ICOM総会は学芸員のオリンピックか

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    JUGEMテーマ:博物館

     ちょうど2年後の2019年9月、日本で初めての開催となるイコム大会が京都で開かれます。3年に一度の大会 general conference は、アジアでは日本より先に韓国のソウル(2004)と中国の上海(2010)で開催され、韓国ではそれを期に博物館が大きく変わったといい、中国では現在も国威発揚に大型館の建設が続いています。合理化と無理解によって冬の時代が長く続く日本でも、イコム京都大会を契機に博物館の地位向上を図ろうというのもうなづけます。ですので、文化庁や日本博物館協会、関連学界などは、かなりの人員と労力を捧げているのは当然のことでしょう。ごくろうさまです。ところが、主役となるはずの博物館や学芸員は、さほど興味があるように思えません。とりわけ、自然史や地方博物権の学芸員にとっては、なんやそれ、勝手にやってくれ、俺らには関係あらへんという雰囲気があるように思えます。

     

     イコムはすべての博物館施設をまとめる唯一の国際機関でありながら、現場の学芸員からすれば存在感もありがたみも感じない、出たいとも思わない、身近でもない、あってもなくてもよいような組織です。多くの学芸員は研究者を自負してるので、帰属意識も晴れの舞台も所属学会にあります。オリンピックに相当するのは国際学会です。ならばイコムは何か。館長や運営の立場にある人たちの交流の場でしょう。研究学芸員からすれば、優先順位は下がるのも当然です。では、運営も担う地方博物館の学芸員はどうか。トリクルダウンなぞ信じていないでしょう。京都で盛り上がったとしても、自分たちの状態なぞこれっぽちも変わらない、そもそも京都まで行く旅費も出ない、もし予算があるならば、それは研究や資料整理に使いたい、そんな感じではないでしょうか。国際交流に意味があり単純に楽しいという話もあるようですが、研究者はそれぞれの分野で実践しているのです。

     

     イコム京都大会が成功するには、現場の学芸員が開催意義に納得し、その後の博物館の処遇が良くなる道筋が見えることが必要です。それには、学芸員が積極的に策略を練り、中枢に向け発射することが必要と考えます。あと2年、せっかくの機会をうまく使っていきましょう。


    「2015ユネスコ博物館勧告を読み解く」参加報告

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      JUGEMテーマ:博物館のイベント

       9月18日に京都国立博物館で行われた「2015ユネスコ勧告を読み解く」ワークショップに行ってきました。メインの発表は、ユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任という博物館にとってきわめて重要な仕事をしている日本人によるもので、「勧告」が生み出される過程と文言に込められた思いやねらいを解説したものでした。 台風の影響が心配されたなか無事に開催されましたが、一部予定とは異なる内容でした。案内と違っていたのは、1)「1960年ユネスコ博物館勧告と日本国内の反応」は発表者が急用で欠席し進行役が代読、2)ワークショップ1活動1「博物館でやっていること、やりたいこと」はありませんでした。

       

       メインのユネスコ主任の発表は、2015年勧告の逐条解説に近いものでしたが、条文の決定までのやりとりが主語付きで紹介され、興味深いものでした。「世界における新しいミュージアム像」(ユネスコ主任)といえる2015年勧告をリードしたのはブラジルなど中南米諸国で、2011年の総会で新しい法的文書の制定を発議し、翌2012年にはブラジルで非公式会合を開催しています。中国も条文決定に積極的で、5条のコレクションでは当初パブリックコレクションだったものからパブリックを削除することをメキシコと共に提案して採択に至っています。これはプライベートな資料も保護対象にしていこうという趣旨です。ブラジルでは2015年勧告に関する国内フォーラムが開催されています。また、6条の遺産で無形の文化財を加えることは北欧諸国が主張したこと、18条の先住民族との関係はカナダの提案によるもの、などユネスコで博物館に積極的なのは非西欧ということがわかりました。なかでも中国は積極的で、2016年11月に深圳(しんせん)で開催されたユネスコハイレベルミュージアムフォーラムは、各国の国立博物館の館長クラスが参加し、公式目標として博物館を20万人に1館とすることが置かれているそうです。ほかにも、コンゴ民主共和国で国立博物館が建設されること、ガボンでの国立博物館の目録の作り直しや収蔵庫の環境改善、イランで国立博物館の目録作成やデジタル化が進められていること、クウェートで博物館セクターの改革が進められていること、カンボジアで文化財目録作成の標準化が行われていることが紹介されました。参加者からの質疑では、展示への言及が10条に限定されることが指摘されました。これは文字としてはここだけですが、展示に関わる内容は他の条文にも見られるという回答でした。

