集のページ
http://icom-kyoto-2019.org/jp/calls-for-papers.html
ページを見ればわかるとおり、国際委員会の多くはコレクションに関するものです。あるいは人材育成やマネジメントといった運営面での委員会もあります。ICOMの大きな役割は国際基準を作る=文章化することですから、国が異なっても共通の話題が可能、各国が目指すべき/最低限守るべき基準という議題に適合的です。私は辺地に居て町立博物館の勤務経験があることから地方博物館国際委員会 ICR (International Committee for Regional Museums) に入っているのですが、これはどうにもうまくない。地方博物館の目的や課題はそれぞれですので共通の基準を議論するなどできない。事例を報告しあっても「すごいですね」「たいへんですね」といった感想以上のものがでてこないように思っています。国内にはICRで頑張っている学芸員がいるので、別の面で京都大会を手伝おうとしているわけです。
話がそれました。ICOMで疑問なのは加盟資格です。博物館での加盟は団体会員の区分となります。が、この金額が高額らしく、昨今の緊縮財政で加盟を辞める館園が出てきていると聞いています。個人会員はそれより安いので、博物館の職員個人の加盟が現実的かも知れません。問題はこの個人会員の資格で、博物館の職員や退職者、関連する行政部局や大学の教員、現役の学生などは会員になれるのですが、学生や大学院で博物館について学んだり研究したけれども博物館や関連する職に就けなかった人には加盟資格がないのです。もしかしたら運用が変わっているかも知れませんので、知っている方がいれば教えてください。
3.ICOM京都大会の参加と発表
今年9月に京都で開催されるのはICOM京都「大会」です。国際委員会や国内委員会のすべてが一堂に会するのが「大会」で3年に1度開かれます。さて、どうやって参加するのか。参加そのものはお金を払って申込すればよいのですが、ICOMや大会の仕組みがよくわからないですね。プログラムを見てみましょう。日付毎に別ページで面倒ですが、参加条件について「ICOM会員のみ」「ICOM各委員長等のみ」という記号が見えます。これらの記号がないイベントは誰でも参加できるはずです。
プログラム日程表
http://icom-kyoto-2019.org/jp/schedule.html
一方、発表はどうすればできるのか。ICOMは国際委員会の集まりなので、委員会ベースのセッションは委員会が発表を募集します。委員会が主催する大会のテーマや募集日程は上に書いた「発表募集」のページで委員会名をクリックすると現れます。すでに大方の募集は締め切られているようです。発表申込の締切日を2−3月が多く、なかには3月末というのもけっこうあります。国内的には4月上旬まで待ってもらえれば科研費など予算の裏付けが得られるので、配慮が欲しかったところです。
実際には発表までするよりも参加だけの人が多いと思います。参加費が高額で早割が今月までということで、部内決裁もあるのでそろそろ参加するかどうか決める期日がせまっています。ところが、いまだプログラムが明確ではありません。4月14日現在、おもしろそうなオフサイトミーティングのページは「作成中」、ソーシャルイベントも中身が不明です。なにしろプログラム日程表の公開が4月5日なので、基調講演や全体会合のプレナリー・セッションがようやく決まったという感じなのでしょう。とにかく準備スタッフが不足しているのだと想像します。
4.ICOMのなかの日本と地域組織
ところでICOMの大会、前回は2016年のミラノ、その前は2013年のリオデジャネイロ、アジアでは2004年のソウル大会が最初の開催で次が2010年の上海でした。日本は3番目。日本委員会が前回のミラノ大会の報告書で公開しています。
事務局からのお知らせ 「ICOMミラノ大会2016の報告を公開いたしました」
https://www.j-muse.or.jp/icom/ja/office.php
直リンク https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/ICOMMILANOHOUKOKU.pdf 2.5 MB
また、ICOMには8つの地域組織 Regional Alliance があり、日本はアジア太平洋地域連盟 ICOM-ASPAC (Asia-Pacific Alliance)[アスパック] に加盟しています。こちらも日本が初めてホストとなったのが2009年になってからでした。ちなみにこれも数年前までは「アジア太平洋委員会」との訳も散見されます。固定した事務局はなく、委員長の所属館が事務をおこなうそうです。現在の委員長館は大韓民国国立中央博物館。このとおりアジアの博物館界において日本は完全に出遅れています。当局(の担当者?)にも危機感があったようで、下の報告書の「はしがき」にはあせりが正直に記してあります。ASPAC については日本博物館協会の報告書に詳しく、とくに「参考資料1/2」が初心者向けの内容です。
平成21年度 アジア・太平洋地域の博物館連携にかかる総合調査報告書
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/hokoku/h20/1409472.html
*報告書のなかは20年度となっています。
アジアで最初にICOMの大会を誘致した韓国では、大会の前後で博物館施策が大きく変化した、よい方向に向かったといいます。これも卵と鶏の問題で、もともと博物館に熱心だったから大会を誘致できたのかも知れません。日本も京都大会を契機に不景気な顔から脱却したいものです。
5.衛星会議「サテライト・ミーティング」を
ICOM京都大会は世界から博物館人が集まる初めての機会です。せっかくなので、大会に参加して交流するなり情報交換していきましょう。でも参加費が高い、発表の機会が欲しいという場合、サテライト・ミーティングを企画するのはいかがでしょう。古いたとえですが、1992年のリオデジャネイロ地球環境サミットでは、招待されなかったNGOが自主的に会合を開き、それが大きく報道されました。京都は狭い町ですので、会場と違う場所といっても移動にそれほど時間がかかりません。大学やお寺、場合によっては高校などで海外向けでも国内向けでもよし、展示や集まりや会議をこれから考えていきたいと思います。
ネット上では、すでに AMeeT Art Meets Technology というウェブサイトが「勝手に応援団」というページを作っています。
京都に「ICOM」がやってくる! 第1回:ICOMって何?
https://www.ameet.jp/feature/1466/
京都に「ICOM」がやってくる! 第2回:ICOM京都大会って何するの?
https://www.ameet.jp/feature/2144/
京都に「ICOM」がやってくる! 第3回:ICOMスアイ・アクソイ会長に聞く
https://www.ameet.jp/feature/2398/
ほかにも大阪市立自然史博物館の学芸員が情報発信源になっています。
ICOM NATHIST講演のお誘い
http://blog.livedoor.jp/sakumad2003/
ICOM京都大会2019開催まであと1年文化の拠点としての科学系博物館の取り組み 全科協_vol48_no5
直リンク http://jcsm.jp/wp-content/uploads/2018/09/vol48_no5.pdf 3.6 MB
]]>
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/app/news/pc/002308.html
情報系の集まりは初めてとあって知らないことばかり。面白くたいへんな刺激を受けました。どのお話しも実務第一人者が経験した事業運営について、私見印象を交えて明け透けに語っていたのが印象に残っています。フロアにいたのは登壇者を含めて25名前後と少なく、もったいない感じですが、ほぼ内輪だったからこそ自由な話ができたのでしょう。インターネットでの中継がされていたようなので、ほかにも視聴者がいたことと思います。
個別の話の内容は、発表者の氏名と所属で検索して探してもらうとして、講演のなかで使用された図が掲載されたページや関連すると判断した資料をわかる範囲で示しておきます。
○Introduction on Ukiyo-e.org : Database and Image Similarity Analysis Engine
Japanese Woodblock Print Search (Ukiyo-e.org) John Resig[Skype参加]
Japanese Woodblock Print Search https://ukiyo-e.org
浮世絵検索 https://ja.ukiyo-e.org[ukiyo-e.orgの日本語版]
○無制限に使ってもらうためのデジタルアーカイブ 立命館大学 赤間亮教授[現状と課題提示]
ARCデータベースコレクション[ポータルページ]
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/jurc_about_c.html
立命館大学 ARC所蔵・寄託品 古典籍データベース
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/dbroot/privilege/enter.htm
立命館大学ARC所蔵浮世絵検索閲覧システム
http://www.dh-jac.net/db/nishikie/
○「バーチャル京都」の構築とその利活用 立命館大学 矢野桂司教授
バーチャル京都〜歴史都市京都の3Dマップ〜
http://www.dmuchgis.com/virtual_kyoto/
平安京オーバーレイマップ
https://www.arc.ritsumei.ac.jp/archive01/theater/html/heian/
近代京都オーバーレイマップ
https://www.arc.ritsumei.ac.jp/archive01/theater/html/ModernKyoto/
近藤豊写真資料
http://www.arc-ritsumei.com
京都の鉄道・バス 写真データベース
http://www.dh-jac.net/db1/photodb/search_shiden.php
kyotoメモリーグラフ[アンドロイド専用]
https://androidappsapk.co/detail-kyotoメモリーグラフ/
洛中洛外図屏風ポータル
http://www.dh-jac.net/db1/rakugai/search_portal.php
洛中洛外図屏風のWEB閲覧システムの構築
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=repository_action_common_download&item_id=146553&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1
