学芸員養成課程の重要用語

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    JUGEMテーマ:博物館

     博物館や学芸員にとって必須の重要語とは何で、いくつくらい存在するのだろう。

     研究の進展に伴い専門用語や概念語は増加の一方である。その結果、学校教育の現場でも生徒への負担が増加し、とくに生物や歴史はいわゆる暗記科目との偏見が助長される。そこで学会や学術団体では高校教育段階での重要語を絞り込むことを提案している。たとえば、日本学術会議では、「高等学校の生物教育における重要用語の選定について」という報告を2017年9月に提出している。用語の表記のあり方も議論し、英語も対照されている。

    http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-h170928-1.pdf  833KB

     歴史分野では、高大連携歴史教育研究会が「高校教科書および大学入試における歴史系用語精選の提案(第一次)」を提案。約2000語に精査したものという。

    http://www.kodairen.u-ryukyu.ac.jp/pdf/selection_plan_2017.pdf  1.6MB

     

     学習用語の見直しと選択は、教育内容を支える研究の発達に従い、何十年かに1度は必要な作業である。では、学芸員養成課程での用語選択はどうなのか。Google の検索では「"学芸員養成" "重要用語"」は7件のみ。「"博物館" "重要用語"」だと2200件だがノイズばかり。実際、学芸員養成での重要用語や概念の議論はほとんど聞かない。博物館は多様なので、業界内部でも分野ごとに使い方が違っていたりする。これは混乱のもとだ。たとえば展示と陳列、模造とレプリカ、ジオラマとミニチュア。古い時代の訳語は見直しが必要かも知れない。それから復元と想像復元。想像は格好悪いから想定復元? 復元では著作者や制作者名の表示は必要か、など用語と概念を精査すれば、実際の使用現場における突っ込んだ議論が必要になる言葉もある。展示会社と学芸員では呼び方がずれていることも感じる。展示パネルは展示資料を据え付ける板なのか、図や説明を記した解説板なのか。展示業者は前者で解説板はグラフィックと略す。学芸員は後者の意味で使う、あるいは場面によって同じ語を異なった意味で用いているのではないか。

     教科書としては国際標準のICOMの「Museum Basics」があるが、ここに現れる用語の日本語訳も学会などが公式訳語をリストにするなど標準化が必要のはずだ。すでにあるのだろうか。ウェブサイトでは、重要語を21取り上げて詳しく解説した Key Concepts of Museology が日本語を含む多言語で公開されている。これは2010年の ICOM 上海大会に合わせて出されたもの。自省的な前書き部分が興味深い。

    http://icom.museum/professional-standards/key-concepts-of-museology/

     

    このことは、水嶋英治. 2012. 研究は蓄積と国際的視点に立って―グローバリゼーションとグーグリゼーション―. 日本ミュージアム・マネージメント学会研究紀要, 16: 1–3. で知った。インターネットでのPDFはありがたい。「"博物館" "重要用語"」の検索で一番上に現れる。

     日本の博物館業界でも学会作成の事典がある。しかし、誰が何時どのような状況で使うのかといった使用場面の想定が不足していると感じる。少なくとも学部生を意識した内容ではないように思う。全国大学博物館学講座協議会(全博協)で議論して、現場や学会の意見も聞いて、用語統一と養成課程での絞り込み、していきたいです。

     ちょっと別の話だが、漢字文化圏での表記の統一や標準化もできるなら目指したい目標だろう。たしか、「2009 ICOM-ASPAC 日本会議」あたりで議論されていたと思うが探し出せない。2019年のICOM京都大会のテーマになるのだろうか。こういった思いつきはどのルートで上げれば取り上げてもらえるのだろう? ICOM事務局関係者を知っていれば、直接言えばいいのだろうが、重要メンバーに知り合いがいない人が提案する方法がわからない。ウェブなどで意見募集すればいいのに。だいたい京都大会のウェブサイトは英語版のみ。

    http://icom-kyoto-2019.org/index.html

     個々のページの工事中はしかたないとして、国内の博物館や学芸員に向けて日本語版を早く!