       

       事実確認が不足しており不正確な部分があるかも知れませんが、当日の話のメモでは、ユネスコのミュージアムプログラムは通常の予算はゼロ、スタッフは主任1人、通常の予算はゼロという状態。そこに中国が資金提供して、今回の日本への出張もそこから支出していることが紹介されて衝撃でした。また、ユネスコのなかでアーカイブはコミュニケーションの担当というのも意外に感じました。

       

       ワークショップは、制度と実践の2分野に別れ、6グループだったと思います。自分のテーブルは5人で、大学学芸員養成課程教員2人、文化庁関連独立行政法人1人、大阪府1人、大阪市博物館関連NGO1人でした。めずらしく自然史関係者が多く、自然史標本の位置付けなども話題になり、ちょうど居合わせたユネスコ主任も記憶してくれたようで、ワークショップのまとめでも取り上げてくれました。意見交換も面白く、それに増してとても興味深い立場や仕事をしている人と知り合えたのがとてもよかったです。華道や茶道のような「道」に関係するものは、国指定の文化財にはならないという話もここで初めて知りました。家元制度などがあり、国レベルの普遍性に欠けるということでしょうか。

       当日の発表資料が手元にありますので、興味ある方はご一報ください。

       

      以下は、日本ミュージアム・マネージメント学会事務局からの案内メールです。

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      【会員の皆様へお知らせ】
      先にお知らせした本学会共催の「2015ユネスコ博物館勧告を読み解く」
      (9月17日福岡開催、18日京都開催)ですが、
      募集定員に対し「福岡会場は残りわずか」「京都会場はまだ余裕があり」と
      いう報告がそれぞれの事務局からありましたので、お知らせします。
      会員の皆様の参加を期待します。
       *開催要項*
        http://www.kyusan-u.ac.jp/ksumuseum/_userdata/yunesukohp.pdf

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      平成29年度文化庁「地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業」
      2015年ユネスコ博物館勧告を読み解く
      −今後の我が国の博物館像を考える−

      1.趣旨
       2015年11月20日、ユネスコの第38回総会で “Recommendation on the Protection and Promotion of Museums and Collections, their Diversity and their Role in Society(ミュージアムとコレクションの保存活用、その多様性と社会における役割に関する勧告)” が採択されました。同勧告は、加盟国の政策立案担当者に向けたもので、現代における博物館の社会的役割等を示した国際的なスタンダードとなるものです。ユネスコの博物館に関する勧告としては、1960年12月に採択された“Recommendation concerning the Most Effective Means of Rendering Museums Accessible to Everyone(博物館をあらゆる人に開放する最も有効な方法に関する勧告)”以来55年ぶりで、2019年に初めて我が国で開催されるICOM京都大会でも議論されることになります。
       今回のワークショップでは、勧告策定の中心的役割を果たしたユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任の林菜央氏を招へいし、策定までの経緯について解説していただくとともに、参加する博物館関係者を交えて、勧告を踏まえた今後の我が国の博物館像を考えます。
      【林 菜央 プロフィール】
       上智大学、東京大学大学院、ソルボンヌ大学、パリ高等師範学校で古代ローマ史(帝政期属州における東方起源宗教の伝播)を、ロンドン大学アフリカ東方学院で持続的開発論を学ぶ。
       1998年より在フランス日本大使館の文化アタッシェとして勤務後、2002年以降ユネスコ文化局文化遺産部、世界遺産センター、カンボジア事務所を経て2007年よりミュージアム関連業務担当となり、2014年より主任となる。開発途上国での世界遺産及びミュージアム支援事業に多数関わる他、2015年にユネスコ総会で採択されたミュージアムに関する国際勧告の起草から最終的な採択までのプロセスを一貫して担当。
       現在は勧告の執行を奨励するため2016年に設立されたユネスコハイレベルミュージアムフォーラムのコミッショナーを務めるほか、加盟国に対する幅広い政策支援を行っている。