ARC Map Collection[データベース−立命館大学アート・リサーチセンターのポータルページ]
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/database.html
Old Maps Online http://www.oldmapsonline.org
ジオリファレンスとは?|用語集とGISの使い方|株式会社パスコ
http://www.pasco.co.jp/recommend/word/word089/
Georeferencer
http://www.georeferencer.com
日本版 MapWarper
https://mapwarper.h-gis.jp
2017年度国際ワークショップ「日本の古地図ポータルサイト」
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/GISDAY/2018/workshop.html
Gaihozu: Japanese imperial maps | Stanford Libraries
http://library.stanford.edu/guides/gaihozu-japanese-imperial-maps
ひなたGIS
https://hgis.pref.miyazaki.lg.jp/hinata/
宮崎県:ひなたGIS(地理情報システム)の公開について
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/johoseisaku/kense/joho/20170511004426.html
WorldMap | Center for Geographic Analysis, Harvard University
http://gis.harvard.edu/worldmap
○ルーヴル−DNPミュージアムラボ、(フランス国立図書館)BnF×DNPミュージアムラボの取り組み
大日本印刷株式会社 久永一郎ヒューマン・エンジニアリング・ラボ室長
Louvre - DNP Museum Lab[日本語]
http://www.museumlab.jp
Museum Lab Scenes|Louvre - DNP Museum Lab[ルーブル美術館資料を用いた新しい見せ方]
http://www.museumlab.jp/mls/index.html
○情報の扉の、そのまた向こう:渋沢栄一記念財団情報資源センターの活動
渋沢栄一記念財団 茂原暢情報資源センター長
実業史錦絵絵引
https://ebiki.jp
渋沢敬三アーカイブ
https://shibusawakeizo.jp
デジタル版『渋沢栄一伝記資料』
https://eiichi.shibusawa.or.jp/denkishiryo/digital/main/
○学習ベースの市民参加型翻刻プロジェクト 国立歴史民族博物館 橋本雄太助教
みんなで翻刻―歴史災害史料のオンライン翻刻プロジェクト
http://honkoku.org
みんなで翻刻:ニコニコチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/honkoku
Yuta Hashimoto(@yuta1984)さん | Twitter[演者のツイッターアカウント]
https://twitter.com/yuta1984
みんなで翻刻(@CloudHonkoku)さん | Twitter[みんなで翻刻のツイッターアカウント]
https://twitter.com/CloudHonkoku
○デジタルアーカイブのつなぎ方 国立情報学研究所 高野明彦教授
孤立した知の蔵(サイロ)を繋ぐ方法―情報の蓄積を発想力に換えられるか?―[本日の内容の一部]
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/lff2016_forum_search2.pdf
知識の蔵のつなぎ方―情報の蓄積を発想力に換えられるか―[上の一般利用版]
http://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_files/11375/9/notes/ja/09takano20151109final.pdf
検索から連想へ―知識の蔵を繋ぐ方法―
http://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_48_p08.pdf
検索から連想へ 情報を発想力に変換する連想エンジン
http://rensou-center.cs.nii.ac.jp/works/pdf/books_200704_Kagaku.pdf
デジタルアーカイブの連携拡張に向けた「ジャパンサーチ(仮称)」構想
http://archivesj.net/wp-content/uploads/2017/03/65b1b83ceb7f7851141fbd092b1adb90.pdf
ジャパンサーチ(仮称)構築における課題〜報告書・ガイドラインの実現に向けた課題整理〜
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/jitumusya/dai1/siryou7-5.pdf
本邦初、伸縮自在な年表を表示する検索エンジン「TIMEMAP」公開!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000029326.html
TIMEMAP[右上の三がメニュー]
https://timemap.info
欧州の文化遺産を統合するEuropeana[ヨーロピアーナ]
http://current.ndl.go.jp/ca1863
Europeana Collections[ヨーロピアーナの英語トップページ]
https://www.europeana.eu/portal/en
LOCKSS | Lots of Copies Keep Stuff Safe
https://www.lockss.org
電子ジャーナルの長期保存―LOCKSSとPortico
http://tokizane.jp/Ref/TokiPDF/Tokizane-JKG-58-02.pdf
動向レビュー:電子ジャーナルのアーカイビング−海外の代表的事例から購読契約に与える影響まで−
http://current.ndl.go.jp/ca1597
デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会、実務者協議会及びメタデータのオープン化等検討ワーキンググループ[座長:高野明彦教授]
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/index.html
デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会[座長:高野明彦教授]
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_suisiniinkai/index.html
デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/guideline.pdf
サミット2015ホームページ|文化資源戦略会議
http://archivesj.net/summit2015/archivesummit2015/
アーカイブサミット2015報告集
http://archivesj.net/wp-content/uploads/2015/07/a81dbfea25795720fd0fd14c9dbf306a.pdf
討論の時間は1時間と長めの設定、はじめに「著作権の話はしない」という条件が示され理想と可能性を語ろうという姿勢が明確でした。現状での最適化の追求、不可能性の開陳、不満の共有で終わらせないという意思表示でしょう。来年度以降も研究会や集まりがあるかも知れないとのこと。今後の展開が楽しみです。
]]>JUGEMテーマ:博物館
北海道命名150年。2018年は全国的には明治150年、北海道では命名150年としてさまざまなイベントが企画されている。50年前、1968(昭和43)年の明治百年、北海道は「開道百年」を祝った。北海道大博覧会が開催され、9月2日の記念式典には天皇皇后両陛下が臨席した。高度経済成長のまっただ中にあり、1970年の大阪万国博覧会を控え、石油ショックはまだ影を見せず、インフレに仰ぎながらもそれを上回る賃金の上昇が確約され、1972年の札幌オリンピックの招致も決まった熱い時代だった。そして北海道博物館、当時の名でいえば北海道開拓記念館の建設も開道百年の記念事業として決定された。
開基百年。この言葉、若い人にはなじみがないだろう。役所が置かれて100年となる年を北海道の市町村ではこう呼んだ。内地と異なり、北海道では地域の起源となる年が定まるのである。もちろん近世、江戸時代とは幕藩体制国家の範囲に用いる言葉であり、その外側にあった蝦夷地は外国であるため北海道の歴史では近世を好んで使う、にも内地からの出稼ぎ者や一部には定住者もあった。けれどもそれは非公式な住民ということだろう。北海道と命名されて、役所が置かれて、正式に日本の歴史に登場する、そんな感覚だろうか。市町村でも開基百年の記念事業として博物館建設がブームになっていく。それにしても、開道も開基も開拓も、その言葉は
誰の歴史かという視点が問われる。役所に歴史の原点を求める姿勢、これは紛れもなく入殖者の歴史観、成功した植民地を公言する表現である。昭和の自治体史には「アイヌが住んでいるだけで」といった露骨な差別表現が散見される。しかしそれは時に棄民状態に放置された開拓時代を堪えしのぎ、戦争の時代をくぐり抜け、ようやく安堵できる生活を手にした経験からすれば、悪気のない表現だったのかも知れない。それでも彼らとは別に我が歴史は展開したという見方は覚えておきたい。いろいろな経験と反省、先住民の権利の回復の世界的な流れを受け、今回の記念事業では北海道の命名者でありアイヌの人たちの理解者であった松浦武四郎を取り上げている。必要なのは開拓の歴史を抹消することでは無く、事実を見つめ、自分たちとは異なる視点で評価を加えることだ。
ガラスネガに写し込まれたのは1888(明治21)年の網走である。普段の生活では意識されないが、この町でも当然アイヌの人たちが暮らしていた。農地は測量すら未遂でオホーツクでは屯田兵もまだいない。農業以前の網走の姿である。できたばかりの市街地では、すでに旅館が営業を始めていた。市街地の整備に先立ちアイヌコタンを強制的に移したのは1886年のことという。コタンの姿はチセを含めて本来の姿ではないのだろう。そして彼らは慣れない農業や漁業に従事することになる。それにしても帽子岩を臨む網走川の河畔風景は美しい。現在の生活の質を確保しながら失った美を取り戻すこと、これが150年目の課題となっていくだろう。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