     


    学芸員養成課程の減少状況の比較

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       もはや時期外れであるが、学芸員養成課程の減少状況を比較してみた。用いた資料は、下の文部科学省のウェブページである。

      「学芸員開講大学一覧」(平成21年4月1日現在)345大学

      「学芸員開講大学一覧」(平成24年4月1日現在)297大学

      学芸員養成課程開講大学一覧(平成25年4月1日現在)300大学

      このうち現在掲載されているのは平成25年版のみである。

      http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/gakugei/04060102.htm

      年度による比較はpdfにまとめたので参照ください。

      http://www.bioindustry.nodai.ac.jp/~muse/unisan/files/gakugei_hensen.pdf

       

       以下、2009(平成21)年と2013(平成25)年で比較する。ただし、2012年と2013年の間の新設は秋田公立美術大学と石巻専修大学の2校、廃止は神戸ファッション造形大学1校のみである。福岡教育大学は2012年のみ掲載がない。

       国立大学は63校から57校と6校減少。廃止した大学の分布は、宮城、秋田、栃木、新潟、滋賀、香川、長崎から各1校であり、地域的な偏りは見られない。強いて言えば、首都圏や京阪神など大都市圏では廃止がなかったということか。しかし、後述のように公立大学や私立大学と合わせて見ると異なる状況が現れる。ところで、文部科学省のウェブページでは2009(平成21)年の名簿に一橋大学の名前が無い。一方、一橋大学のウェブサイトによると、同大学大学院言語社会研究科では2002年から学芸員資格取得プログラムを開講したとあるので、名前が無いのは間違いだろうか。また、福岡教育大学が2012年のみ前がないのも誤りかも知れない。国立大学では教員養成系学部での廃止が目立つように思う。

       公立大学は21校から20校と1校減少、ほぼ横ばいである。が、新設3校は秋田、群馬、静岡(私立からの移管)とすべて東日本、廃止4校は大阪、岡山、高知、長崎とすべて西日本で、東西で状況は大きく異なる。とくに長崎県では、国公立大学では学芸員の資格が取れなくなってしまった。

       私立大学は236校から214校へと22校、約1割の減少である。出入りが多く、廃止大学は、北海道2、千葉2、東京4、神奈川1、山梨1、静岡2(1校は公立に移管して課程は継続)、愛知5、三重1、京都1、兵庫5、和歌山1、岡山1、広島2、山口1、香川1、愛媛1、福岡1、熊本1の33校であり、東西日本での比較では静岡以東12校に対し、愛知以西は21校と西日本で多い。新規開設校は、宮城1、埼玉2、千葉2、神奈川2、京都1、兵庫2、福岡1の11校であった。このうち神戸ファッション造形大学は2013年に、神戸夙川学院大学は2015年に廃校となっている。首都圏では廃止も新設も多く、大学の絶対数からすれば愛知と兵庫の減少が目立つ。東北や北関東での廃止がない一方、中国地方では4校で課程が消えた。

       短期大学は最も大きな変化を見せ、24校が8校にまで減少した。もともと短大での学芸員養成課程は学芸員補の任用資格であり、存在自体が危ぶまれていた。それにしてもここまで減少したのは、課程の廃止に加えて4大への改組など学校自体の改廃もあるのだろう。残った8校の分布は、北海道1、福島1、栃木1、京都2、大阪2、福岡1で、公立大学とは対照的に関西に多く残っている。

       文部科学省のウェブデータは大学ごとの設置状況であり、学部単位では、さらに状況は厳しい。北里大学では青森県にある獣医学部で2012(平成24)年度入学者から学芸員は取得できなくなった。北海道の酪農学園大学、神奈川県の麻布大学、そして大阪府立大学と獣医系の学部学科では3大学で養成課程がなくなり、獣医師でかつ学芸員の資格を取得できる大学が激減した。なお、酪農学園大学と大阪府立大学、岡山県立大学の課程廃止は、1年早い2011年度入学者からである。予見されていた地方の小規模校での廃止は中国地方に目立つ。加えて、成蹊大学や創価大学など東京の有名大学での廃止はショッキングである。

       学芸員養成課程の改廃の動きは進行中で、鹿児島大学農学部では2017(平成29)年度入学者から学芸員課程は廃止された。

      http://ace1.agri.kagoshima-u.ac.jp/topics_news/2017/02/post-119.html

       大阪教育大学でも養成課程は2020(平成32)年度までとなっている。同大学では博物関係論の開講は今年度(2017)までという

      https://osaka-kyoiku.ac.jp/_file/renkei/kenkyo/seika/h29_1j/22.pdf

       来年度以降は移行措置、今年度からの入学者は学芸員資格は取得できない。

      https://osaka-kyoiku.ac.jp/faculty/kyomu/kyouinnmennkyoshikaku.html

       文化財の活用を目指すのであれば、学芸員、とくに地方における学芸員は重要になると考えるが、養成課程の減少はいかがなものか。資格としての学芸員の技能と存在を強く訴えていきたい