      2.日時
        〈福岡会場〉平成29年9月17日(日)13時〜17時(受付:12時半から)
        〈京都会場〉平成29年9月18日(月)13時〜17時(受付:12時半から)

      3.会場
        〈福岡会場〉九州産業大学グローバルプラザ(福岡市東区松香台2-3-1)
        〈京都会場〉京都国立博物館平成知新館講堂(京都市東山区茶屋町527)

      4.主催
        ICOM京都大会組織委員会、ICOM日本委員会、公益財団法人日本博物館協会、京都国立博物館、九州産業大学、
        ふくおか博物館人材育成事業実行委員会(九州産業大学美術館、九州大学総合研究博物館、福岡市博物館、福岡市美術館、海の中道海洋生態科学館、田川市石炭・歴史博物館、直方谷尾美術館)

      5.共催
        日本ミュージアム・マネージメント学会、全日本博物館学会、日本展示学会

      6.後援
        全国大学博物館学講座協議会

      7.参加対象、人数、申し込み
        博物館関係者、芸術文化・社会教育行政関係者、大学教員、学生
        (1960年、2015年のユネスコ博物館勧告を必ず読んで参加すること)
        福岡会場・京都会場ともに50名(いずも事前申し込み・先着順、締切は開催日3日前)
        申し込みは下記の連絡先へメールにて以下を記載の上、お申込みください。
       ○件名:ユネスコワークショップ(福岡または京都と希望会場を記入)
       ○内容:氏名(ふりがな)、所属、連絡先メールアドレス、共催学会会員の有無
           1960年、2015年ユネスコ博物館勧告を読んで気になること、
           林菜央さんに聞きたいこと

      8.参加費
        無料

      9.連絡先
      〈福岡会場〉ふくおか博物館人材育成事業実行委員会事務局 事務局長 緒方 泉
             〒813-8503 福岡市東区松香台2-3-1 九州産業大学
             電話 092-673-5160
             Email nuseum03@ip.kyusan-u.ac.jp

      〈京都会場〉ICOM京都大会準備室 主任 渡邉 淳子
             〒605-0931 京都府京都市東山区茶屋町527 京都国立博物館内
             電話 075-561-2127
                Email office@icomkyoto2019.kyoto

      10.プログラム
      【9/17 Sun. 福岡会場】
       12時30分 受付
       13時00分 開会、開催趣旨説明
       13時15分 自己紹介、グループワーク「ユネスコ勧告を読んで気になること」
       14時00分 「2015年ユネスコ博物館勧告策定までの経緯と今回の勧告の注目点」
             林 菜央(ユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任)
       14時30分 休憩、コーヒーブレイク(参加者名刺交換)
       15時00分 演習1「林さんに何でも質問してみよう」
       15時40分 演習2「2015年ユネスコ博物館勧告を踏まえ、今後の博物館像を考える」
       16時30分 ふりかえり
       17時00分 閉会

      【9/18 Mon. 京都会場】
       12時30分 受付
       13時00分 開会、開催趣旨説明
       13時15分 「1960年ユネスコ博物館勧告と日本国内の反応」
              井上 由佳(文教大学国際学部、日本ミュージアム・マネージメント学会員)
       13時45分 「2015年ユネスコ博物館勧告策定までの経緯と今回の勧告の注目点」
              林 菜央(ユネスコ文化セクター・ミュージアムプログラム主任)
       14時40分 「ユネスコの条約・勧告・宣言等」
       14時50分 休憩
       15時00分 ワークショップ進行:林浩二・染川香澄(日本ミュージアム・マネージメント学会員)
             活動1「博物館でやっていること、やりたいこと」
       16時00分 活動2「2015年ユネスコ博物館勧告をどう生かすか」
       16時30分 ふりかえり
       17時00分 閉会