2.1%。これが当課程の新卒者が、契約職員以上の身分でミュージアムに就職した実績である。実数では241名中の5名である。2014年卒業者から就職者が出ていないので、このところ就職率は下降の一方であるが、それでも実態調査に基づく全国平均0.6%の3倍以上の数字である。2013年3月の時点では、132人の修得者に対し、同等の待遇で博物館等に職を得ていたのは5人、博物館への就職率は3.8%となり、これが最大瞬間風速であった。転職や臨時職員、水族館などに一時的にでも在職していた卒業生は現時点で13人、昨年までの単位修得者206名で割ると含める6.3%、16人に1人となる。このあたりが現実的な数字に思える。新卒でなくとも、何らかの形で博物館や動物園、水族館で仕事ができるチャンスは、案外高いのかも知れない。
就職者が何人いるのか。大学の学芸員養成課程はいつも問い続けられている。学芸員養成は学究の場でなく、資格課程であるので、就職人数が評価の第一基準である。言ってしまえば、学芸員を輩出しない課程では存在意義がないのである。学芸員は、社会教育機関としての博物館で働く専門職員である。そのための知識や技能、経験を生かしたノウハウは養成課程で学ぶが、いわゆる専門というのは学部学科での教育で修得するのである。一部の私立大学では、日本美術史や考古学関係の単位取得を学芸員資格の要件とし、卒業生は文化財保護法で義務付けられた緊急発掘の現場を渡り歩き、地方の博物館に就職するというコースがあった。考古学が専門で発掘調査の出土資料を展示する博物館の学芸員。ひとつの類型としてそれがあった。
自然史系の学芸員が現れるのは、北海道の地方では1970年代末のこと。団塊世代の彼らはすでに退職したが、自然史学芸員のイメージは特定少数の彼らが作り上げたものだ。現在の若手学芸員はそのイメージを持って就職し、そして新たな形を展開しつつある。自然再生、関連団体のコーディネイト、美術制作など、個性を生かし、第一世代には見られなかった新しい学芸員の姿が見えてきた。もちろん美術館にも学芸員がいる。資料の採集や製作ではなく、市場価値を有する人類の到達点を、世界の隅々から交渉を重ねて実現する特別展を最大の仕事とする。彼らの姿は、考古学とも自然史系とも異なる学芸員のイメージを体現している。
動物園水族館の学芸員像は、いまだ明らかではない。解説や教育事業の担当者としての姿はあっても、外に名前が聞こえる学芸員は現れない。仕事の主役は飼育員であり、至高の専門家に獣医師がいて、方向性は園長が決める。その狭間にあって、学芸員は、いまだ迷いの中にいる。動物の飼育を目的とする機関の学芸員とは何者か。その問いに答えるのが、これからの仕事である。何かが見えてきたならば、そっと教えて欲しい。後に続くものがいるのだから。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
農大ロビー展が第5回となった。幸いなことに展示期間中の入館者数は1回目の270人から右肩上がりで、296人、324人、406人と来て、今年は644人と昨年の5割増しの過去最高となった。観覧者の実数はカウントしておらず、無料の展示であることから入館者数をもって観覧者数としている。同時期に開催している他のロビー展示、講座や講演会といった普及事業の参加人数も含めた数字であるので、農大ロビー展への観覧者が増加したとは限らず、むしろ他の要因の方が大きいのかも知れない。しかしながら、今年に限っては、進化生物学研究所から借用したエピオルニス全身骨格レプリカ標本を見に来た人が多かったのではないかと思っている。目玉資料の威力である。
特別展は学芸員の特権と当方は授業で説明している。試しにネット検索したところ、最上位の結果は自分のテキストだったので、この表現はあまり一般的でないのかも知れない。あるいは「特権」という言葉をはばかる向きがあるのかと思う。けれども自らの疑問や成果を文章だけでなく、写真や映像、実物資料でかたちにし、公共の空間を使って実現する「知的情熱の物体的表現」は、とてもやりがいのある仕事である。さらに展示の仕事は最終的な表現だけでなく、そこに至る過程と反響こそが面白い。素材の探索と調達、新たな人とのつながり、思わぬ評価や自然と集まってくる資料など、学生たちには展示の醍醐味に少しでも触れて欲しいと願う。
空間の博物館化は駅や百貨店をはじめ多方面で進んでいる。シンプルに展示ケースを置くことから実際に美術館や博物館を設けることまで、空間を改変して展示の意図を与える動きである。それは空間に意味を与える営みともいえる。合理的効率的ではあっても無味乾燥な空間から、心地よく存在できる場所への転換である。意味を与えられた場所には人があつまり話題が生まれ、物も集まる。それは1枚の絵でも写真でもかまわない。そこに屋根を掛ければ館となる。ふれあい、にぎわい、など行政主導のキーワードもおなじところを目指している。
名付けも意味を与える行為である。学生が手掛けるロビー展も内容に関わらず、必ず「農大」の2文字を入れてきた。会場が大学ではなく本物の博物館で行うこと、「農大ロビー展」が略称として座りがいいこと、宣伝効果を考えてのことだが、学生にとっては自分たちを知って欲しいと思う気持ちがある。そして何よりも大学の名称に愛着を持っている。違和感なく受け入れ、口に出して言える名前。単なる記号や呼称を超えた名前のもとで4年間が過ごせれば、その学生生活は幸せだったといえるだろう。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
消えていいのか、日本の動物園・水族館。これは日本動物園水族館協会が2013年に行ったシンポジウム「いのちの博物館の実現に向けて」のサブタイトルである。以後、このシンポジウムは2015年2月まで計6回が開催されてきた。これまで当然としていた遠い地域のめずらしい動物を展示することが、今後はできなくなるかも知れない。このままでは動物園も水族館も絶滅するという強い問題意識が現れている。遠からずゾウやキリンがいなくなるのだという。水族館ではラッコが危機的状況にある。1982年に国内で初めて飼育されてから30年余り、1990年代には120頭以上が飼育されていたが、2014年には約30頭となった。何より危機的なのは繁殖年齢メスが一桁という数字である。ラッコが分布するアメリカやロシアからの輸入は止まったままで、いずれ国内からラッコは姿を消すことになるという。
野生動物の保護を求める声の高まりとともに、野生生物の輸出入を規制する国際条約が締結され、稀少な生き物を国外に持ち出すことを禁じた法整備も各国で進んでいる。法律上の問題はなくとも、市民運動や住民の力の行使により、野生動物が持ち出せない状況さえ生まれている。生物多様性の保全、地域の自然の保護からすれば喜ばしいことに違いない。財力にものを言わせて珍獣を見世物にする時代は、先進国では完全に終わったのである。ただし新興国ではいまだに需用が増えており、人気のある大型獣は市場価格が高騰、国内の公立動物園では手が出ない価格になっている。
危機は海外からの動物の入手だけでなく、飼育自体に及んでいる。動物園は、本来群れで生きる動物を少数で飼うことの是非について答えを出さなければならない。娯楽や教育、研究を経て究極的には生息地と個体群を守る技術と政策を生み出す必要悪と答えるのか、生息地まで出掛けていって野生個体を見て楽しむのは一部の富裕層であり、大衆の楽しみには動物園が必要だと答えるのか。それとも飼育適合種を絞り込む方向に向かうのか。すでに地元のちいさな生き物へと、展示をシフトする動きもある。釣りや遊びで親しんだ地域の生き物を見直し、世代間の知識や文化の受け継ぎも含んだ試みである。身近な生物でも実は絶滅の恐れにあることも多く、生息地以外での保存の役割も持ち、奨励される飼育と考えられる。
倫理的な条件が重視されるのは動物園に限らない。研究機関で使う実験動物も、適切な飼育環境と苦痛の軽減が法令上の条件となっている。動物の福祉はエキセントリックな過激思想ではなく、もはや国際基準である。数十年後の動物園や水族館の将来の姿は、現在とは異なる様子になっているはずである。その形は、これから活躍する若者が決めていく。子どもの頃の思い出を胸に就職を思い描くのではなく、新しい人と動物の関係を作る仕事が待っている。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
キュレーターは学芸員に対応する英語である。より正確には、コレクションの部門長といったところであるが、使われ方は博物館によって異なり、一つの研究分野に多数の人が名乗る場合もある。仕事の範囲もさまざまで、ちいさな館では研究も資料管理も担うが、大規模館では資料管理の責任者としてコレクションマネジャーを置く分業体制となっている。英語圏の博物館では、研究志向の何でも屋のキュレーターから各種専門職が確立していった。それでもキュレーターは博物館の研究部門では最高位の職である。しかし、
インターネットの世界ではキュレーターの語は異なった意味で用いられている。いわゆる「まとめサイト」をつくる作業を「キュレーション」、まとめる人たちを「キュレーター」と呼ぶのだという。現実の世界でキュレーターを学芸員と理解する前に、バーチャルの世界では別の用法が確立し、それがリアルの世界にまで入り込もうとしている。すでにデジタルな理解でキュレーションを語る書籍が出版され、キュレーターは博物館と離れた意味で普及していくのかも知れない。似た例に
アーカイブがある。現実の世界ではアーカイブはいつまでたっても認知が進まず、アーキビストに到っては対応する日本語すら存在しない。一方、コンピュータの用語では、使わなくなったデータを圧縮して保存するという意味で、一般的に使われるようになって久しい。バーチャルが先でリアルが後でもよい。古いデータを保存する習慣、過去の記録を調べる体験がこれによって共有されていく。いずれ、リアルの世界でもアーカイブの価値が理解されていくと期待したい。文書や記録は捨てるのでも燃やすのでもなく、しっかり保存整理するべき財産だと。これはインターネットの
ウェブサイトにも言えることだ。博物館のウェブページは新しい情報を告知するだけではない。情報の蓄積場所としての役割もある。博物館の調査や収集活動、展示やコレクションに関する記録は毎年毎月増加を続ける。古い情報はウェブサイトから削除するのではなく、リンクを残して積み上げる。それは一種のアーカイブとして機能する。最新機器を駆使した高精度画像や巨大システムは必要ない。地道な足取りをたどる日誌や報告書のような資料集にこそ意味がある。それが博物館の歴史である。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
網走は博物館に恵まれた場所である。市内のまとまった地域に登録博物館が4館、網走市立郷土博物館・網走市立美術館・北海道立北方民族博物館・博物館網走監獄が存在する。これらは北海道では長い歴史を持つ本格的な私立博物館と公立美術館、博物館の名称を持つ唯一の道立施設、道内では最多の入場者を誇る野外博物館など重要な博物館ばかりである。いずれもキャンパスからバスで10分程度の場所にあり、すいた道路をバスで行けば1コマの授業90分間の間で駆け足ながら見学が可能である。オホーツクキャンパスは学内に博物館を持たないが、立地環境は学芸員養成において恵まれた条件にあると評価できる。
周辺にも調査や展示の支援者にあふれる美幌博物館、普及活動と出版物が充実した知床博物館物館、数少ない本格的な丸瀬布昆虫生態館、世界的に活躍するデザイナー造形作家の作品を収めたシゲチャンランドなどが存在し、多様で個性豊かな博物館に囲まれている。2012年7月に改装開館した「おんねゆ温泉・山の水族館」は2か月で10万人の入館者を集め、注目度一番である。往復200kmを越えるが、十勝の足寄動物化石博物館やタンチョウを飼育する釧路市動物園は、その分野では世界にその名が届いている。土曜日に行った学生時代の見学だけでは、本当の価値は十分見つけられないかも知れない。
水族館もかつて網走に存在した。2002年に閉館したオホーツク水族館である。返す返すもこのことだけは残念でならない。8月の理事会で決定、9月に閉館というあっという間のできごとだった。その後、2006年になって本学部にアクアバイオ学科と学術情報課程が設立された。この間4年。これをなんとか持ちこたえていれば、道が開けたかも知れないと思うとほんとうに悔やまれる。
廃止削減は現在の博物館界を揺るがす流行事象となっている。このことは特定の地方公共団体に目立ち、「自治体リスク」とでもいうべき状況である。一度なくした博物館を再開することはきわめて困難であり、廃止は子ども世代への影響を鑑み慎重に判断すべきである。博物館の評価とは教育上の効果を最重視すべきであり、そのひとつとして大学での利用、学芸員養成における価値を訴えていくことも必要だろう。それには学芸員や養成課程への理解が前提となり、本課程の存在意義のひとつもそこにある。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
来年度から博物館施行規則が変わり、学芸員の資格取得に必要な「博物館に関する科目」が現行の8科目12単位から9科目19単位に増加する。博物館展示論と博物館資料保存論が2単位、の科目として新設され、現行の教育学概論が博物館教育論と改名、生涯学習概論と博物館経営論は名前はそのままでそれぞれ2単位となる。今回の改訂に際しては、大学院教育や上級学芸員資格の新設、国際的な養成水準の確保、現代的要求への対応など多くの課題が検討されたが、実施可能な選択が学部での講義の増加であった。この改訂について、私立大学の関係者ではまったく別の視点で語られてきた。新規科目は専任教員で講義できるのか、外部講師の人材はいるか、その確保は大丈夫か、できない場合は学芸員養成課程そのものが維持不能になるのではないかという不安である。
養成課程の廃止は現実のものとなった。すでに北海道の酪農学園大学や大阪府立大学、岡山県立大学では平成23年度の入学者から、青森県にある北里大学獣医学部、宮城教育大学、麻生大学、山梨英和大学、広島修道大学、県立長崎シーボルト大学、阿蘇山麓の東海大学農学部は新課程となる来年度24年の入学者から学芸員養成課程を廃止する。予想されていたとおり地方の小規模な大学が名を連ねているが、課程の廃止は公立大学、農学系や獣医学系を含む中核的な大学までに及んでいる。理由については、担当教員の確保が困難というよりも、就職がなく費用対効果が低い、そして学生からのニーズがないのだという。
逆に国立大学のなかには、岐阜大学教育学部と応用生物科学部、三重大学生物資源学部のように、来年度から新規に学芸員課程を設置する学部がある。どちらも農学系の学部である。私立大学や公立大学とは時代への適応方法が異なるのか、それとも学生の志向の差なのか。私立大学と国立大学では動きが違う。国立の大学博物館は、大学博物館等協議会を組織、博物科学会を設けて資料の研究を進めている。一方、私立大学は学芸員養成課程で構成する全国大学博物館学講座協議会(全博協)に集まる。ここでの近年の関心事はもっぱら文部科学省の動向であった。両者に接点は少なく壁は高い。
教育の内容はさらに個別的である。文部科学省は授業項目を明記してはいるが、実際には教員の自由裁量が大きい。課程の授業について、現実の博物館は希望や要望をもっと届けるべきではないか。学会は養成内容にもっと目を向けてほしい。現場との対話、研究の後ろ盾によって、大学は学芸員養成課程を実りある内容に育てることができるのだから。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
2名が新たに博物館の世界で活躍する。今年度の卒業生1名が水族館で、既卒者1名が地方博物館で働くことになった。新規採用となった学生は、釣りガイドの経験を持ち、いろいろな形で生きものとふれあう楽しみを手助けしてきた。多面的な楽しみを提供する水族館のこころみに最適な人物だったのだろう。もうひとりはすでに2008年から臨時職員として勤めだし、本課程で資格取得後、学芸員として正職員に採用された。オホーツクキャンパスの学術情報課程にとって、たいへんによろこばしいできごとであった。
多様な職員が現在の博物館では求められている。かつての博物館の職員は、近代博物館の誕生からの伝統である研究学芸員と事務職員という組み合わせであった。現在の欧米では、博物館で働く専門職員の種類は数十以上があり、その価値が広く認められている。一方、日本の場合、国家資格は学芸員だけで、職制としての研究員が加わる程度である。資料の保管や展示、教育や広報の担当者はそれらしい名称や目新しいカタカナ職名を名乗っているが、根拠希薄な泡沫稼業、いわゆる高学歴ワーキングプアと呼ばれる仲間である。
社会的にはこれらの職種は認知されつつある。日本を代表する大型館や博物館に関係の深い大学が独自資格を発給することも始まっている。これらが市民権を得るかどうかは、国家ではなく社会が認めることがらである。これからは、国家や省庁の資格制度に依存するのではなく、時代に応じた配役を博物館や関係者が育てていくことになるだろう。だが、新たな舞台ができるまで、まだまだ時間を必要とする。現在の若者は、時代と時代の狭間に巣立っていくのである。では、どうすればよいのか。
自主独立の気概を持つ。学位や資格を掲げ、技術や能力を誇っていても、そこには踊る舞台がない。高級店で値札を付けて並べていても買い手は来ない。みずから図面を引き、舞台を建てるか、行商に歩いていくより道はない。水も漏らさぬ緻密さながら、じつは世の中すき間だらけである。世界を知り経験を積めば自然とそれが見えてくる。この国は一枚岩では決してない。上を向くもの横のくぼみ、動く場所や手掛かりはどこかにある。一様な閉塞感は空気が装う見せかけである。だからこそ、みずから道を切り開いていってほしい。そして必要とあればキャンパスはいつでも君を歓迎する。大学とは卒業生との関係を一生続けていく存在なのだから。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
42名(生産11・アクア25・食品2・産経4)の学生が学芸員の単位を取得して卒業する。今年の卒業生つまり2006年入学生の当初履修者は64名であるから、65.6%、おおよそ3分の2の学生が学芸員の発令要件を得た。加えて2名の科目等履修生(修士課程1・社会人1)が単位修得者となり、オホーツクキャンパスでは合計44名が学芸員資格を得たことになる。
法的には、学芸員は都道府県の教育委員会の登録原簿に登載された登録博物館に勤務し、その発令を受けた者だけを指す。学芸員の資格は教員とは異なり免許ではない。よって博物館を辞めれば学芸員ではなくなる。フリーの学芸員は法的にはあり得ず、有資格者だけに許可される制限行為も存在しない。ついでに言えば、名称の独占的使用の制度がなく、無資格者や要件を満たさない施設で学芸員を名乗っていても罰則規定はない。ここが医師や弁護士、教員とは大きく異なる点である。
学芸員の名刺を持っていても、登録博物館以外の施設の職員は法的な意味では学芸員ではない。博物館法が管轄する博物館は登録博物館と、それに準じた内容を持つとやはり県教委が認めた博物館相当施設だけである。それ以外は国立も県立も市立も個人博物館も法的には同じ扱い、博物館類似施設である。博物館の名称もやはり使用制限はなく、誰がどんな施設や機関に使ってもよい。博物館の名称だけでは中身がわからないのは当然である。学芸員も博物館もその本質は法律や制度からは見いだせない。
博物館資料は一部に文化財保護法が適用され、法が保存を義務づけた資料もある。しかし、大多数の資料に法的な担保はなにもない。学術的に重要なタイプ標本もしかりである。これらのコレクションを守ってきたのは外的な強制力ではなく、学術的な証拠や自然の奇跡、歴史や文化の対象物に価値を認めた人びとの意志であり、その実現は学芸員の仕事である。法や行政の保護もなく、場合によっては予算にも不自由するなかで、人類と地球の遺産を次世代に伝える努力を日々繰り返す。それは資料に価値を見いだす研究、保存環境の提供、設置者からの予算の獲得、社会的関心を高めるための教育までと幅広い。目的はおなじでも手段はさまざまで個性が発揮される営みである。地味ではあるが、かけがえのない仕事であると、こっそり胸を張って学芸員は働くのである。
]]>
JUGEMテーマ:博物館
3月17日は東京農業大学オホーツクキャンパスで卒業式が行われる。受け持つ学芸員養成課程では、年報を2008年度から発行していて、卒業生には実習日誌と主要なレポートとともに配付している。内容は、1)開講科目、2)見学館園、3)授業内容、4)農大ロビー展、5)館園実習、6)年間カレンダーなどで、学生の氏名を掲載しているのでネットに上げることはしないのだが、表紙は手間を掛けた組写真で、えらそうな巻頭言も書いている。心を込めた年1回のたわごとなので巻頭言をブログに上げておこう。
博物館と学芸員を目指す 東京農業大学オホーツクキャンパス学術情報課程年報2008
2006年に学芸員資格取得を目指す学術情報課程がオホーツクキャンパスに設置されてから3年目となった。今年は、夏休みから3年生が博物館での職場体験の機会となる館務実習(館園実習)に出掛けている。講義の科目も3年前期までに終了しているので、学術情報課程の内容は今年で出そろったことになる。課程の完成年度は来年であるが、学芸員資格の講義と実習の内容をまとめた年報を発行することにした。
本学の場合、学芸員資格の取得に必要な授業は、博物館法で定められた博物館に関する科目8科目12単位のみとしている。大学によっては、歴史や美術分野の科目を選択必修とし、学芸員課程の必要科目が専門分野と合わせて20単位程度になっている場合が見られるが、本学では専門分野の修得は学科での教育が担保している。よって、学芸員を目指す学生は、専門分野の研鑽に努めることが求められる。
学芸員に共通する知識と技能の修得、これがオホーツクキャンパスでの学芸員養成の教育方針である。本学部の学生は、生物学系あるいは生物産業を基盤とした学芸員としての活躍が期待される。学術情報課程では、専門分野だけでは不足している内容、しかも4学科ともに必要性の高い項目を取り上げることにしている。授業では、文章表現やデザイン、印刷と出版の基礎知識、写真撮影、使用者としてのコンピュータ能力など教育普及分野での技能、博物館の意義や歴史、文化財保護、生涯学習といった教養的な内容が多くなり、馴染みのない内容にとまどう学生もいるかもしれない。さらに、広報媒体や実施計画の模擬作成、施設運営の要点整理、美術品輸送の専門家による梱包実習など実践的演習を実施した。
博物館情報学研究室には、学芸員の実務が体験できるよう、博物館で使用されるコンピュータやソフトウエア、大型プリンタやフィルムスキャナなど周辺機器を一通りそろえている。書籍も概説的なものから、小学校から高校までの教科書や子ども向けの図鑑、建築資料や英語の基本文献など、ある程度充実してきた。関連学会の資料やウェブで公開される報告書なども蓄積し、地方における博物館の情報拠点としての形ができつつある。勉学、実務の両面で、博物館を支援していくことができれば幸いである。
JUGEMテーマ:博物館
博物館や学芸員にとって必須の重要語とは何で、いくつくらい存在するのだろう。
研究の進展に伴い専門用語や概念語は増加の一方である。その結果、学校教育の現場でも生徒への負担が増加し、とくに生物や歴史はいわゆる暗記科目との偏見が助長される。そこで学会や学術団体では高校教育段階での重要語を絞り込むことを提案している。たとえば、日本学術会議では、「高等学校の生物教育における重要用語の選定について」という報告を2017年9月に提出している。用語の表記のあり方も議論し、英語も対照されている。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-h170928-1.pdf 833KB
歴史分野では、高大連携歴史教育研究会が「高校教科書および大学入試における歴史系用語精選の提案(第一次)」を提案。約2000語に精査したものという。
http://www.kodairen.u-ryukyu.ac.jp/pdf/selection_plan_2017.pdf 1.6MB
学習用語の見直しと選択は、教育内容を支える研究の発達に従い、何十年かに1度は必要な作業である。では、学芸員養成課程での用語選択はどうなのか。Google の検索では「"学芸員養成" "重要用語"」は7件のみ。「"博物館" "重要用語"」だと2200件だがノイズばかり。実際、学芸員養成での重要用語や概念の議論はほとんど聞かない。博物館は多様なので、業界内部でも分野ごとに使い方が違っていたりする。これは混乱のもとだ。たとえば展示と陳列、模造とレプリカ、ジオラマとミニチュア。古い時代の訳語は見直しが必要かも知れない。それから復元と想像復元。想像は格好悪いから想定復元? 復元では著作者や制作者名の表示は必要か、など用語と概念を精査すれば、実際の使用現場における突っ込んだ議論が必要になる言葉もある。展示会社と学芸員では呼び方がずれていることも感じる。展示パネルは展示資料を据え付ける板なのか、図や説明を記した解説板なのか。展示業者は前者で解説板はグラフィックと略す。学芸員は後者の意味で使う、あるいは場面によって同じ語を異なった意味で用いているのではないか。
教科書としては国際標準のICOMの「Museum Basics」があるが、ここに現れる用語の日本語訳も学会などが公式訳語をリストにするなど標準化が必要のはずだ。すでにあるのだろうか。ウェブサイトでは、重要語を21取り上げて詳しく解説した Key Concepts of Museology が日本語を含む多言語で公開されている。これは2010年の ICOM 上海大会に合わせて出されたもの。自省的な前書き部分が興味深い。
http://icom.museum/professional-standards/key-concepts-of-museology/
このことは、水嶋英治. 2012. 研究は蓄積と国際的視点に立って―グローバリゼーションとグーグリゼーション―. 日本ミュージアム・マネージメント学会研究紀要, 16: 1–3. で知った。インターネットでのPDFはありがたい。「"博物館" "重要用語"」の検索で一番上に現れる。
日本の博物館業界でも学会作成の事典がある。しかし、誰が何時どのような状況で使うのかといった使用場面の想定が不足していると感じる。少なくとも学部生を意識した内容ではないように思う。全国大学博物館学講座協議会(全博協)で議論して、現場や学会の意見も聞いて、用語統一と養成課程での絞り込み、していきたいです。
ちょっと別の話だが、漢字文化圏での表記の統一や標準化もできるなら目指したい目標だろう。たしか、「2009 ICOM-ASPAC 日本会議」あたりで議論されていたと思うが探し出せない。2019年のICOM京都大会のテーマになるのだろうか。こういった思いつきはどのルートで上げれば取り上げてもらえるのだろう? ICOM事務局関係者を知っていれば、直接言えばいいのだろうが、重要メンバーに知り合いがいない人が提案する方法がわからない。ウェブなどで意見募集すればいいのに。だいたい京都大会のウェブサイトは英語版のみ。
http://icom-kyoto-2019.org/index.html
個々のページの工事中はしかたないとして、国内の博物館や学芸員に向けて日本語版を早く!
]]>
JUGEMテーマ:博物館
もはや時期外れであるが、学芸員養成課程の減少状況を比較してみた。用いた資料は、下の文部科学省のウェブページである。
「学芸員開講大学一覧」(平成21年4月1日現在)345大学
「学芸員開講大学一覧」(平成24年4月1日現在)297大学
学芸員養成課程開講大学一覧(平成25年4月1日現在)300大学
このうち現在掲載されているのは平成25年版のみである。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/gakugei/04060102.htm
年度による比較はpdfにまとめたので参照ください。
http://www.bioindustry.nodai.ac.jp/~muse/unisan/files/gakugei_hensen.pdf
以下、2009(平成21)年と2013(平成25)年で比較する。ただし、2012年と2013年の間の新設は秋田公立美術大学と石巻専修大学の2校、廃止は神戸ファッション造形大学1校のみである。福岡教育大学は2012年のみ掲載がない。
国立大学は63校から57校と6校減少。廃止した大学の分布は、宮城、秋田、栃木、新潟、滋賀、香川、長崎から各1校であり、地域的な偏りは見られない。強いて言えば、首都圏や京阪神など大都市圏では廃止がなかったということか。しかし、後述のように公立大学や私立大学と合わせて見ると異なる状況が現れる。ところで、文部科学省のウェブページでは2009(平成21)年の名簿に一橋大学の名前が無い。一方、一橋大学のウェブサイトによると、同大学大学院言語社会研究科では2002年から学芸員資格取得プログラムを開講したとあるので、名前が無いのは間違いだろうか。また、福岡教育大学が2012年のみ前がないのも誤りかも知れない。国立大学では教員養成系学部での廃止が目立つように思う。
公立大学は21校から20校と1校減少、ほぼ横ばいである。が、新設3校は秋田、群馬、静岡(私立からの移管)とすべて東日本、廃止4校は大阪、岡山、高知、長崎とすべて西日本で、東西で状況は大きく異なる。とくに長崎県では、国公立大学では学芸員の資格が取れなくなってしまった。
私立大学は236校から214校へと22校、約1割の減少である。出入りが多く、廃止大学は、北海道2、千葉2、東京4、神奈川1、山梨1、静岡2(1校は公立に移管して課程は継続)、愛知5、三重1、京都1、兵庫5、和歌山1、岡山1、広島2、山口1、香川1、愛媛1、福岡1、熊本1の33校であり、東西日本での比較では静岡以東12校に対し、愛知以西は21校と西日本で多い。新規開設校は、宮城1、埼玉2、千葉2、神奈川2、京都1、兵庫2、福岡1の11校であった。このうち神戸ファッション造形大学は2013年に、神戸夙川学院大学は2015年に廃校となっている。首都圏では廃止も新設も多く、大学の絶対数からすれば愛知と兵庫の減少が目立つ。東北や北関東での廃止がない一方、中国地方では4校で課程が消えた。
短期大学は最も大きな変化を見せ、24校が8校にまで減少した。もともと短大での学芸員養成課程は学芸員補の任用資格であり、存在自体が危ぶまれていた。それにしてもここまで減少したのは、課程の廃止に加えて4大への改組など学校自体の改廃もあるのだろう。残った8校の分布は、北海道1、福島1、栃木1、京都2、大阪2、福岡1で、公立大学とは対照的に関西に多く残っている。
文部科学省のウェブデータは大学ごとの設置状況であり、学部単位では、さらに状況は厳しい。北里大学では青森県にある獣医学部で2012(平成24)年度入学者から学芸員は取得できなくなった。北海道の酪農学園大学、神奈川県の麻布大学、そして大阪府立大学と獣医系の学部学科では3大学で養成課程がなくなり、獣医師でかつ学芸員の資格を取得できる大学が激減した。なお、酪農学園大学と大阪府立大学、岡山県立大学の課程廃止は、1年早い2011年度入学者からである。予見されていた地方の小規模校での廃止は中国地方に目立つ。加えて、成蹊大学や創価大学など東京の有名大学での廃止はショッキングである。
学芸員養成課程の改廃の動きは進行中で、鹿児島大学農学部では2017(平成29)年度入学者から学芸員課程は廃止された。
http://ace1.agri.kagoshima-u.ac.jp/topics_news/2017/02/post-119.html
大阪教育大学でも養成課程は2020(平成32)年度までとなっている。同大学では博物関係論の開講は今年度(2017)までという
https://osaka-kyoiku.ac.jp/_file/renkei/kenkyo/seika/h29_1j/22.pdf
来年度以降は移行措置、今年度からの入学者は学芸員資格は取得できない。
https://osaka-kyoiku.ac.jp/faculty/kyomu/kyouinnmennkyoshikaku.html
文化財の活用を目指すのであれば、学芸員、とくに地方における学芸員は重要になると考えるが、養成課程の減少はいかがなものか。資格としての学芸員の技能と存在を強く訴えていきたい
]]>JUGEMテーマ:博物館
授業の準備で市町村の博物館条例をつらつら見ていたら、自治体によってずいぶん異なることがわかった。自分の経験が常識となっているので、それとの距離が違和感となって現れるのだが。まず気になったのは、職員の項目。近くの博物館条例を見ると「館長及びその他の必要な職員を置く」なんてのがある。ここは登録博物館なのだが、職員の項に学芸員という文字がない。当初からこの文言だったのか、登録後に変更されたのかは調べていない。
次ぎに減免規定。元勤務館の減免の主語は「教育委員会」で、さらに「その他館長が適当と認めた者」となっている。権限は現場にある。ところが入館料の減免が首長になっている館がそこそこあること。お金のことは首長部局という割り切りなのだろうが、使用料の減免は市長、前納を免除するのは教育委員会という例もあって整合性がないのではないかとも思ってしまう。窮屈なのは減免の主語が首長だけという条例。知り合いの研究者が来て、ちょっと見るからといってタダで入館させるのも市長にお伺いをたてることになる。実際にはそんなことはないのだろうが、それはそれで規律無視になってしまう。がちがちに厳しい規則は困るだけではないか。極力、現場に権限を持たせない、という思想が見えることもある。
びっくりしたのは「博物館は、法令等の定めるところに従い、かつ、教育委員会の管理の下にその事業を遂行し博物館の目的の実現に努めなければならない」という条文。博物館は独立した機関と信じて疑わない身からすれば驚愕の一条だ。おなじ自治体に複数の博物館がある場合、それぞれの条例がぜんぜん違っていることもある。
それから、登録博物館なのに条例に博物館協議会が示されていない館がいくつもあった。これはちょっと変だなと思って検索すると、いまは市町村では各種協議会などの設置を「附属機関条例」や「附属機関設置条例」というので一括して根拠を与える場合があることがわかった。この動きは2012–2013年あたりにあったようだ。ただ、検索では総説や解説にあたるウェブページが見つからない。総務省の説明があると助かります。条例と規則の役割分担も自治体によってばらばら。まあ、片方が詳しいともう一方がおおまか、という傾向はあるが。
今回はじめて知ったのだが、市町村の条例を一括検索できるサイトがある。「条例Web」というのがそれで、おそらく例規集など請け負っている会社が運営していると思うのだが、わからない。博物館のボタンを押すと北海道から沖縄まで「1425件のデータがあります」。同志社大学の原田隆史先生も同様のサーチエンジンを作成しているが、それとは異なるようだ。
条例Web:Top-page http://www.jourei.net
条例Web:博物館等 http://www.jourei.net/main/regulations/87
原田隆史 主催・共催プロジェクト http://www.slis.doshisha.ac.jp/~ushi/project.html
これを使えば、そうとういろいろわかりますね。博物館経営論の強い味方です。
]]>JUGEMテーマ:博物館
ちょうど2年後の2019年9月、日本で初めての開催となるイコム大会が京都で開かれます。3年に一度の大会 general conference は、アジアでは日本より先に韓国のソウル(2004)と中国の上海(2010)で開催され、韓国ではそれを期に博物館が大きく変わったといい、中国では現在も国威発揚に大型館の建設が続いています。合理化と無理解によって冬の時代が長く続く日本でも、イコム京都大会を契機に博物館の地位向上を図ろうというのもうなづけます。ですので、文化庁や日本博物館協会、関連学界などは、かなりの人員と労力を捧げているのは当然のことでしょう。ごくろうさまです。ところが、主役となるはずの博物館や学芸員は、さほど興味があるように思えません。とりわけ、自然史や地方博物権の学芸員にとっては、なんやそれ、勝手にやってくれ、俺らには関係あらへんという雰囲気があるように思えます。
イコムはすべての博物館施設をまとめる唯一の国際機関でありながら、現場の学芸員からすれば存在感もありがたみも感じない、出たいとも思わない、身近でもない、あってもなくてもよいような組織です。多くの学芸員は研究者を自負してるので、帰属意識も晴れの舞台も所属学会にあります。オリンピックに相当するのは国際学会です。ならばイコムは何か。館長や運営の立場にある人たちの交流の場でしょう。研究学芸員からすれば、優先順位は下がるのも当然です。では、運営も担う地方博物館の学芸員はどうか。トリクルダウンなぞ信じていないでしょう。京都で盛り上がったとしても、自分たちの状態なぞこれっぽちも変わらない、そもそも京都まで行く旅費も出ない、もし予算があるならば、それは研究や資料整理に使いたい、そんな感じではないでしょうか。国際交流に意味があり単純に楽しいという話もあるようですが、研究者はそれぞれの分野で実践しているのです。
イコム京都大会が成功するには、現場の学芸員が開催意義に納得し、その後の博物館の処遇が良くなる道筋が見えることが必要です。それには、学芸員が積極的に策略を練り、中枢に向け発射することが必要と考えます。あと2年、せっかくの機会をうまく使っていきましょう。
]]>JUGEMテーマ:博物館のイベント
9月18日に京都国立博物館で行われた「2015ユネスコ勧告を読み解く」ワークショップに行ってきました。メインの発表は、ユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任という博物館にとってきわめて重要な仕事をしている日本人によるもので、「勧告」が生み出される過程と文言に込められた思いやねらいを解説したものでした。 台風の影響が心配されたなか無事に開催されましたが、一部予定とは異なる内容でした。案内と違っていたのは、1)「1960年ユネスコ博物館勧告と日本国内の反応」は発表者が急用で欠席し進行役が代読、2)ワークショップ1活動1「博物館でやっていること、やりたいこと」はありませんでした。
メインのユネスコ主任の発表は、2015年勧告の逐条解説に近いものでしたが、条文の決定までのやりとりが主語付きで紹介され、興味深いものでした。「世界における新しいミュージアム像」(ユネスコ主任)といえる2015年勧告をリードしたのはブラジルなど中南米諸国で、2011年の総会で新しい法的文書の制定を発議し、翌2012年にはブラジルで非公式会合を開催しています。中国も条文決定に積極的で、5条のコレクションでは当初パブリックコレクションだったものからパブリックを削除することをメキシコと共に提案して採択に至っています。これはプライベートな資料も保護対象にしていこうという趣旨です。ブラジルでは2015年勧告に関する国内フォーラムが開催されています。また、6条の遺産で無形の文化財を加えることは北欧諸国が主張したこと、18条の先住民族との関係はカナダの提案によるもの、などユネスコで博物館に積極的なのは非西欧ということがわかりました。なかでも中国は積極的で、2016年11月に深圳(しんせん)で開催されたユネスコハイレベルミュージアムフォーラムは、各国の国立博物館の館長クラスが参加し、公式目標として博物館を20万人に1館とすることが置かれているそうです。ほかにも、コンゴ民主共和国で国立博物館が建設されること、ガボンでの国立博物館の目録の作り直しや収蔵庫の環境改善、イランで国立博物館の目録作成やデジタル化が進められていること、クウェートで博物館セクターの改革が進められていること、カンボジアで文化財目録作成の標準化が行われていることが紹介されました。参加者からの質疑では、展示への言及が10条に限定されることが指摘されました。これは文字としてはここだけですが、展示に関わる内容は他の条文にも見られるという回答でした。
事実確認が不足しており不正確な部分があるかも知れませんが、当日の話のメモでは、ユネスコのミュージアムプログラムは通常の予算はゼロ、スタッフは主任1人、通常の予算はゼロという状態。そこに中国が資金提供して、今回の日本への出張もそこから支出していることが紹介されて衝撃でした。また、ユネスコのなかでアーカイブはコミュニケーションの担当というのも意外に感じました。
ワークショップは、制度と実践の2分野に別れ、6グループだったと思います。自分のテーブルは5人で、大学学芸員養成課程教員2人、文化庁関連独立行政法人1人、大阪府1人、大阪市博物館関連NGO1人でした。めずらしく自然史関係者が多く、自然史標本の位置付けなども話題になり、ちょうど居合わせたユネスコ主任も記憶してくれたようで、ワークショップのまとめでも取り上げてくれました。意見交換も面白く、それに増してとても興味深い立場や仕事をしている人と知り合えたのがとてもよかったです。華道や茶道のような「道」に関係するものは、国指定の文化財にはならないという話もここで初めて知りました。家元制度などがあり、国レベルの普遍性に欠けるということでしょうか。
当日の発表資料が手元にありますので、興味ある方はご一報ください。
以下は、日本ミュージアム・マネージメント学会事務局からの案内メールです。
----------------------------------------------------------------------------
【会員の皆様へお知らせ】
先にお知らせした本学会共催の「2015ユネスコ博物館勧告を読み解く」
(9月17日福岡開催、18日京都開催)ですが、
募集定員に対し「福岡会場は残りわずか」「京都会場はまだ余裕があり」と
いう報告がそれぞれの事務局からありましたので、お知らせします。
会員の皆様の参加を期待します。
*開催要項*
http://www.kyusan-u.ac.jp/ksumuseum/_userdata/yunesukohp.pdf
*********************************
平成29年度文化庁「地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業」
2015年ユネスコ博物館勧告を読み解く
−今後の我が国の博物館像を考える−
1.趣旨
2015年11月20日、ユネスコの第38回総会で “Recommendation on the Protection and Promotion of Museums and Collections, their Diversity and their Role in Society(ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性と社会における役割に関する勧告)” が採択されました。同勧告は、加盟国の政策立案担当者に向けたもので、現代における博物館の社会的役割等を示した国際的なスタンダードとなるものです。ユネスコの博物館に関する勧告としては、1960年12月に採択された“Recommendation concerning the Most Effective Means of Rendering Museums Accessible to Everyone(博物館をあらゆる人に開放する最も有効な方法に関する勧告)”以来55年ぶりで、2019年に初めて我が国で開催されるICOM京都大会でも議論されることになります。
今回のワークショップでは、勧告策定の中心的役割を果たしたユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任の林菜央氏を招へいし、策定までの経緯について解説していただくとともに、参加する博物館関係者を交えて、勧告を踏まえた今後の我が国の博物館像を考えます。
【林 菜央 プロフィール】
上智大学、東京大学大学院、ソルボンヌ大学、パリ高等師範学校で古代ローマ史(帝政期属州における東方起源宗教の伝播)を、ロンドン大学アフリカ東方学院で持続的開発論を学ぶ。
1998年より在フランス日本大使館の文化アタッシェとして勤務後、2002年以降ユネスコ文化局文化遺産部、世界遺産センター、カンボジア事務所を経て2007年よりミュージアム関連業務担当となり、2014年より主任となる。開発途上国での世界遺産及びミュージアム支援事業に多数関わる他、2015年にユネスコ総会で採択されたミュージアムに関する国際勧告の起草から最終的な採択までのプロセスを一貫して担当。
現在は勧告の執行を奨励するため2016年に設立されたユネスコハイレベルミュージアムフォーラムのコミッショナーを務めるほか、加盟国に対する幅広い政策支援を行っている。
2.日時
〈福岡会場〉平成29年9月17日(日)13時〜17時(受付:12時半から)
〈京都会場〉平成29年9月18日(月)13時〜17時(受付:12時半から)
3.会場
〈福岡会場〉九州産業大学グローバルプラザ(福岡市東区松香台2-3-1)
〈京都会場〉京都国立博物館平成知新館講堂(京都市東山区茶屋町527)
4.主催
ICOM京都大会組織委員会、ICOM日本委員会、公益財団法人日本博物館協会、京都国立博物館、九州産業大学、
ふくおか博物館人材育成事業実行委員会(九州産業大学美術館、九州大学総合研究博物館、福岡市博物館、福岡市美術館、海の中道海洋生態科学館、田川市石炭・歴史博物館、直方谷尾美術館)
5.共催
日本ミュージアム・マネージメント学会、全日本博物館学会、日本展示学会
6.後援
全国大学博物館学講座協議会
7.参加対象、人数、申し込み
博物館関係者、芸術文化・社会教育行政関係者、大学教員、学生
(1960年、2015年のユネスコ博物館勧告を必ず読んで参加すること)
福岡会場・京都会場ともに50名(いずも事前申し込み・先着順、締切は開催日3日前)
申し込みは下記の連絡先へメールにて以下を記載の上、お申込みください。
○件名:ユネスコワークショップ(福岡または京都と希望会場を記入)
○内容:氏名(ふりがな)、所属、連絡先メールアドレス、共催学会会員の有無
1960年、2015年ユネスコ博物館勧告を読んで気になること、
林菜央さんに聞きたいこと
8.参加費
無料
9.連絡先
〈福岡会場〉ふくおか博物館人材育成事業実行委員会事務局 事務局長 緒方 泉
〒813-8503 福岡市東区松香台2-3-1 九州産業大学
電話 092-673-5160
Email nuseum03@ip.kyusan-u.ac.jp
〈京都会場〉ICOM京都大会準備室 主任 渡邉 淳子
〒605-0931 京都府京都市東山区茶屋町527 京都国立博物館内
電話 075-561-2127
Email office@icomkyoto2019.kyoto
10.プログラム
【9/17 Sun. 福岡会場】
12時30分 受付
13時00分 開会、開催趣旨説明
13時15分 自己紹介、グループワーク「ユネスコ勧告を読んで気になること」
14時00分 「2015年ユネスコ博物館勧告策定までの経緯と今回の勧告の注目点」
林 菜央(ユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任)
14時30分 休憩、コーヒーブレイク(参加者名刺交換)
15時00分 演習1「林さんに何でも質問してみよう」
15時40分 演習2「2015年ユネスコ博物館勧告を踏まえ、今後の博物館像を考える」
16時30分 ふりかえり
17時00分 閉会
【9/18 Mon. 京都会場】
12時30分 受付
13時00分 開会、開催趣旨説明
13時15分 「1960年ユネスコ博物館勧告と日本国内の反応」
井上 由佳(文教大学国際学部、日本ミュージアム・マネージメント学会員)
13時45分 「2015年ユネスコ博物館勧告策定までの経緯と今回の勧告の注目点」
林 菜央(ユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任)
14時40分 「ユネスコの条約・勧告・宣言等」
14時50分 休憩
15時00分 ワークショップ進行:林浩二・染川香澄(日本ミュージアム・マネージメント学会員)
活動1「博物館でやっていること、やりたいこと」
16時00分 活動2「2015年ユネスコ博物館勧告をどう生かすか」
16時30分 ふりかえり
17時00分 閉会
JUGEMテーマ:北欧旅行
2016年11月後半、ノルウェーに行ってきましたので、その時の旅行情報をメモしておきます。行き先は、南部ベストフォル Vestfold 県のサンデフィヨルド Sandefjord とテンスベルク Tønsberg、それからオスロ Oslo です。ノルウェークローネは13円で計算しています。
お金と両替
両替はしませんでした。支払はすべてカードで済みました。現金引出機を見かけたのはオスロ中央駅のみです。カードが使えるか心配だったのは路線バスでしたが、長距離バスもサンデフィヨルドの路線バスもバスの中でカード支払が可能でした。国鉄の駅のトイレは有料で10–20kr(130–260円)ですが、これもカードが使えます。というか、カードのみ使用可というケースがほとんどです。地下鉄(郊外電車)や路面電車(トラム)は事前に切符を購入するシステムなので、車内での支払自体がありません。もちろん券売機でカードは使用可能です。ちなみにトイレ20krというのはオスロ中央駅で、馬鹿高いと思いつつ、青い光の独自空間を見て、とりあえずなっとく。オーロラのイメージなんでしょか。
思うに、ノルウェーは独自通貨クローネ kr NOK を使用していて、現金は自国のみの流通。現金を持つ価値があまりないのかも知れないと想像しています。
天気
ノルウェーでの旅行期間は2016年11月17–23日でした。この間、ずっと雨でした。もっとも一日中降っているわけではなく、どんよりとした曇り空で、ときどき時雨(しぐれ)るという感じ。ただ、降り方はけっこう強いこともありました。青空を見たのは2回。日射し、つまり直射日光や影を見たことは一度もありません。聞くと、このノルウェー南部の天気は11月が最悪だそう。そもそも昼間の時間が身近く、太陽も高く昇らず低空飛行で、ずっと曇りの夕方のような感じ。クリスマスの飾り付けやイルミネーションに力を入れるのもよくわかります。
食事と食べ物・飲み物
ひとりで旅行していると、食事に困ることがあります。ちゃんとしたレストランに入る気もおきなくて、ファストフードや、日本であれば丼物や定食という定番があります。が、ノルウェーは食事がとりわけ貧弱で、暖かいものや汁物がないのです。ホテルの朝食はバイキングです。そもそも、火を使った、つまりその場で料理したものは、スクランブルエッグ、ベーコン、ジャガイモとソーセージ、これくらいです。そして、保温をしない。そのなかで暖かいものはコーヒーのみ、ということも普通にあります。
物価が高く、サンドウィッチが作り置きの冷たいものが50–60(715–780円)、サブウェイのハーフサイズ=15cmも55–65kr(715–845円)くらいです。バーガーキングのチキンフィレセットが85kr(1105円)くらい、夕食も、午後7時半になると弁当が半額なんてのもない。他の国では、デパ地下やスーパーで暖かい総菜が売っていますが、それが無い。かろうじてオスロ中央駅でサラダの量り売りがあり、ローストビーフやチキン、温野菜も選べました。もちろん肉や温野菜も冷蔵です。たくさん盛ってまあ満足したら102kr(1326円)比較的手頃な値段と内容だったのが、カット野菜とトマトでした。レタスやサラダ菜が中心のカット野菜は、たっぷり2人分あって、たしか25–30kr(325–390円)くらい、トマトは小さくてミディトマト2–3個分の皮の固いピーマントマトが2kr(26円)程度と目方でいっても日本より安いくらいでした。
たんぱく質は、薄切りハムの仲間のなかに、ローストビーフや煮豚のような肉そのものも100g入り25–28kr(325–364円)くらいで入手できました。朝食の薄切りソーセージが塩辛く、辟易していたので、ありがたいものです。お値段はkr。これにビールを買って部屋で食べてました。
ビールは330ccが20–25kr(260–325円)ほどで日本よりは高額ですが、それほどでもない。いかに日本のビールの税金が高すぎるのか、よくわかります。飲物は、水は安かったです。1.5リットルのペットボトルが10kr(130円)ほどでした。正確には本体8.9kr、+Pant(容器代預かり金)2.5krです。ちなみに缶ビールの+Pantは一律1krのよう。コーヒーは高くなく日本のスタバとおなじか、やや高いくらいの印象です。オスロ空港の搭乗待合室の売店でカプチーノ27kr(351円)でした。
古書店
オスロでは古書店に2つ入りました。古本屋というよりアンティーク書店といった感じの店です。検索して見つけておいた Bjørn Ringstrøms Antikvariat は目的地にはありませんでした。店舗跡のみで、廃業なのか移転なのかはわかりません。
実際に購入した書店は国立美術館のすぐ南の Norlis Antikvariat で、目当ての本の一部を購入、無かった本について訪ねて教えてもらったのが Adamstuen Antik でした。両方ともオスロ中央駅からトラムで行けます。ノルウェー語での古書店共通サイトがあるようで、在庫を聞くとネットで調べていました。値段もそれを見て伝えてくれた場合があるので、雇われ店主の情報源なのかも知れません。価格の平準化にも役立っていそうです。
ノルウェー語
自分はまったくわかりません。が、経験したことは2つ。ひとつは、til Bergen と1つ前置詞を使っただけなのに空港の係員がノルウェー語でばんばん話してきたこと、それから、ありがとう takk を使うととてもいい笑顔を返してくれることです。英語が比較的通じるノルウェーでも、自国語を話してくれるとうれしいんでしょうね。takk の発音はタックと表記するのですが、自分にはむしろタッキ(子音のみ)と聞こえます。簡単なので、使っていきたいです。
バスや電車のなかは誰もしゃべらずスマホに夢中、しんとした車内ですが、話す場所では饒舌なノルウェー人。抑揚が独特、文字通り息を飲む相づちなど、気取らないあたたかな言葉だと思えてきました。
]]>JUGEMテーマ:ロシア
2016年7月16–20日に札幌から樺太(サハリン)に行ってきました。気付いたことなどいろいろ。
パック旅行
目的は樺太南部への簡単な野外調査でしたが、ユジノサハリンスクから日帰り可能と聞いてフリープランのパック旅行(C1-2225)にしました。観光ビザだと宿泊地がホテルに固定されてしまいますが、旅行会社が発行してくれます。もし、野外泊やホテル以外での宿泊が必要になると専用のビザが必要になって事前の手続が面倒です。今回使ったのはJIC旅行センターでロシア方面を得意とする会社です。値段は、千歳からユジノサハリンスクまでの往復航空券75000円と空港税(新千歳)1030円、ホテル4泊(朝食付き)、ビザ実費4000円&発行手数料5400円、1人料金2万円、空港からの送迎をすべて含んで165,230円でした。引き算するとホテル代+送迎+企画料は79800円となります。ちなみにパック旅行の参加者は自分1人でした。
両替とカード
千歳空港のTravelexの円からルーブルへの交換レートは1ルーブル=2.8円。為替市場では1ルーブル1.6円だったからえらく悪いレートです。これがドルだと110円(7/15のレートが105円)。やはり日本国内での両替でレートが納得できるのはドルだけと再度思いました。以前、ノルウェークロナに換えたときも悪かった。わかっていながら国内で両替したのは、行きが土曜日でしかも到着が夜10時だったから。実際、ユジノの空港ではATMを見つけられませんでした。ホテルには24時間稼働のATMがあったのですが、電気が消えていて帰る日まで動いてなかったです。ただし、市内のスーパーマーケットやショッピングセンターにはATMがあり、レジでカードが使えるようです(自分は使っていない)。
ホテル
泊まったのはガガーリンホテル。部屋は広くてきれいで、ベッドも固くてよかったです。ドライヤーとバスローブ、冷蔵庫、電気ケトルあり。けれども、部屋のあちこちが、いちいち気が利かない。照明のスイッチが枕元にない、電気ケトルはあったがコンセントが近くに見当たらず、ベッドの横の床で湯を沸かす。エアコンは部屋で操作できる独立方式だが、音がえらくやかましい。バスルームの換気扇もうるさい、などなど。ただ、朝食はブッフェ方式で日替わりでおいしいかったです。コーヒーは薄くて物足りなかったけれど。ただひとつ問題があり、ネットでうわさどおりの大音量のカラオケが凄まじい。床も壁も振動して、ガラスがびびるほどでしたが、これは初日土曜日の深夜12時でぴたっと止んで、それ以降は静かでした。
物価
外食は日本並みの価格で、現地の所得を考えると非常に高い印象です。韓国料理のチゲ鍋とかクッパが480ルーブルくらい。デパート?のロシア料理のカフェテリアで5品とったら500ルーブルを越えてしまいました。ファストフードのコーヒー100ルーブル。カフェラテ120ルーブル、紅茶は50ルーブル。ドーナツ50ルーブルから。カフェラテはコーヒーが薄口。菓子や清涼飲料水もちゃんと覚えていませんが高いですね。ポテチが一番安くて普通サイズ70ルーブルくらい。一方、ビールは安くて500ccで60ルーブル。
バス
市内の路線バスは頻繁に走っていますが、時刻表も系統表示もありません。ですが、バス停に人があふれることもなく、平日の昼間であれば、ちょっと待てば乗れるようです。夜や休日は使っていないのでわかりません。「シチモール」から中心部まで20ルーブルでした。路線図は市内地図、稚内市のウェブページ掲載のとおなじ、に載っていました。「ユジノサハリンスク市内の路線バス(2014年7月28日)/稚内市」
http://www.city.wakkanai.hokkaido.jp/sangyo/saharin/yousu/report_on_20140728.html
交通と観光案内のウェブサイトは「Sakhalin Travel Information - サハリン観光旅行案内 - Ekinave」がよいと思います。 http://ekinavi-net.jp/sakhalin/index.html
買い物
スーパーマーケットがあちこちにあるので、言葉抜きで買い物ができます。24時間営業の店もありました。入りませんでしたが、ドラッグストアも数多くあります。コンビニは見なませんでした。ユジノサハリンスク駅北側のガイドブックでいう自由市場やその周辺は、デパートからダーチャで摘んできたようなイチゴを売る人までいろいろで面白かったです。他方、大きい本屋が見当たりません。郊外の最大のショッピングセンター「シチモール」にも行きましたが、書店は絵本と学習参考書が大半で、おとな向けはベストセラー志向の読み物ばかり。田舎の本屋の典型といえばそうですが、人口18万人にしてはさびしすぎる印象です。
その他
ツバメは中知床岬の途中で何羽か見ました。アマツバメはユジノ市街にたくさんいて、アパートの軒から中に入って巣を作っています。ササは中知床岬の半島では見ませんでしたが、ユジノ東のスキー場(旭が丘)のわきにはまばらにありました。以上です。
]]>近藤典生 1915–1997 はマダガスカルを日本に紹介し、南米からマナティーを持ち帰り、動物園に景観と柵無し展示を導入したパイオニアです。1960–70年代には異境を歩いた探検研究者として知られ、百貨店での展示会を100回以上開催、テレビやラジオなどのメディアに登場し、少年少女向けの生物記事を多数執筆監修しました。知らず知らずのうちに近藤の文章に触れ、生き物の不思議や遠くの世界に夢を馳せた人も多かったと思われます。すっかりおなじみとなったキツネザルやカピバラは、近藤が飼育の先鞭を付けたものです。檻や柵を無くした自然動植物公園「バイオパーク」を実現する一方、生き物を資源として見る視線も持ち合わせており、しかも飼育には水やエネルギーの投入量を減らし、現状の地形を生かすなど、近藤の考える共生は現在の環境思想を先取りしたものでした。
今春、にわかにイルカ飼育の是非が問題となりました。近藤典生が導いた自然動植物公園は、そのひとつの回答になっていると考えています。
まず児童に飼育放流させる予定の小学校に話をした。こちらが問題にしたのは2つ。ひとつは他所の個体群が入り込むことの遺伝子汚染。もうひとつは誤った認識のまま子どもに飼育放流させるのは教育上問題で、当事者となった子どもたちが将来後悔するであろうこと。当の校長は、ホタルの放流が遺伝子汚染を引き起こすことも移入種だということも認識がなく、いいことをしているとばかり思っていた。なにしろ放流するのがゲンジボタルかヘイケボタルかさえも知らなかった。子どもと教員の理科離れが話題となっていた頃なので、学校教員の見識に愕然としたものだ。当時のメールに「理科教育の現実を見てしまったようでとても将来が不安です。とにかく当事者になりたくないようで、訪問はいやがられました」などと書いている。そして「地域全体で盛り上がっているようで、もう後戻りできない」ような口ぶりだった。しかしながら、こちらの懸念は理解してくれ、放流は取りやめるという決断をなされた。後戻りしてくれたのだ。
ついで、放流を予定している団体の責任者に連絡をしたら、会って話を聞いてくれるという。これは驚きだった。放す放さないで交渉相手となった人物は、とても立派な方だった。背筋は伸びて背も高く、おそらく仕事でも実績があるのだろう、日に焼けた堂々とした紳士だった。おそらく70代だろうか、経験に裏付けられた自信に満ちていて自分なんかとても敵わない。その人が言う、世間ではおなじヘイケボタルとなっているんだからいいだろう。この人は個体群や遺伝子汚染のこともわかっている。知った上での確信犯なのだ。そして語った次の言葉が忘れられない。人間は他の生き物を移動させたり生かしたりする権利がある、と。農家ならではの実感なのだろう。適した植物や優れた動物を他所から持ってきて改良していく。農業こそ外来生物で成り立っているのだ。外来種の否定は究極には農業の否定につながることを見抜いていた。
疑問に思ったのは、なぜホタルの放流を思いつくに至ったかということだ。放流の主体は、資源保全協議会といって地域の美化運動を行っている団体。合併前の旧農協を単位に組織された地域団体だという。それを農林水産省は手放さない。「わが村は美しく」と題して景観を題材に競わせている。一線を退きはしたが、まだまだ元気な高齢者の勤労意欲を上手に使っているのだ。しかし、中身については自主性に任しているといって責任はとらない。ガイドラインもない。そうすればエスカレートするのが世の常で、あっちはトンボ、こっちはホタル、向こうの道には千本桜と定型化されたふるさと景観が次々に誕生していくことだろう。
北海道の農村景観は補助金事業でキャラ付けされたものだ。農地の形状や建物はそれでもよい。その傍らの生きてきた野生生物を未来永劫巻き添えにするのだけはやめてほしい。
]]>それに、ちょうど1か月語の11月15日には捕鯨サミットが開催され、聞き書きの著者も登壇する。その著者にではなく、自分が指名されたのだから、別の切り口が求められているのではないか。ありきたりの話をしたら「そんなことは知っている。すでに本に書いてある。もっと別のことを聞きたかった」と言われるのではないか。そんな思いから、だれも知らない資料や写真を集め、ウェブページを見まくって、知り合いからもデータを提供してもらい、どうだこんなの初めて見ただろうというスライドをセットした。でも、これが大きな勘違いだった。求められていたのは、オーソドックスな歴史の話だったのだ。IWCの鯨の定義や国際裁判所の指摘事項、主要国の脱捕鯨への転換点など触れなくてもよかった。高齢者はすでに知っている話を聞きたがる。待ってました、ここで一番決めぜりふ、てな話がよかったのだ。こんなことは十分承知のはずだったのに。
タイトルからすれば話の内容は歴史が中心に見える。しかし、実際の話は「捕鯨を巡る状勢変化と現状を知り、網走の捕鯨産業の将来展望を描いてみる」といった内容で、歴史の話は比重としては軽かった。看板に偽りがあったのは確かだった。自分の話は、導入にシーシェパード主演のディスカバリーチャンネル「鯨戦争」を持ってきて、こんな過激な集団が賑わしているが、我々捕鯨の地元住民が知るべきことはあれとこれでとあっちこっちに話が飛んで、昔の写真が出たと思ったら鮎川や紀伊大島でがっかりして、最後の網走が捕鯨基地として再出発するにはなんてまったくの独り善がり、参加者はそんなことには興味がなかった。
今回話すべきだったのは網走に限った近代捕鯨の歩み。その構成は、タンネシラリに捕鯨会社がやってきた、世界一の東洋捕鯨、5年で終わった大正の捕鯨、市街地に移転し昭和の再操業、捕獲鯨種と捕獲数の変遷、小型捕鯨業の始まり、写真と映像に見るミンククジラ漁、商業捕鯨モラトリアムの影響、ツチクジラ漁で再出発、復活した網走船籍の捕鯨船といったところ。写真は絵はがきなどよく知られたもので十分で、その説明を聞きながらスクリーンでじっくり見ることが必要だったのだ。事業場とその跡地はグーグルアースと事業場の設計図を重ねるのではなく、跡地の現状はこれですよと道路端から見た風景、そして博物館に残る捕鯨資料といったところだろう。そんなの行けば見られるじゃないか、と思ってしまうが、車がなく歩くのにも不自由する年代になれば、そうそう行けるものではない。常設展示室に何十年も置かれた資料だって、見たことがなければ初めて見るめずらしいものになるのだから。
それから配付資料の説明が不十分だったのも悪かった。だいたい資料の案内をしたのが話の後半になってからで、重要点を示すことさえしなかった。だって読めば分かるだろうそんなもの。そういう風に作ってある。スライドに投影された文字を読み上げることも少なかった。読まなくても見たらわかるでしょう。75分の話に100枚を越えるスライドを詰め込んだのだから、時間は有効に使わなくてはならない。そんな風に思っていたのだろう。
あまりに思いやりに欠けた講演だった。もっとじっくりとスライドを見つめ、興味や関心がわき出すまで待つ時間が必要だった。ゆっくりゆったり思い出と過ごせるように。
]]>